プレスリリース
ホウレンソウは寒締め栽培で食味が向上し抗酸化能が高まる

情報公開日:2015年12月14日 (月曜日)

ポイント

  • ホウレンソウは、冬の寒さに当てる寒締め栽培でフラボノイド含量が増加し、抗酸化能 (H-ORAC値) が高まることを明らかにしました。
  • 寒締め栽培により、ホウレンソウの食味や栄養性も向上します。

概要

  1. 農研機構は、ホウレンソウを寒締め栽培することにより、ホウレンソウ抽出物の抗酸化能1) (親水性酸素ラジカル吸収能、H-ORAC値)2)が上昇することを明らかにしました。
  2. 植物には、抗酸化能を示す多様なポリフェノール化合物3)が含まれています。寒締め栽培によるH-ORAC値の上昇は、ホウレンソウに含まれる抗酸化物質のフラボノイド4)量が増加することに起因します。
  3. ホウレンソウには、葉菜類で一般的なアブラナ科野菜とは異なるフラボノイドが多数含まれています。寒さに当てることで、3種類のフラボノイドが増加するなどフラボノイド組成が変化しました。
  4. 今回調査したホウレンソウ (東洋種「若草」、西洋種「朝霧」、中間種「まほろば」) 以外の品種も、H-ORAC値やフラボノイド量は寒締め栽培で同様に増加すると推定されることから、機能性成分に富んだホウレンソウ生産への幅広い適用が期待されます。

関連情報

予算:
農林水産省委託プロジェクト「食料生産地域再生のための先端技術展開事業 (生体調節機能成分を活用した野菜生産技術の実証研究) 」 (2012~2014)
論文:
Watanabe and Ayugase (2015) Effect of low temperature on flavonoids, oxygen radical absorbance capacity values and major components of winter sweet spinach (Spinacia oleracea L.). Journal of the Science of Food and Agriculture, 95 (10), 2095-2104.


詳細情報

研究の背景

健康志向の高まりとともに、野菜の健康機能性に関する情報は、一層重要になっています。平成27年4月に始まった「機能性表示食品」制度により、加工食品ばかりでなく農産物も機能性表示が可能となりました。これまでに、「三ヶ日みかん」 (ウンシュウミカン) や「大豆イソフラボン子大豆もやし」 (大豆もやし) の表示届け出が受理されています。ホウレンソウに含まれるルテインは、目の網膜細胞の酸化を抑制し、黄斑色素密度を上昇させる機能性成分であり、表示に関する取り組みが進められています。さらにホウレンソウは、抗酸化能を有するフラボノイドが豊富に含まれることが知られていることから、フラボノイドの機能性解明も期待されています。

研究の経緯

葉物野菜の寒締め栽培技術は、農研機構東北農業研究センターで開発されました。本技術の適用により、野菜類の供給量が減少する冬期に、糖やビタミンCが増加したホウレンソウなど高品質の野菜が生産可能です (図12) 。「機能性表示食品」制度で農産物の機能性表示が可能となり、機能性を表示した野菜の登場が間近です。食味に優れ高栄養な寒締めホウレンソウが、さらに機能性の面でも優れていることが明らかになれば、消費が低下しつつある野菜類の消費拡大にもつながることが期待できます。

植物は低温にさらされることにより、タンパクや核酸など生体内成分と反応し障害を引き起こす「フリーラジカル」や「活性酸素」が増加し、植物体内の酸化ストレスが上昇します。寒さに当てて栽培する寒締めホウレンソウでは、低温による酸化ストレス上昇を防ぐ仕組みとして抗酸化物質が増加すると推定し、寒締め処理による抗酸化能及びフラボノイドの変化を調査しました。

研究の内容・意義

  1. 農研機構東北農業研究センター (盛岡市) 内のビニールハウスで、ホウレンソウ3品種 (「若草」(東洋種) 、「朝霧」 (西洋種) 、「まほろば」 (中間種) ) を出荷サイズに生育させました。その後、外気を導入し低温にあてる寒締め処理を実施することで、ホウレンソウの親水性酸素ラジカル吸収能(H-ORAC)値は、寒締め前に比べ寒締め33日後 (慣らし栽培を含まず) で「まほろば」1.9倍 (図3) 、「若草」2.1倍、「朝霧」2.5倍に増加しました。これに対し、寒締め処理しない場合 (対照) ではH-ORAC値の増加はみられませんでした。ホウレンソウは、寒締め栽培により抗酸化能を高めることが可能となります。
  2. ホウレンソウに含まれるフラボノイドの総量 (総フラボノイド量) は、抗酸化能と同じく、寒締め前と比べ寒締め33日後で「まほろば」2.2倍 (図4) 、「若草」2.4倍、「朝霧」2.6倍と寒締め処理により増加しました。寒締め処理しない場合 (対照) では、フラボノイド総量は変化しませんでした。フラボノイドは、ホウレンソウに含まれる主要なポリフェノールであり抗酸化能を有することから、寒締め栽培による抗酸化能の増加に寄与しています。
  3. ホウレンソウは、一般的に出回っている葉菜類とは異なる多種類のフラボノイドを含んでいます (表1) 。寒締め栽培による低温で、フラボノイドNo.2:3.5% (寒締め前) →10.3% (寒締め33日後) 、同No.5:0.1%→4.4%、同No.10:2.6%→8.6%といった3つのフラボノイドが増加するなど、組成が変化しました。低温により植物体内の酸化ストレスは上昇することが知られており、フラボノイドの総量のみでなく組成の変化も、植物の酸化ストレス抑制に寄与している可能性があります。

今後の予定・期待

現在、抗酸化能の高い食品の摂取によるヒトの健康維持効果に関して、科学的根拠の蓄積が進められています。本研究により、栄養豊富で機能性成分の豊富なホウレンソウは、寒締め栽培によりさらに抗酸化能の増加が見込めること、抗酸化能の増加はフラボノイド量の増加に起因するというしくみも明らかにできました。ホウレンソウで取り組みが進められているルテインの機能性表示に加え、本研究により寒締めホウレンソウの抗酸化能増加についての新たな知見が得られ、東北地域における冬場の高機能なホウレンソウ生産に寄与することが期待されます。

用語の解説

  1. 抗酸化能

    他の物質と反応しやすく、種々の疾病や病態に深く関与しているフリーラジカルや活性酸素を消去する能力。食品の中でも、特に野菜や果実には、ポリフェノール化合物など抗酸化能を有する化合物 (抗酸化物質) が豊富に含まれている。

  2. ORAC (oxygen radical absorbance capacity, オーラック) 法

    アメリカ農務省 (USDA) と国立老化研究所によって開発された、抗酸化能の測定法の一つで、酸素ラジカル消去活性を評価することができる。現在日本国内において、抗酸化能の統一的な評価法として普及が進みつつある。本測定法では、野菜や果実を親油性、親水性画分に分けて抽出し、それぞれの抽出液の抗酸化能をL-ORAC、H-ORAC値として評価する。

  3. ポリフェノール

    複数個のフェノール性水酸基を有する化合物の総称。植物に多く含まれ、抗酸化能を有する化合物も多い。フラボノイド、アントシアニン等の植物色素もポリフェノール化合物。

  4. フラボノイド

    植物に含まれるポリフェノール化合物の一種であり、抗酸化能を有する化合物も多い。ホウレンソウ (ヒユ科) には、これまでに十数種類の特徴的なフラボノイドが確認されており、コマツナなどのアブラナ科の葉菜類とは組成が大きく異なっている。茶のカテキンやタマネギのケルセチンもフラボノイド化合物。

写真と図表

表1

図1

図2

図3

図4