プレスリリース
田畑輪換1)により大豆を作付けた水田の地力(ちりょく)2)低下の実態と維持改善法を公表

- 堆肥施用と適切な大豆の作付頻度3)で地力を維持するためのポイントを解説 -

情報公開日:2014年4月 8日 (火曜日)

ポイント

  • 田畑輪換により、大豆を作付けた水田で土壌の作物生産能力である地力が低下している実態と、地力維持改善方法のポイントをまとめたリーフレットを作成しました。
  • 本リーフレットの利用により、東北日本海側(積雪寒冷地)の灰色低地土4)水田の地力を適正レベルに維持することができます。

概要

  • 農研機構は、近年の大豆の収量低下が著しい東北日本海側(積雪寒冷地)の灰色低地土水田における地力低下の実態と維持改善法をまとめたリーフレットを公表しました。
  • 地力の指標である作土5)の可給態窒素量6)は、大豆の作付頻度が増えるほど減少し、地力増進基本指針7)の可給態窒素量の目標下限値80mg/kgを維持するためには、大豆の作付頻度を6割程度までとする必要があります。しかし、牛ふん堆肥2~3t/10aを連用することにより、大豆を連作してもこの目標下限値80mg/kg以上を維持できます。
  • 本リーフレットでは、田畑輪換水田の地力低下の実態と維持改善方法について農家圃場のデータを基に解説しており、東北日本海側(積雪寒冷地)の灰色低地土水田における地力の増強を通じて、大豆の収量増加や品質向上を図るための有機物施用法や作付計画の策定に活用できます。
  • リーフレットの入手方法:
    農研機構東北農研のホームページからダウンロードしてご利用ください。
    http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/050518.html
    リーフレットをご希望の方は情報広報課へFaxまたはe-mailでお申し込みください。
    Fax:019-643-3588 e-mail:www-tohoku@naro.affrc.go.jp

関連情報

予算:
運営費交付金


詳細情報

研究の経緯

   米の生産調整が始まってから40年が経過し、それまで水稲を作ってきた田んぼで大豆を作ることが増えてきました。近年、大豆を栽培した田んぼの可給態窒素量が減っていることが分かってきました(図1)。東北日本海側(積雪寒冷地)で大豆の収量が低い(図2)理由のひとつには、土壌の可給態窒素量の減少にみられるような地力低下の可能性が考えられますが、東北日本海側(積雪寒冷地)の生産現場での地力低下の実態は明らかにされていませんでした。また、この地力低下への具体的な対策技術はほとんど提示されていませんでした。

   そこで、農研機構では、秋田県南部において、田畑輪換を続けている農家の灰色低地土水田における地力低下の実態を明らかにし、その調査結果から地力の維持改善方策を明らかにしました。

研究の内容・意義

  • 田畑輪換により水稲と大豆を栽培している水田において、大豆の作付頻度が増えるほど作土の可給態窒素量が減少している実態が、農家圃場の調査から明らかになりました(図3)。
  • 農林水産省の地力増進基本指針では、基本的な地力改善目標として水田土壌の可給態窒素量の目標値は80~200mg/kgとされています。牛ふん堆肥を施用しない場合、この目標下限値80mg/kgを維持するためには大豆作付頻度を6割程度(水稲2作に対し大豆3作)までとする必要があります(図3)。
  • 牛ふん堆肥2~3t/10aを連用することにより、可給態窒素量は60mg/kg程度高く維持できるので、大豆を連作しても地力増進基本指針の目標下限値80mg/kg以上を維持できます(図3)。
  • 得られた成果をわかりやすいリーフレットとしてまとめました。本リーフレットでは、土壌pHや稲わら持出しによる交換性カリ8)の変化についても解説しています。

今後の予定・期待

   東北日本海側(積雪寒冷地)の灰色低地土水田において、地力の増強を通じ、大豆の収量増加や品質向上を図るための有機物施用法や作付計画の策定に活用できます。

用語の解説

1) 田畑輪換
田んぼで、ある年数の間は畑作物を栽培し、次のある年数は水稲を栽培することを繰り返すこと。

2) 地力
物を生産するための土壌の総合的な能力のことで、養分を作物に供給する能力のほか、作物が育ちやすい土壌の物理的性質(排水性や通気性)など多様な能力が関係します。ここでは、その中でも最も重要な窒素の供給力である可給態窒素6) の量を指しています。

3) 大豆の作付頻度
田畑輪換を始めてから大豆を作付した頻度。例えば、大豆作付頻度50%の場合、10年間で大豆5回と水稲5回のように大豆と水稲を1:1の割合で作付。

4) 灰色低地土
土壌の種類のひとつ。日本の水田に最も広く分布する土壌であり、全水田の約4割を占めます。水田に好適な土壌で、水稲の生産力は高く安定しています。

5) 作土
耕された土の層で、それより深い耕されていない層よりもやわらかく、養分も多く含まれています。このため作物の根はりが良く、窒素をはじめとする養分は主にこの作土から吸収されます。

6) 可給態窒素
作物にとって最も重要な養分は窒素です。その窒素を土壌がどれだけ供給できるかを表す地力の指標です。土壌当たりの窒素量としてmg/kgのように表されます。

7) 地力増進基本指針
農林水産省は、地力を増進していくことは農業の生産性を高め、農業経営の安定を図る上で極めて重要とし、農地の利用形態別に土壌の性質の基本的な改善目標を示しています。水田の可給態窒素の目標値は80mg/kg以上200mg/kg以下とされており、その範囲で土壌の可給態窒素を維持するのが目標となります。
http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_dozyo/pdf/chi4.pdf

8) 交換性カリ
土壌に吸着しているカリウムの量で、作物に対するカリウム供給力を示す指標です。

図1 田畑輪換水田における大豆の作付頻度と可給態窒素 図2 大豆収量の推移(3年移動平均) 図3 秋田県南部の田畑輪換における大豆の作付頻度と土壌の可給態窒素量の関係 作成したリーフレットの表紙