プレスリリース
暖地向きナタネ新品種「ななはるか」

- 成熟期が早く、食用油に適する -

情報公開日:2014年2月13日 (木曜日)

ポイント

  • 成熟期が早く、暖地での栽培に適しています。
  • 油中にエルシン酸1)を含まないため食用油に適しています。
  • 圧搾油2)の食味が良好です。

概要

  • 農研機構は、暖地での栽培に適した無エルシン酸のナタネ新品種「ななはるか」を育成しました。
  • 「ななはるか」は油中にエルシン酸を含まないので食用油に適しています。
  • 現在、関東以西における主力品種である「ななしきぶ」3)は、九州南部のような暖地で栽培すると、収穫期が梅雨に当たるため、穂発芽4)による子実品質の低下や収穫作業の遅れなどが問題になっていました。「ななはるか」は「ななしきぶ」より成熟期が早く、このようなリスクを回避できると期待されます。
  • 「ななはるか」を用いた圧搾油食味は良好で、「ななしきぶ」と比較して"やや良"と評価されています。
  • 栽培適地は九州南部地域であり、鹿児島県内において30haの作付が見込まれています。

関連情報

予算:
運営費交付金(平成7~24年度)
麦等の新用途・高品質畑作物品種と利用技術の開発(平成8~10年度)
転作作物を中心とした高品質品種の育成と省力生産技術の開発(平成11年度)
水田の潜在能力発揮等による農地周年有効活用技術の開発「1系 冬期の水田活用を促進する高品質な冬作物品種の開発」(平成22~24年度)
品種登録出願番号:第28550号


詳細情報

新品種育成の背景・経緯

   九州地域における2012年産ナタネの作付面積は283haで、全国の18%を占めています。栄養学的な観点からナタネ油には無エルシン酸品種が望まれていますが、九州南部に適した無エルシン酸品種はありませんでした。このため、温暖地向きの無エルシン酸品種である「ななしきぶ」の栽培が九州南部においても行われています。しかし、「ななしきぶ」は成熟期が遅いために、九州南部のような暖地では収穫期が梅雨にあたり、穂発芽による子実品質の低下が生じることが多く、搾油業者にとって深刻な問題となっています。また、降雨による収穫作業の遅れにより、後作との作期競合が発生しています。

   そこで、農研機構では、より早く成熟する早生の無エルシン酸ナタネ品種の育成を目的として、早生で多収のエルシン酸含有品種「チサヤナタネ」に、中生で倒れにくい無エルシン酸系統「盛脂148」を交配して、選抜を重ねて、暖地向きナタネ新品種「ななはるか」を育成しました。

新品種「ななはるか」の特徴

  • 育成地(岩手県盛岡市)において、「ななはるか」は「ななしきぶ」より4日、「キザキノナタネ」5)より9日成熟期が早い品種です(表1)。栽培適地の鹿児島県内においても、「ななしきぶ」より4日早く成熟期に達します(表2)。
  • 草丈は、育成地において「ななしきぶ」より15cm低いですが(表1、写真1)、鹿児島県内においてはほぼ同じです(表2)。
  • 耐倒伏性は"やや強"、菌核病6)抵抗性は"やや強"、寒害抵抗性、雪害抵抗性はともに "中"です(表1)。
  • 鹿児島県内において、「ななはるか」の子実重は、「ななしきぶ」よりやや少ないながら、含油率がやや高く、収油量はやや少ない~同程度です(表2)。
  • 油中にエルシン酸を含まないので食用油に適しています(表1)。また、実需者および育成地における食味試験において、圧搾油の食味は「ななしきぶ」より"やや良"と評価されています(表3)。

品種の名前の由来

   「ななはるか」の「なな」は菜の花を、「はるか」はナタネ畑が一面に広がっている様子を意味しています。

今後の予定・期待

   鹿児島県内において30haの作付が見込まれています。今後、暖地における子実品質の安定化と作付面積の拡大、および地域産業に貢献する製品開発が期待されます。

種子の入手に関するお問い合わせ先

農研機構東北農業研究センター 企画管理部 業務推進室 運営チーム
Tel:019-643-3443 Fax:019-641-7794

利用許諾契約に関するお問い合わせ先

農研機構 連携普及部 知財・連携調整課 種苗係
Tel:029-838-7390 Fax:029-838-8905

用語の解説

1) エルシン酸
脂肪酸の一種で、旧来のナタネ品種の油中に多く含まれています。エルシン酸を含む油を大量摂取すると心臓に疾患を生じる可能性があるので、食用油には無エルシン酸品種が望ましいとされています。

2) 圧搾油
圧搾法(ヘキサンなどの溶媒を用いずに、物理的にかけた圧力のみで搾り取る方法)で絞られた油のことです。一般的に、圧搾油は精製度が低く、風味や色が強いという特徴があります。

3) ななしきぶ
2005年に農研機構東北農業研究センターで育成された無エルシン酸品種です。「キザキノナタネ」より成熟期が早く、関東以西で栽培されています。

4) 穂発芽
収穫期に降雨がある場合に莢の中で子実が発芽してしまうことです。含油率の低下など子実の品質低下の原因となります。

5) キザキノナタネ
1992年に東北農業試験場(現:農研機構東北農業研究センター)で育成された無エルシン酸品種です。多収で、北海道および東北地域で多く栽培されています。

6) 菌核病
糸状菌(カビ)によって発生する病害です。ナタネがこの病気にかかると、花が咲き終わった後、茎の根元が黄化し、倒れやすくなってきます。病状が進行すると、最後には植物体全体が枯れてしまいます。対策としては、農薬の使用や輪作あるいは畦間を広くして通気をよくする等の耕種的防除が行われています。

表1 育成地(岩手県盛岡市)における生育調査結果(2004~2012年) 表2 鹿児島県農業開発総合センター大隅支場における試験成績(2010~2012年)および鹿児島県東串良町における現地試験成績(2011~2012年) 表3 「ななはるか」の圧搾油を用いた食味試験成績 写真1 草姿