新品種「夏吉」育成の背景・経緯
東北地域におけるソバの作付面積は全国のおよそ4分の1を占めており、多数の産地が形成され、そばは東北地域の伝統的な食文化に根ざした食材です。東北地域でのソバ栽培には、7月下旬から8月上旬にかけて播種し10月以降に収穫する夏播き栽培と、5月中下旬に播種し、盛夏の8月から収穫できる春播き栽培があり、現在は夏播き栽培が主流です。春播き栽培では、主産地である北海道を始めとした他地域より先に新そばを出荷することができることから、実需者のニーズが高く、東北地域のいくつかの生産団体において作付の取り組みが開始されています。しかし、「階上早生」など従来の東北地域向け品種を春播き栽培に用いると成熟期が遅く収量が低いため、春播き栽培に適した品種の育成が急務となっていました。
そこで農研機構では、子実品質が優れる「奈川在来」を種子親に、早生で多収の「北海14号」 (現在の「レラノカオリ」) を花粉親として交配し選抜を重ね、東北地域での春播き栽培に適した、早生で多収のソバ新品種「夏吉」を育成しました。
新品種「夏吉」の特徴
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育成地 (岩手県盛岡市) での春播き栽培 (5月播き) においては、「階上早生」と比較して成熟期が7日早く、10%以上多収です (表) 。草丈はやや低く、倒伏程度は同程度です。
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夏播き栽培 (7月播き) においては、「階上早生」と比較して成熟期が4日早いですが低収です (表) 。
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実需者によるそば麺の食味評価において、「階上早生」より高い評価を得ています (図) 。
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容積重は「階上早生」よりやや軽いために、収穫物の精選に留意することが必要です。
品種の名前の由来
「夏」は春播き栽培により夏に収穫できることを表し、「吉」は生産者や消費者に幸運をもたらし広く親しまれる品種になってほしいという願いを込めています。
今後の予定・期待
秋田県羽後町の春播き栽培 (30ha以上) を始めとして、広く東北地域において普及が見込まれています (写真) 。
種子入手先に関するお問い合わせ先
農研機構東北農業研究センター 企画部 産学連携室 産学連携チーム
電話: 019-643-3443
ファックス: 019-641-7794
利用許諾契約に関するお問い合わせ先
農研機構本部 連携広報部 知的財産課 種苗チーム
電話: 029-838-7390
ファックス: 029-838-8905
用語の解説
- 春播き栽培
春に播種を行うソバの栽培体系を指します。夏に収穫されることから「夏ソバ」と呼ばれています。一方、東北地域に多い夏播き栽培により秋に収穫されるソバは「秋ソバ」と呼ばれています。
- 階上早生
青森県農事試験場 (現:青森県産業技術センター) において育成された早生のソバ品種です。東北地域における主力品種の一つであり、特に青森県、岩手県および秋田県において多く作付されています。
図表
表「夏吉」の生育・収量特性
図実需者 (秋田県内) によるそば麺の食味評価結果。
2015年秋田県羽後町産の原料を使用 (「夏吉」は春播き栽培、「階上早生」は夏播き栽培による) 。「階上早生」を標準 (14点) とし、8点から20点で評価。
写真「夏吉」の開花の様子 (2015年、秋田県羽後町において撮影)