新品種育成の背景と経緯
黒大豆は、伝統的食品の黒豆煮豆などに利用されています。主な品種としては、北海道の「いわいくろ」や京都・兵庫の「丹波黒」などが挙げられます。一方、東北地域の黒大豆としては、栽培地域が限定される煮豆用で扁平の「黒平豆」
(通称、
雁喰豆
)
や、主に納豆に用いられる小粒の「
黒千石
」などの在来種はあるものの、大粒の黒豆煮豆用の品種はありませんでした。そこで農研機構では、東北など寒冷地向けの大粒煮豆用の黒大豆品種の育成を目指して、ダイズモザイク病3抵抗性品種の「ギンレイ」に大粒の黒大豆系統の「刈系529号」を交配し、新品種「黒丸くん」を育成しました。
新品種「黒丸くん」の特徴
特長
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東北など寒冷地向けの黒大豆品種です (写真1) 。大粒で煮豆に加工したときの光沢や色が良く (図1) 、黒豆煮豆用に適しています。
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倒れにくく、また一番下のさやが付く位置 (最下着莢節位高) が高くコンバインで収穫しやすいため、機械化栽培に適しています (表1、写真2) 。
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収量が東北における普通大豆の標準品種である「スズユタカ」や、成熟期が類似している関東以南向けの標準的な黒豆品種である「玉大黒」よりも多く、多収です (表1) 。
その他基本情報・栽培上の注意点
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栽培適地は主に東北地域中南部で、育成地 (秋田県大仙市) における成熟期は晩生です (表1) 。
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ダイズモザイク病 3 およびダイズシストセンチュウ 4 に対して強い抵抗性はもっていないので、これらの病害虫が蔓延する地域での栽培は避ける必要があります (表2) 。
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晩生種のため、収穫期に降雪害が懸念される地域では、成熟後、速やかに収穫する必要があります。
品種の名前の由来
「黒丸くん」は、「新しい大粒の黒豆で、倒れにくく、たくさん穫れて、多くの人々に親しんでもらえること」を期待して名付けられました。
今後の予定・期待
東北地域での栽培に適した大粒黒豆品種ができたことから、東北地域において黒大豆の産地化を目指す生産者や実需者の収益向上に貢献することが期待されます。現在、東日本大震災で被災した岩手県沿岸地域において導入を目指しています。
種子入手先に関するお問い合わせ先
農研機構東北農業研究センター 企画部 産学連携室 産学連携チーム
電話: 019-643-3443
ファックス: 019-641-7794
利用許諾契約に関するお問い合わせ先
農研機構本部 連携広報部 知的財産課 種苗チーム
電話: 029-838-7390
ファックス: 029-838-8905
用語の解説
- 晩生 (おくて、ばんせい)
作物の生育期間の長短を表します。収穫に至る期間が早い、中間、遅い品種を、各々、早生 (わせ) 、中生 (なかて、ちゅうせい) 、晩生といいます。
- 最下着莢節位高 (さいかちゃっきょうせついこう)
大豆の子葉節から最下着莢節位までの高さを示します (写真2)。これが高いとコンバイン収穫時の刈残し損失が少なくなります。地表面から10cm以上であることが求められています。
- ダイズモザイク病
主にダイズモザイクウイルスによって発生し、発症すると若い葉の脈が透け、のちにモザイク状となって縮葉症状を示し、種子には褐斑粒を生じ、収量と品質の低下をもたらします。
- ダイズシストセンチュウ
大豆の植物体に寄生し、根の機能を損なうとともに、根粒菌の着生を阻害し、大きな減収をもたらします。
図表
表1
「黒丸くん」の生育及び品質特性 (2005~2014年の平均、但し育成を一時中断した2012年を除く)。
栽培地:育成地 (秋田県大仙市)。
表2
「黒丸くん」の病虫害抵抗性。
写真1
「黒丸くん」の子実 (2015年、育成地: 大仙市)。
図1
「黒丸くん」の煮豆官能評価結果(2005、2006年産の平均)。
黒豆煮豆の標準品である北海道産「いわいくろ」などを標準(3点)として1点~5点で評価。
写真2「黒丸くん」の草姿 (2015年、育成地(大仙市))。
一番下のさやが付く位置が高く(最も低い場所で地表面から約20cm)、機械化栽培に適しています。