プレスリリース
茶殻・コーヒー粕で殺菌!

- 低コスト殺菌技術を開発 -

情報公開日:2012年2月29日 (水曜日)

ポイント

  • 茶殻・コーヒー粕を原料とする殺菌技術を開発しました。
  • 殺菌後は速やかに無害化するため安全で、原料が再利用資源なので低コストです。
  • カット野菜の殺菌(食品分野)、種子消毒(農業分野)、口腔内殺菌(医療分野)、有機化合物汚染土壌の浄化(環境分野)等、幅広い分野で応用が期待されます。

概要

農研機構野菜茶業研究所は、茶殻・コーヒー粕を原料とする殺菌技術を開発しました。本技術で製造した殺菌用資材には、原料として加えた鉄が二価鉄として含まれており、これと過酸化水素が混合することにより、反応性の高いヒドロキシラジカルを発生させ、殺菌を行います。殺菌後には、ヒドロキシラジカルは速やかに消滅し、無害化します。通常、二価鉄は酸化されて三価鉄になりやすいものですが、本資材中では二価鉄が長期間安定維持されることが特徴です。

殺菌用資材は、茶殻・コーヒー粕を利用するため低コストで製造でき、カット野菜の殺菌(食品分野)、種子消毒(農業分野)、口腔内殺菌(医療分野)、有機化合物汚染土壌の浄化(環境分野)等、幅広い分野での応用が期待されます。

関連情報

特許:特開2011 - 212518


詳細情報

研究の背景・経緯

近年、食中毒は世界的に大きな問題となっています。国内では年間1~3万人、アメリカでは7,600万人の食中毒患者が発生しており、安全な殺菌技術の開発が求められています。最もよく使われている塩素系殺菌剤はトリハロメタンを発生させる恐れがあり、殺菌後に塩素臭が残るなどの欠点がありました。他方、オゾン殺菌など、その他の殺菌方法は装置の導入コストが高いなどの問題があります。このため、安全かつ低コストの殺菌法が求められています。

そこで、茶殻やコーヒー粕の還元力に着目し、強力な殺菌力がありながら殺菌後は安全で、しかも低コストで製造できる殺菌技術の開発に取り組みました。

新技術の特徴

  • 鉄を含む原料(硫酸鉄や塩化鉄、砂鉄等を酸で溶解したもの)を、茶殻またはコーヒー粕と混合・反応させることにより、殺菌用資材が得られます(図1)。殺菌用資材と過酸化水素を混合すると、強力な酸化力を有するヒドロキシラジカルが発生します。
  • 製造した殺菌用資材を用いて、大腸菌や青枯病菌(野菜の病原菌)を短時間で殺菌します(図2、図3)。
  • 有害物質分解のモデル実験で広く使われているメチレンブルー(青色素)を短時間で分解します(図4)。

図1 茶殻またはコーヒー粕から製造した殺菌用資材 左は茶殻由来、右はコーヒー粕由来の資材
図1 茶殻またはコーヒー粕から製造した殺菌用資材
左は茶殻由来、右はコーヒー粕由来の資材

図2 大腸菌に対する新技術の殺菌効果
図2 大腸菌に対する新技術の殺菌効果
左は無処理の結果で、右は新技術で処理した結果。青い点は大腸菌のコロニー。新殺菌技術で10分処理後、検出用プレートに塗布したところ、完全に殺菌されたことが確認された。

図3 青枯病菌に対する新技術の殺菌効果
図3 青枯病菌に対する新技術の殺菌効果
青枯病菌の培養液を新技術で処理後、菌密度の推移を調べたところ、5分以内に青枯病菌が完全殺菌されたことが確認された。

図4 新技術によるメチレンブルーの分解
図4 新技術によるメチレンブルーの分解
左は無処理の結果で、右は新技術で処理した結果。20分以内にメチレンブルーが分解されたことが確認された。

図5 新技術による発光現象
図5 新技術による発光現象
発光前(a)の蛍光色素に本資材を加えると、数分間発光させることができた(b)。

今後の予定・期待

この新技術はフェントン反応触媒を利用しています。フェントン反応は強い殺菌・分解力を示すことが原理的に知られていますが、従来の触媒は不安定なため、応用する場面が限られていました。茶殻やコーヒー粕に含まれる成分を鉄と反応させて非常に安定な触媒を作り出すことにより、殺菌や分解といった実用的な場面に応用することが可能になりました。その他、蛍光物質と組み合わせることで、化学発光に利用することも可能です(図5)。

本技術の資材は低コストで製造でき、反応後は無害な成分に変わる性質を備えているため、より安全で安心な殺菌・分解技術として、カット野菜の殺菌(食品分野)、種子消毒(農業分野)、口腔内殺菌(医療分野)、有機化合物汚染土壌の浄化(環境分野)等、幅広い分野での応用が期待されます。

現在、製品開発を共同で進める企業を募集しています。

利用許諾契約に関する問い合わせ先

農研機構 連携普及部普及・実用化促進係
Tel: 029-838-8641

用語の解説

二価鉄、三価鉄
鉄イオンには二価(Fe2+)と三価(Fe3+)の状態があり、二価鉄はフェントン反応(過酸化水素が二価鉄に作用し、ヒドロキシラジカルを生成する反応)の触媒として優れています。ただし二価鉄は不安定で三価鉄に酸化されやすく、三価鉄になると触媒能が大幅に低下します。このため、フェントン反応の実用化には鉄イオンを二価の状態で安定化することが重要な課題でした。

ヒドロキシラジカル
活性酸素の中で最も強力な酸化力を示すラジカル(電子が奪われたり付加されたりすることで不安定化し、反応性の高い状態になった分子、原子、あるいはイオン)の一種です。周辺の分子を攻撃した後、酸素と水に変化します。

トリハロメタン
発癌性の高い物質の一つです。有機物と塩素が反応すると一部がトリハロメタンに変化します。

オゾン殺菌
オゾンの強い酸化力を利用して殺菌する方法です。オゾンは殺菌後、酸素に変化するのでトリハロメタンの発生もなく、安全ですが、オゾン製造装置が高価です。

青枯病菌
トマトなどナス科植物に被害の大きい植物病原菌。難防除病害として知られ、土耕栽培や養液栽培などでも発生し、発生すると甚大な被害をもたらします。

フェントン反応
過酸化水素が二価鉄に作用し、ヒドロキシラジカルを生成する反応です。