プレスリリース
高純度セラミドを工業的に連続生産する技術を開発

- 新たなセラミドの活用法が期待 -

情報公開日:2014年7月 9日 (水曜日)

ポイント

  • 米ぬかから95%以上の高純度セラミドを工業的に連続生産する技術を、世界で初めて開発しました。
  • 高純度なセラミドは色、臭いがほとんどなく、化粧品や医薬品、研究用途として新たな活用法が期待できます。

概要

  • 農研機構は、オルガノ株式会社、日本製粉株式会社と共同で、米ぬかから95%以上の高純度セラミドを工業的に連続生産する技術を開発しました。
  • セラミド1)は皮膚に含まれる保湿成分で、皮膚へ塗布、経口摂取により保湿などの効果が期待されることから、様々な化粧品や機能性食品の原料として利用されています。
  • 現在市場に出ているセラミドは、10%程度の低純度品であり、夾雑物(セラミド以外の90%の成分)に由来する色や臭いがあるものもあり、用途が限られています。高純度なセラミドは色、臭いがほとんどなく、澱(おり)も生じないことから、透明な化粧液や医薬品、研究用途に使用できます。
  • 現在主流となっている植物セラミドにはステロール配糖体2)が必ず混在します。これはセラミドと分離が困難で、セラミドを高純度化する上で問題となっていました。工業的なクロマト分離技術(擬似移動層クロマトグラフィー3))を応用することで 純粋なセラミドの工業的な分離に成功しました。
  • 通常のセラミドは複数のセラミド種の混合体です。本技術を応用すればセラミド種ごとの製造が可能です。
  • 本技術は米ぬか以外のものを素材とする植物セラミドにも応用が可能です。セラミド素材ごとの高純度セラミドの効能の評価が可能となり、より効能の高いセラミド製品の開発への展開が期待されます。

詳細情報

開発の社会的背景

   セラミドは脂質の一種で、皮膚の角質層に多く存在し、皮膚から雑菌の進入を防ぎ、うるおいを保つ役割を持っています。セラミドは年齢と共に減少し、しわ、肌荒れの原因となるほか、アトピー性皮膚炎患者でも減少することが知られています。セラミドを皮膚へ塗布、経口摂取することにより保湿などの効果が期待され、様々な化粧品や機能性食品の原料として利用されています。一方、市場に供給されているセラミドは5~10%程度の低純度のもので、セラミド以外の夾雑物が多く含まれています。このため、夾雑物に由来する色や臭いがあるものがあり、製品開発を行う上での制限となっています。これまで、高純度なセラミドは非常に高価な分析用途の標準品試薬しか存在せず、産業活用が可能な大量かつ低コストの高純度セラミドの製造法が望まれていました。

研究の経緯

   現在、主として利用されているセラミドは安全性、経済性の観点から植物由来のものですが、植物由来のセラミドには必ずステロール配糖体と呼ばれる夾雑物が含まれます。このステロール配糖体との分離は困難であることから、分離技術の開発が高純度セラミド製造のポイントとなります。

   そこで、現状のセラミドからステロール配糖体を良好に取り除き、純粋なセラミドだけを工業的に分離する技術開発を行いました。また、食品に許される素材の使用に限定することで食品(飲料など)への添加が可能なセラミド製造をコンセプトとしました。

研究の内容・意義

  • 通常の低純度セラミドからのステロール配糖体の分離は、分離材との吸着力の差を利用するクロマト分離技術と呼ばれる手法で可能です。しかしながら、通常のクロマト分離は一回一回分離と回収を行うため不連続で、非効率、非経済的であり工業的に活用するのが困難です。そこで、工業的なクロマト分離技術である擬似移動層クロマトグラフィー技術を適用しました。これは分離する原液を流し込みながら、分離と回収を連続的にできる技術です。これにより、24時間365日の連続分離が可能となります(図1、写真1)。
  • 本技術開発では、高純度セラミド製品の食品への展開も考慮し、分離は発酵エタノールと食品への適用が可能な分離材を利用しています。
  • 分離材、分離溶媒(発酵エタノール/水の比率)、セラミドと夾雑物との分離のタイミングなど、種々の条件検討の結果、米ぬか由来のセラミド分離原液(10%)を使用し、95%以上の高純度セラミドを連続的に製造することに成功しました(図2)。
  • セラミドの取り出し口からはセラミドの種類ごとに順番に出てきますので、複数種含まれるセラミドの一つ一つが分離できます。
  • 本技術は米ぬか同様に、セラミドとステロール配糖体の分離が困難な他の植物由来セラミドにも適用できます。
  • 関連情報
    出願番号:特願2013-103928(木村ら;高純度セレブロシドの製造方法)
    予算:運営費交付金

今後の予定・期待

   高純度セラミドは色や臭い、澱の発生がほとんどないことから、従来活用が難しかった化粧品等への適用が可能となります。またセラミドは高純度品がなかったため、機能性、安全性の評価が十分に実施できませんでしたが、本品によりセラミド自体による評価が可能となります。さらに、素材別セラミドの一斉評価や、通常、複数種の混合体であるセラミドに含まれる一つ一つのセラミド種の評価を行うことが可能となり、セラミド素材による差別化や、より効能の高いセラミド製品の開発への展開が期待されます。

   セラミドはアトピー性皮膚炎、重度の乾燥肌に対する効果が認められるため、今後の研究蓄積により、医薬品への展開も期待できます。

用語の解説

1) セラミド
   セラミドは脂質の一種であり、細胞組織の生体膜成分として、特に皮膚角質層に存在し、皮膚のバリア機能、水分保持機能の役割を担っています。皮膚角質のセラミドは加齢と共に減少し、しわ、肌荒れの原因となります。通常、天然セラミドは構成する糖、脂肪酸などの種類、組み合わせによって種々のセラミドの集合体として存在します。
   産業的には、かつては牛脳が主な供給源でしたがBSE問題により、現在は安全な植物由来のものが主流となっています。具体的には、米、小麦、トウモロコシ、大豆、コンニャク、甜菜などの穀類や、マイタケ、タモギダケなどのキノコ類、牛乳などからセラミドが製造されています。現在市場に供給されているセラミドは含有量が5~10%程度のものが主流であり、セラミドのほか、中性脂質、遊離脂肪酸、ステロール配糖体などを大量に含み、またノネナールなどの悪臭成分や、脂肪酸などの着色成分が含まれている場合があります。

2) ステロール配糖体
   植物に含まれ、動物におけるコレステロールと同様に細胞膜を構成するステロール成分は植物ステロールと呼ばれます。糖と結合したステロール配糖体は、セラミドと物理的性質が似ているため、セラミドとの分離が困難で、高純度化する上で技術的な問題となっています。

3) 擬似移動層クロマトグラフィー
   クロマトグラフィーは、吸着を利用して混合物を分離する技術で、擬似移動層クロマトグラフィーは、工業的に混合物を分離するクロマトグラフィーのひとつ。溶離液の流れに対し、逆方向にカラム(分離材を詰めた筒)を擬似的に移動させることにより、連続的に目的物質を単離するものです。今回は、原液中にセラミドのほか、中性脂質、遊離脂肪酸、ステロール配糖体などが含まれますが、セラミドの分離速度でカラムを擬似的に移動相とは逆方向に移動させることで、セラミドはその場にとどまり、夾雑物のみが移動し、分離されます(図1)。

図1 疑似移動層クロマトグラフィーの原理図(オルガノ社パンフレットより改変して引用)

   従来のクロマトグラフィーは分離一回ごとに、原液注入→分離→分取→カラム(分離材を詰めた筒)の洗浄、再生の一連の作業を行う必要がありました。擬似移動層クロマトグラフィーはカラムをループにつなぎ、セラミドが分離材の中を移動する速度に合わせ、溶離液とは逆方向へ動かすことでセラミド(つる)と、セラミドと移動度が異なる夾雑物(かめ、うさぎ)を連続的に分離できる。

写真1 疑似移動層クロマトグラフ装置の外観(左)と内部(右図) 分離原液から連続的に夾雑物とセラミドが分離されて出てくる 図2 分離結果(夾雑成分とセラミド群に分けられている)

   分離前の原液(矢印左側図)と分離後の夾雑画分とセラミド画分(矢印右側図)を分析したもの。各々のピークは含まれている物質と量を表している。オレンジ色の部分は夾雑物、黄色部分はセラミド部分。セラミドは種々のセラミドの集合体であるため、図中のピークトップにある文字列は単一のセラミドの種類を表している。