開発の社会的背景
タマネギは指定野菜の一つであり、日本では青果用・加工用の双方で需要が高い重要野菜です。タマネギの国内流通量は約130万t (令和6年度分、農水省「作況調査」、財務省「貿易統計」) ですが、国内出荷量 (約102万t) だけでは需要を満たしておらず、不足分は輸入に依存しています。
タマネギの国内生産は、約80%を主産地である上位5道県 (北海道、佐賀、兵庫、長崎、愛知) が占めていますが、近年の異常気象により主産地が不作になると価格が高騰するため、安定的な国産供給体制の構築が課題となっています。
一般にタマネギは、出荷規格に応じた球 (可食部) の大きさ (球の直径や重量) によって規格や価格が決まり、一定以上の大きさ (例えば2Lサイズ相当;300g前後) の球は高値で取引される傾向があります。そのため生産者が収益を確保するうえでは、「高収量」とともに「大玉」が重要な指標となります。しかし、一般に両者はトレードオフ関係にあります。すなわち、栽植密度を高めると単位面積当たりの収量は増加する一方で、1球当たりの大きさは小さくなる傾向があります。そのため、球重と収量のバランスを最適化し、収益性の向上につながる栽培条件を明らかにすることが課題になっていました。一方で、栽植密度や品種の違いがタマネギの生育や収量に影響することは知られていたものの、それらが光環境とどのように関係しているのかを解析した研究は限られていました。特に、栽植密度によって変化する光環境をもとに球肥大や収量を予測し、栽培指針へ活用するための知見は十分ではありませんでした。
研究の経緯
栽植密度は、タマネギの球の大きさと収量の双方に影響する重要な因子の一つであり、特に、栽植密度の影響を受ける植物群落の受光量が乾物生産量や収量に関係することが知られていました (Kinoshita et al.(2024))。
しかし、異なる栽植密度・品種・受光量の関係を同時に評価した研究はほとんどありませんでした。そこで、研究グループでは、「生育期間中の積算受光量」に着目し、これが球肥大や収量の違いを説明できるか検証しました。複数年にわたる栽培試験を行い、異なる品種と栽植密度条件下における生育、球重、収量、光利用の関係を詳細に解析した結果、品種と栽植密度の組み合わせにより受光量を最適化することで、球重と収量のバランスを制御できることを明らかにしました。
研究の内容・意義
1. 栽植密度と球の大きさ・収量との関係
タマネギの栽植密度は、球の大きさと収量に対して相反する影響を及ぼすことを明らかにしました。通常の移植栽培では、株間11cm前後 (条間24cm程度) で定植して栽培しますが、株間を広くした疎植条件 (株間16~24cm) では、個々の株が利用できる光や養分が増加するため平均球重は増加しました (図1 左) 。ただし、単位面積あたりの株数が減るため収量は低下しました (図1 右)。一方で、密植条件 (株間8cm) では、個々の球重は小さくなるものの、植え付け株数が多いため収量は増加しました。
図1 栽植密度と球重・収量の関係 (2021年と2022年の平均値、岩手県盛岡市)
「もみじ3号」と「トタナ」の2品種について、異なる栽植密度で春まき栽培したところ、株間を広げると球重は増加する一方で収量は低下し、密植ではその逆となるトレードオフ関係が認められる。収量の網掛け部分は、2L規格 (300g) 以上の割合を示し、栽植密度によって大玉の占める割合が変化することがわかる。
栽植密度の違いにより群落構造7) が変化し、その結果としてタマネギの葉が受ける光の量が変わる様子の一例を図2 に示しました。
図2 栽植密度によるタマネギ群落構造の違い (「もみじ3号」、2021年7月1日撮影 )
株間8cm (左) では群落が密に形成されるのに対し、株間24cm (右) では地表面が露出している。上段は横から、下段は上から観察したものであり、タマネギ葉の光の受け方の違いを視覚的に確認できる (条間は24cmで共通)。
2. タマネギの球の大きさは「受光量」に強く影響される
タマネギ定植後の生育期間における積算受光量は、球重や乾物生産量と非常に強い正の相関を示しました。特に、積算受光量と球重の関係には極めて高い相関 (r = 0.99** ) があり、光を多く受けた個体ほど大きな球を形成しました。また、本研究で設定した栽植密度の範囲においても、この関係が認められました (図3 ) 。
これにより、タマネギの球肥大は、主として受光量によって決まることが明らかになりました。また、受光量は主に葉面積によって決まるため、葉が多く展開する条件や品種ほど受光量が大きくなり、その結果、球の肥大も促進されることが示されました。このように、葉面積の違いに伴う受光量の差は、球の大きさや収量の違いに関係することが明らかになりました。
図3 積算受光量と球重の関係 (2021~2022年)
定植後の積算受光量が大きいほど球重が増加し、両者の間に極めて強い正の相関が認められる。また、本研究で対象とした2品種及び設定した栽植密度の範囲においても、この関係が共通して認められる。 ※ MJはメガジュール (光エネルギー量の単位) を示す。
3. 球重と収量のバランスを最適化する栽培条件を提示
受光量が球重を規定することに着目し、受光量と球重との関係、及び栽植密度と収量との関係を総合的に評価した結果、品種ごとに球重と収量のバランスが取れる栽植密度の範囲が明らかになりました。これは、栽植密度を調整して十分な受光量を確保することで、球重と収量のバランスを最適化できることを示しています。本研究により、東北地域の春まき栽培を対象として、品種と栽植密度の組み合わせに基づく実用的な栽培指針が得られました。要約すると以下のとおりです。
「トタナ」では、株間12~24 cm (栽植密度10,400~20,800株/10a) の範囲において栽植密度を調整することで、球重と収量のバランスを制御でき、目的に応じて球重300g以上と単位面積あたり収量4t/10a以上を同時に確保することができます。一方、「もみじ3号」では、株間16~24cm程度の比較的広い植え方とすることで球重が増加するため、収量とのバランスを考慮しながら、大玉生産に適した栽培が可能です。
今後の予定・期待
本研究により、タマネギの球肥大が積算受光量によってほぼ決まること、さらに品種と栽植密度の組み合わせによって球重と収量のバランスを制御できることが明らかになりました。
この成果により、品種特性や生育環境に応じて栽植密度を最適化することで、球重と収量のバランスを最適化し、収益性の向上につながる栽培技術の確立が期待されます。本研究で得られた知見は、他品種や他地域における栽培条件の検討にも活用できると期待されます。特に、青果用・加工用といった用途に応じた球規格の制御が可能となり、生産現場における付加価値向上に貢献できます。
また、受光量が球肥大の主要な要因であることから、今後は、受光量や葉面積と球肥大との関係に関する知見をもとに、葉面積や草姿など、効率よく受光する特性に着目した品種の開発や選抜への応用が期待されます。さらに、気象データやタマネギの生育状況をもとに受光量を推定し、生育を予測することで、収量の安定化に寄与することが期待されます。これらの実現は、タマネギの安定的な国内供給体制の強化及び生産性向上のさらなる進展につながると考えられます。
用語の解説
積算受光量
作物が生育期間中に受けた光の総量。光合成による乾物生産の指標となり、本研究では球の大きさと強く関係することが示された。[ポイントへ戻る]
栽植密度
単位面積あたりに植え付ける株数のこと。本研究では、株間を変えることで密度を調整し、生育や収量への影響を検討した。[ポイントへ戻る]
指定野菜
タマネギ、キャベツ、トマトなど、全国的に流通し、特に消費量が多いあるいは多くなることが見込まれる重要な野菜を国が指定している。生産・出荷の安定を図り、消費者へ安定的に国産野菜を供給する必要があると認められた野菜で、現在、15品目が指定されている。[概要へ戻る]
トレードオフ
一方を増やすともう一方が減る関係のこと。本研究では、球の大きさと収量の間にこの関係があることを示した。[概要へ戻る]
収量形成
作物の収穫量がどのように決まるかという仕組みのこと。本研究では、栽植密度や受光量が収量形成に与える影響を解析した。[概要へ戻る]
葉面積
植物の葉の広がりを示す指標で、光を受ける面積のこと。本研究ではこの面積が大きいほど受光量が増え、球の肥大が促進されることが示された。[概要へ戻る]
群落構造
複数の植物が生育する際の葉の配置や広がりのこと。葉の量や配置によって受光量が変化する。[研究の内容・意義へ戻る]
発表論文
Oku S, Hiura S, Yamauchi D, Yamamoto T, Tsukazaki H, and Kinoshita T (2026) Relationship between light interception, canopy development, and dry matter accumulation during onion bulb development under different plant densities.Hort. J. 95(3) , 441-451. https://doi.org/10.2503/hortj.SZD-120