プレスリリース
稲発酵粗飼料に適する水稲新品種「べこげんき」を育成

- 東北地域において早生・多収 -

情報公開日:2014年10月23日 (木曜日)

ポイント

  • 食用品種「あきたこまち」収穫前に本稲発酵粗飼料用品種を適期収穫することが可能です。
  • 黄熟期の穂及び茎葉を含めた地上部全体の乾物収量が多く稲発酵粗飼料に適しています。

概要

  • 農研機構は、黄熟期1)に穂及び茎葉を収穫しサイレージ2)にして牛に給与する稲発酵粗飼料3)に適した水稲新品種「べこげんき」を育成しました。
  • 「べこげんき」は、東北地域中部において出穂期が「べこごのみ」4)に比べ約2日遅いが"かなり早"に属し、食用品種「あきたこまち」の収穫前に黄熟期収穫することが可能です。
  • 育成地(秋田県大仙市)において、黄熟期の穂及び茎葉を含めた地上部全体の乾物収量は、既存の稲発酵粗飼料用品種「べこごのみ」に比べ約6%多収です。
  • 耐倒伏性は「べこごのみ」に比べ強く、多肥の直播栽培でもほとんど倒伏しません。
  • 秋田県平鹿地域において、平成26年より栽培が開始されており、平成27年度以降は30ha以上の作付けを見込んでいます。

関連情報

予算:農林水産省委託プロジェクト研究「粗飼料多給による日本型家畜飼養技術の開発」、「自給飼料を基盤とした国産畜産物の高付加価値化技術の開発」、「国内農産物の革新的低コスト実現プロジェクト」、運営費交付金
品種登録出願番号:第29099号


詳細情報

新品種育成の背景・経緯

   我が国では、水稲の穂及び茎葉をまとめて収穫し発酵粗飼料(サイレージ)にして畜産農家が利用する耕畜連携の取組みが奨励されています。稲発酵粗飼料用品種では、黄熟期の地上部全体の乾物収量が多く、サイレージの品質が優れていることが必要となります。また、農作業の競合を回避するためには、食用品種の移植前に直播栽培5)できることや食用品種の収穫前に収穫できることが求められます。そこで、農研機構では、飼料用系統「羽系飼864」を母とし、早生の発酵粗飼料用系統「青系飼161号(後の「うしゆたか」)」を父として交配した組合せから、直播栽培でも早期に収穫できる稲発酵粗飼料に適した新品種「べこげんき」を育成しました。

「べこげんき」の特徴

  • 東北地域中部において、"かなり早"の出穂期に属し、直播栽培における黄熟期は9月上旬です。食用品種「あきたこまち」の収穫は9月下旬に始まるため、「あきたこまち」の収穫前に黄熟期収穫することが可能です(表1、図1、図2)。
  • 育成地の多肥6)移植栽培及び多肥直播栽培において、「べこごのみ」よりも黄熟期における地上部乾物収量が多いです(表1、図3)。
  • 稈長は「べこごのみ」と同様の"やや短"で、耐倒伏性が"かなり強"です。このため、多肥の直播栽培でもほとんど倒伏しません(表1)。
  • 普及見込み地の直播栽培において、黄熟期における地上部乾物収量が安定して多く、サイレージの発酵品質7)も良好です(表2)。
  • 玄米の粒は、やや大きく、白濁部分が多いので、食用品種と容易に識別8)できます(表1、図4)。

栽培上の留意点

  • 耐冷性が強くないので、冷害の常襲地帯での栽培は減収する可能性があります。
  • いもち病の真性抵抗性遺伝子を保有しますが、病原菌レースの変化によりいもち病の多発が予想される場合は薬剤防除を行う必要があります。
  • 白葉枯病や縞葉枯病に弱いので、これらの病気の多発地帯での栽培は避ける必要があります。

品種の名前の由来

   牛(べこ)も生産者も元気になることを願って、「べこげんき」と命名されました。

今後の予定・期待

   秋田県平鹿地域において、畜産業者との連携により、平成26年度から作付けが開始され、平成27年度は30haの作付けを見込んでいます。今後、東北各地域での栽培の拡大が期待されます。

種子の入手に関するお問い合わせ先

農研機構東北農業研究センター 企画管理部 業務推進室 運営チーム
Tel:019-643-3443 Fax:019-641-7794

利用許諾契約に関するお問い合わせ先

農研機構 連携普及部 知財・連携調整課 種苗係
Tel:029-838-7390 Fax:029-838-8905

用語の解説

1) 黄熟期
   出穂の約30日後で、黄色になった籾の割合が50~75%の時期を黄熟期と呼びます。

2) サイレージ
   一般的には、青刈りした牧草を密封して嫌気条件のもとで乳酸発酵させた飼料のことをサイレージ (silage) と呼びます。水分が高くても、乳酸発酵させることによって、腐ることがなく、長い間、飼料として利用できます。

3) 稲発酵粗飼料
   稲発酵粗飼料(イネホールクロップサイレージ、イネWCS)とは、水稲の穂と茎葉を同時に刈取ってサイレージ化したものです。良品質の稲発酵粗飼料を作るためには、成熟する前の黄熟期に収穫する必要があります。

4) べこごのみ
   農研機構東北農業研究センターにおいて2007年に育成した飼料用米および稲発酵粗飼料の兼用品種で、東北地域を中心に普及しています。

5) 直播栽培
   我が国の水稲栽培においては、育苗し田植機を使って移植する移植栽培が一般的です。これに対して、種籾を水田に直接播く方法が直播栽培です。直播栽培は、育苗の必要がないため、移植までの費用や労力を節約できます。一方では、苗立ちが安定しない、雑草の防除が難しい、倒伏しやすいなどの問題もあります。「べこげんき」は、苗立ち性は他品種と同程度ですが、耐倒伏性に優れるため、直播栽培に適しています。

6) 多肥栽培
   稲発酵粗飼料用品種の栽培においては、黄熟期の地上部乾物収量が多いことが求められます。そのためには、慣行の1.2~1.5倍の窒素を施用する必要があります。多肥栽培においては、倒伏が問題となりますが、「べこげんき」は、穂数が少なく、個々の茎が太いため、ほとんど倒伏しません。

7)発酵品質
   稲発酵粗飼料用品種においては、黄熟期の地上部乾物収量が多いだけでなく、収穫した穂と茎葉を密封させて作ったサイレージの発酵品質が優れることも求められます。発酵品質は、発酵に伴って生成する揮発性脂肪酸やアンモニア態窒素の量から判定します。

8) 識別性
   飼料用稲から生産された玄米が、食用米へ混入することを防ぐために、飼料用稲の玄米は、食用稲の玄米と区別できる必要があります。

9) TDN含量
   TDN(可消化養分総量)含量は、乾物の中で家畜が消化できる養分の割合を示します。

図1 普及見込み地(秋田県平鹿地域)における作業体系 図2 「べこげんき」の草姿 図3 黄熟期における「べこげんき」の地上部乾物収量 図4 「べこげんき」の玄米 表1 育成地における「べこげんき」の特性概要 表2 普及見込み地(秋田県平鹿地域)における「べこげんき」の特性概要