新品種育成の背景・経緯
ナタネは重要な油料作物の一つです。我が国では、エルシン酸を含まないがグルコシノレートを多く含む品種が主として作付されており、種子を搾って得られる油は食用に、搾った後の粕 (ミール) は主に肥料として利用されています。ダブルロー品種は、油中にエルシン酸を含まないので食用油に適しており、さらに、種子中のグルコシノレート含量が少ないため、ミールは肥料としてだけでなく飼料としての適性も高く、ナタネの多角的な利用が可能です。
既存の寒冷地向きダブルロー品種「キラリボシ」は、寒冷地において作付面積が多い無エルシン酸品種「キザキノナタネ」より収量が低いことから、より多収のダブルロー品種が求められてきました。
そこで、農研機構では、より多収の寒冷地向きダブルロー品種の育成を目的として、海外のダブルロー多収品種「CASCADE」に、寒冷地向きダブルロー品種「キラリボシ」を交配し、選抜を重ねて、「きらきら銀河」を育成しました。
新品種「きらきら銀河」の特徴
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育成地 (岩手県盛岡市) において、「きらきら銀河」は「キザキノナタネ」と比較して、開花期は同程度、成熟期はやや早く、草丈は高いです (表、写真)。
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耐倒伏性及び寒害抵抗性7) は、「キザキノナタネ」と同程度の"強"です (表) 。
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収量は、「キザキノナタネ」よりやや多く、「キラリボシ」よりかなり多いです。また、含油率が「キザキノナタネ」よりやや高いです (表) 。
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油中にエルシン酸を含まないので、食用油に適しています (表) 。また、グルコシノレート含量が「キラリボシ」と同程度に少なく、ミールを飼料として利用できます (表) 。
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菌核病8) 抵抗性は、「キザキノナタネ」より弱いため、農薬などによる適切な防除を行うとともに多発地域での栽培を避けて下さい。
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種子は「キザキノナタネ」より小粒です (表) 。小粒の品種は大きな土塊がある圃場では出芽のムラが生じる可能性が高いので、播種前に細かく砕土して下さい。
品種の名前の由来
「きらきら銀河」は「ナタネの花が銀河のようにきらめいて咲いている様子」をイメージして名付けられました。
今後の予定・期待
東北地域において50haの作付が見込まれています。今後、「きらきら銀河」を用いた食用油の商品開発及び国産ミールの飼料利用の拡大が期待されます。
種子入手先に関するお問い合わせ先
農研機構東北農業研究センター 企画管理部 業務推進室 運営チーム
TEL 019-643-3443, FAX 019-641-7794
利用許諾契約に関するお問い合わせ先
農研機構 連携普及部 知財・連携調整課 種苗係
TEL 029-838-7390, FAX 029-838-8905
用語の解説
- エルシン酸
脂肪酸の一種で、旧来のナタネ品種の油中に多く含まれています。エルシン酸を含む油を大量摂取すると心臓に疾患を生じる可能性があるので、食用油には無エルシン酸品種が望ましいとされています。
- グルコシノレート
複数の含硫配糖体の総称で、アブラナ科植物に多く含まれています。ナタネ種子に含まれるグルコシノレートには、家畜が摂取すると甲状腺肥大を引き起こす物質が存在するために、含量が高い品種の油粕は飼料に向きません。なお、グルコシノレートは搾油した際に油に溶け出すことはありません。
- ダブルロー品種
ナタネでは、エルシン酸を含まず、かつグルコシノレート含量が低い品種のことを指します。カナダでは、油に含まれるエルシン酸含量が2%未満で、風乾した脱脂ミール中のグルコシノレート含量が30 µmol/g未満 (種子中では約17 µmol/g未満) のナタネを「キャノーラ」 (ダブルロー) と定義しています。
- ミール
ナタネ種子を搾油した時にできる「搾り粕」のことです。現在のところ、国産ミールは主に肥料として利用されていますが、粗タンパク質を30~40% 含んでいることから、ダブルロー品種のミールは牛、豚および鶏の飼料としても利用されています。
- キザキノナタネ
1992年に東北農業試験場 (現:農研機構東北農業研究センター) で育成された無エルシン酸品種です。多収で、北海道及び東北地域で多く栽培されています。
- キラリボシ
2004年に農研機構東北農業研究センターで育成されたダブルロー品種です。「キザキノナタネ」より成熟期がやや早く、主に東北地域で栽培されています。
- 寒害抵抗性
冬季の低温のために葉や茎が枯れてしまうことを寒害といいます。寒害を受けた植物は越冬後も生育不良となり収量が低下する傾向があります。そのため、特に寒さの厳しい北海道および東北地域では、寒害を受けにくい (寒害抵抗性の強い) 品種が求められています。
- 菌核病
糸状菌 (カビ) によって発生する病害です。ナタネがこの病気にかかると、花が咲き終わった後、茎の根元が黄化し、倒れやすくなってきます。病状が進行すると、最後には植物体全体が枯れてしまいます。
写真と図表