新品種育成の背景・経緯
四国地域で主に栽培されている大豆品種「フクユタカ」は、晩生であるため収穫期が遅く、大豆-麦二毛作地帯では後作の小麦播種が遅れるなどの問題が顕在化しています。四国の一部の県で奨励品種に採用された「サチユタカ」は「フクユタカ」より早生ですが、青立ちが発生しやすいため、コンバインによる適期収穫が困難で、品質面でも子実の裂皮が多発するなどの問題を抱えており、地域内ではほとんど普及していない状況です。このため「フクユタカ」よりも早生で、コンバインによる適期収穫が可能な品種を導入することで大豆-麦二毛作体系を確立し、土地利用率と農家収益を高めることが現場から強く要望されていました。そこで、「サチユタカ」、「フクユタカ」より早生で、青立ちと裂皮の発生が少なく、豆腐加工適性が高い「はつさやか」を育成しました。現在のところ、香川県だけでなく、「サチユタカ」の作付けの多い中国地方のうち、島根県においても本品種の導入に向けた取り組みが進められています。
新品種「はつさやか」の特徴
「はつさやか」は、蛋白質含量が高く豆腐加工適性の優れる「九州116 号」を母、耐倒伏性で多収の「タチナガハ」を父とする交配組合せから育成されました。「はつさやか」は、成熟期が「サチユタカ」より4日程度、「フクユタカ」より2週間程度早いですが、収量性は高く、「サチユタカ」と同程度の収量性を示します(表1、写真1)。また、青立ちの発生が少ないため適期にコンバイン収穫ができます(表1、写真2)。このため大豆-麦二毛作体系に対応可能です。子実の外観品質は裂皮が少なく良好です(表1、写真3)。「はつさやか」は蛋白質含有量が高く、豆腐加工適性が優れており、「サチユタカ」、「フクユタカ」よりしっかりした豆腐ができ(表1、豆腐の硬さを示す指標である破断応力が高い)、実需者による官能評価でも食感、風味ともに良い評価を受けています。また、味噌、煮豆、納豆用途についても良い評価を得られています。




品種の名前の由来
近畿中国四国農業研究センターに大豆育種拠点を設置して以来、初めてとなる品種で、青立ちが少なく成熟期の落葉が斉一できれいなことから名付けられました。
種苗の配布と取り扱い
「はつさやか」
平成23年4月13日に品種登録出願(品種登録出願番号:第25821号)を行いました。
平成23年7月26日に品種登録出願公表されました。
利用許諾契約に関するお問い合わせ先
農研機構 連携普及部 知財・連携調整課 種苗班
Tel:029-838-7390 Fax:029-838-8905
用語の解説
下着莢節位高
子葉節(一番下の節)~最下位の莢が着生した節までの高さのこと。最下着莢節位が低すぎると、コンバインでの刈り取り位置を低くする必要があるため、コンバイン内に土が混入しやすくなります。コンバインに取り込まれた土は、子実の汚粒の発生原因になります。
青立ち
莢は茶色く成熟に達し、収穫適期を迎えているものの、茎葉が枯れずに青々としている状態のこと。莢先熟や成熟不整合などと呼ばれることもあります。この状態の大豆をコンバインで収穫すると、茎葉の汁が子実に付着することで汚損粒となり、品質を悪くします。一方、茎葉が枯れ上がるまで収穫を遅らせると、腐敗等による子実の外観品質の低下や、「サチユタカ」等の品種では莢が割れやすくなり、子実の落下による収穫ロスが発生します。
豆腐の破断応力
豆腐に圧力を加えて押しつぶし、豆腐が壊れる瞬間にかかった力のことで、豆腐の硬さを示す指標となります。数値が大きいほど硬いことを表し、しっかりした豆腐であることを示します。