プレスリリース
(研究成果) 多収でいもち病に強い良食味水稲新品種「ゆみあずさ」 - 東北地域で740kg/10aを上回る高収量、業務用に最適 -

情報公開日:2017年11月 1日 (水曜日)

ポイント

農研機構東北農業研究センターは、多収でいもち病に強く耐倒伏性に優れる良食味水稲品種「ゆみあずさ」を育成しました。標肥移植栽培(1)の収量は5カ年の平均で743kg/10aで、「あきたこまち」「ひとめぼれ」より約1割多収なことから、業務用米としての利用に適しています。

概要

近年、調理された米を家庭で食べる中食や外食向けの米 (業務用米) の消費量は増加傾向にあり、業務用米は不足気味の状況にあります。このため、業務用米の生産拡大に向けて、東北地域で栽培可能な多収性品種が必要とされていました。

そこで農研機構は、全国農業協同組合連合会 (JA全農) と共同で、東北地域で栽培が可能で、多収かつ、いもち病に強く、倒れにくくて直播栽培にも適した良食味水稲新品種「ゆみあずさ」を育成しました。

「ゆみあずさ」の収量は、育成地において標肥移植栽培では743kg/10a (5カ年平均) 、多肥移植栽培(1)では809kg/10a (4カ年平均) で、東北地域で広く栽培されている「あきたこまち」「ひとめぼれ」より約1割多収です。葉いもち・穂いもちのいずれに対しても抵抗性は "かなり強" (2)で、いもち病が発生しやすい地域での栽培にも適しています。

「ゆみあずさ」は、宮城県および秋田県の一部産地で100haの作付けが計画されています。

関連情報

予算:

  • 運営費交付金 (平成20~28年度)
  • 農林水産省委託プロジェクト「広域・大規模生産に対応する業務・加工用作物品種 の開発」 (平成26~27年度)

品種登録出願番号:

第32135号


詳細情報

新品種育成の背景と経緯

食生活の多様化により、家でご飯を炊いて食べる家庭内消費が減少傾向にある一方、調理された米を家庭で食べる中食や外食向けの米 (業務用米) の消費量は増加傾向にあります。業務用米には、一定の品質・食味を保有し、価格の安い米が求められるため、農業経営者の所得を確保するためには、一定水準の食味・品質を有し、収量性が向上した品種が必要です。また、栽培コストの削減、栽培の省力化に対応するために、いもち病に強く直播栽培に適した (耐倒伏性に優れる) 品種の要望も高まっています。

そこで、農研機構はJA全農と共同研究を行い、いもち病に強く、耐倒伏性に優れ、多収で良食味の特性を有する水稲新品種「ゆみあずさ」を育成しました。

新品種「ゆみあずさ」の特徴

  1. いもち病に強く、多収・良食味の「奥羽400号」を母とし、多収・良質の「羽系1293」を父として交配を行い、「ゆみあずさ」を育成しました。
  2. 育成地における移植栽培の精玄米重は、標肥移植栽培では743kg/10a (5カ年平均) 、多肥移植栽培では809kg/10a (4カ年平均) で、「あきたこまち」「ひとめぼれ」より約1割多収です (図1) 。
  3. 「あきたこまち」「ひとめぼれ」よりいもち病に強く、葉いもち・穂いもちともに "かなり強" に分類されます (図2図3) 。また、耐冷性は "やや強" に分類されます。
  4. 食味は「あきたこまち」「ひとめぼれ」と同等の良食味です (表1) 。
  5. 出穂期、成熟期とも早生品種「あきたこまち」より遅く、中生品種「ひとめぼれ」より早い "やや早" 熟期です (表1) 。
  6. 稈長は「あきたこまち」「ひとめぼれ」より短く、耐倒伏性は "強" です (表1写真1写真2) 。直播栽培でも、倒伏しにくく、精玄米重は701kg/10aと多収です (表1) 。
  7. 玄米の千粒重は「ひとめぼれ」と同程度で、外観品質はやや劣ります (表1写真3) 。

栽培適地と栽培上の留意点

栽培適地は東北中部以南で、目安として「あきたこまち」の栽培地域に適しています。いもち病に強いため、いもち病が発生しやすい地域の栽培向きです。なお、高温耐性がやや弱いため、高温による白未熟粒が発生しやすい地域では栽培を避ける必要があります。

品種の名前の由来

綺麗で倒れない「しなやかな弓」のような姿から、神事に使われる「 梓弓 ( あずさ ゆみ ) 」にちなんで「ゆみあずさ」と命名しました。

今後の予定・期待

当面、宮城県および秋田県の一部産地で100haの作付けが計画されています。今後、これらの地域における業務用米の安定生産に貢献し、「おにぎり」や「お弁当」の用途に使われることが期待されます。

一般に、肥料を多く施用すると炊飯米の食味が低下することから、今後は一定水準の食味・品質と多収性を両立できる「ゆみあずさ」の多肥栽培条件について検討する予定です。

種子入手先に関するお問い合わせ先

農研機構東北農業研究センター 企画部 産学連携室 産学連携チーム

電話: 019-643-3443 ファックス: 019-641-7794

利用許諾契約に関するお問い合わせ先

農研機構本部 連携広報部 知的財産課 種苗チーム

電話: 029-838-7390 ファックス: 029-838-8905

用語の解説

  1. 一般に、肥料を多く施用すると、地上部全体が大きくなり、玄米の収量が多くなりますが、草丈 (稈長) が長くなるため倒れやすくなります。「あきたこまち」や「ひとめぼれ」は肥料を多く施用すると倒れやすくなるため、標準的な量を施用 (標肥移植栽培) します。一方、「ゆみあずさ」は倒れにくいため、標準的な量より多い肥料を施用 (多肥移植栽培) することが可能です。
  2. 品種登録する際の審査基準では、各形質を9階級で評価します。出穂期の場合は、階級1: 極早、階級2: かなり早、階級3: 早、階級4: やや早、階級5: 中、階級6: やや晩、階級7: 晩、階級8: かなり晩、階級9: 極晩のように、いもち病の場合は、階級1: 極弱、階級2: かなり弱、階級3: 弱、階級4: やや弱、階級5: 中、階級6: やや強、階級7: 強、階級8: かなり強、階級9: 極強のように表記します。

参考図

図1
図1 「ゆみあずさ」の収量 (標肥: 2012年~2016年、多肥: 2013年~2016年)。 栽培地: 秋田県大仙市。
図2a 図2b
図2 「ゆみあずさ」のいもち病圃場抵抗性 (2012年~2016年) 栽培地: 秋田県大仙市。 特性検定試験の結果。発病程度は、葉いもちは 0 (無発病) ~ 10 (全茎葉枯死) 、穂いもちは0 (無発病) ~ 10 (全穂罹病) のそれぞれ11段階評価の5カ年平均値。
図3
図3 現地試験における「ゆみあずさ」の穂いもち発病程度。 発病程度は、0 (無) 、1 (微) 、2 (少) 、3 (中) 、4 (多) 、5 (甚) の6段階評価。
表1 「ゆみあずさ」の主要特性。
表1
写真1
写真1 「ゆみあずさ」の株標本。 左: ゆみあずさ、中: あきたこまち、右: ひとめぼれ。
写真2
写真2 「ゆみあずさ」の草姿 (秋田県大仙市、2016年9月11日撮影)。 左: あきたこまち、右: ゆみあずさ。
写真3
写真3 「ゆみあずさ」の籾および玄米 (秋田県大仙市、2016年産)。 左: ゆみあずさ、中: あきたこまち、右: ひとめぼれ。