新品種育成の背景・経緯
芳香性がある種間雑種品種として、栽培イチゴ「とよのか」に、モモに似た香りを持つ野生種(Fragaria nilgerrensis)を交配して、「久留米IH1号」が育成されています。「久留米IH1号」は、「ももみ」、「ピーチベリー」などの商品名(商標)で家庭園芸用に苗が販売されていますが、種子が果実表面よりも深く落ち込み、艶が劣るなど外観に欠点があります。また、収量性が劣っていることもあり、果実の販売は少なく、一般の店頭に並ぶことはほとんどありません。そこで、香り高い果実を多くの消費者へ届けられるよう、果実の外観と収量性の改良に取り組みました。
品種改良の素材として、果実の外観が良く栽培しやすいイチゴ品種「カレンベリー」(プレスリリース)に野生種を交配して、新しい種間雑種イチゴを作りました。これに「久留米IH1号」を交配し、その後代から、収量が多く、果実の外観が優れ、香りの良い系統を選抜し、「桃薫」を育成しました。
新品種「桃薫」の特徴
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「桃薫」は促成栽培に適します。「桃薫」は生育が旺盛で、数多くの花が咲き(図1)、厳冬期でもあまり株が小さくなりません。果実は淡黄橙色で艶があり、種の落ち込みが少なく外観が優れます(図2)。
- 「桃薫」は収穫開始時期が遅いため、クリスマスシーズンにたくさん採ることは困難ですが、春までの全期間の収量は多くなります(表1)。収穫前期の果実は大きいのですが、花数が多いので、収穫後期の果実は小さくなります。
- 甘味や酸味は「とよのか」に近く、食味は良好です(表1)。また、果実が軟らかいため、輸送には注意が必要ですが、貯蔵しても果皮色の変化が少ないので日持ち性はあります。
- 「桃薫」にはフルーティーなモモやココナッツに似た香り、甘いカラメルのような特徴的な香りの成分が多く含まれ、今までのイチゴとは違った風味を楽しめます(表2)。
図1. 「桃薫」の着果状態
図2. 「桃薫」の果実
品種の名前の由来
「モモ(桃)」に似て甘く芳醇な香りが隅々まで漂う(「薫る」)様子をイメージし、各地に広く普及し、香り高い果実を多くの消費者へ届けられることを願って命名しました。また、中国原産の野生種を交配に利用しているため、漢字表記としました。
種苗の配布と取り扱い
平成21年11月11日に品種登録出願(品種登録出願番号:第24290号)を行い、平成22年1月25日に品種登録出願公表されました。
お問い合わせ先
野菜茶業研究所 企画管理部 運営チーム
Tel 059-268-4623
利用許諾契約に関するお問い合わせ先
農研機構 情報広報部 知的財産センター 種苗係
Tel 029-838-7390
Fax 029-838-8905
用語の解説
種間雑種
異なる種(しゅ)同士が交雑されてできた子孫(雑種)のことで、今回の場合にはFragaria x ananassa(栽培イチゴ)とF. nilgerrensisという異なる種を交配して種間雑種を作りました。
Fragaria nilgerrensis
中国南西部に自生するイチゴ野生種の一種で、小さく白い果実をつけ、モモに似た香りを持っています。最近では「ホワイトピーチベリー」、「雪見イチゴ」という名で苗が販売されています。
その他
今後、各種イベントにおいても「桃薫」の紹介(展示または試食)を予定しております。イベント情報は野菜茶業研究所ホームページよりご覧になれます。
野菜茶業研究所ホームページ
http://www.naro.affrc.go.jp/vegetea/
イベント・セミナー情報のページ
http://www.naro.affrc.go.jp/event/list/laboratory/vegetea/index.html