新品種育成の背景・経緯
消費者の健康志向を背景に、食品の機能性に対する関心は高まっています。主食の米についても、玄米の胚芽や糠層に含まれる機能性成分を利用して食生活の改善を図ろうとする消費者が増えています。
玄米は水に浸漬することで、γ-アミノ酪酸(Gaba)という血圧調整効果のある機能性成分が数倍に増加することが知られています。このため、胚芽米や玄米を水に数時間浸漬した「発芽玄米」は、機能性食品として利用が進められています。巨大胚品種は、胚芽の部分が通常品種の2~3倍あるためにGabaの量も比例して多く含まれており、普通の主食用品種よりも効率的にGabaを摂取できることが分かっています。
近畿中国四国地域向きの巨大胚品種としては、すでに「はいいぶき」が育成されており、胚芽米や発芽玄米として利用されていますが、巨大胚品種特有の苗立ちの悪さが十分に改善されておらず、また、収量性と食味に対しても改善の要望がありました。
新品種「はいごころ」の特徴
- 「はいごころ」は、低アミロース米品種「ミルキープリンセス」と巨大胚系統「巨5-7(「はいいぶき」の姉妹系統)」との交配後代から育成された巨大胚水稲品種です。
- 西日本で広く栽培されている水稲品種「ヒノヒカリ」と同じ中生熟期の品種です(表1)。苗立ちは「はいいぶき」よりも優れ、収量性は「はいいぶき」より約15%多収で「ヒノヒカリ」並みです(表1)。また、縞葉枯病にも抵抗性のため、「はいいぶき」よりも栽培しやすくなっています(表1)。
- 玄米重に対する胚芽重の割合および水に浸漬後のGaba生成量は「はいいぶき」と同等で、「ヒノヒカリ」の約3倍を示します(表1)。アミロース含有率が約8%の低アミロース米のため、玄米はやや白濁し(写真1)、食味は粘りがあって「はいいぶき」よりも優れます(表1)。
- 「はいごころ」の玄米粉で焼成した玄米粉パンはGabaが多く含まれるだけでなく、「はいいぶき」よりも硬くなりにくい特徴を持っています(図1)。
生産上の留意点
耐倒伏性は強くないので多肥栽培は避けて下さい。また、穂発芽性は強くないので適期刈り取りに努めて下さい。
品種の名前の由来
機能性に富む巨大胚品種を食することにより、多くの人が心おだやかに生活できることを期待して名付けられました。
今後の予定・期待
現在、岡山県津山市、瀬戸内市において、「はいいぶき」に代えて普及に向けた取り組みが開始されています。「はいごころ」の育成は、米の需要拡大や農業の6次産業化に役立つことが期待されます。
利用許諾契約に関するお問い合わせ先
農研機構 連携普及部 知財・連絡調整課 種苗係
Tel:029-838-7390 Fax:029-838-8905
用語の解説
1)低アミロース米
胚乳に含まれるデンプンには、アミロースとアミロペクチンという2種類のデンプンが存在しています。コシヒカリなどのうるち米はアミロース含有率が17~20%ぐらいですが、そのアミロースの含有率が少ない(5~15%)ものを低アミロース米と呼んでおり、通常のうるち米よりもち米に近い性質をもち、米が粘りやすくなります。なお、アミロース含有率が低いほど米は粘りが強くなり、もち米はアミロース含有率が0%です。
2)巨大胚米
胚芽の大きさが通常品種より2~3倍大きい米。突然変異系統から選抜された形質で、玄米中の胚芽に含まれる成分も増加し、例えば、血圧調整作用のあるγ-アミノ酪酸(Gaba)という機能性成分の含有率が通常品種の数倍になります。
3)γ-アミノ酪酸(Gaba)
アミノ酸の1種で、動物から植物に至るまで広く自然界に存在しています。血圧調整作用、精神安定作用等の機能があり、これを利用した食品が開発されています。
4)縞葉枯病
稲のウイルス病のひとつで、ヒメトビウンカによって媒介されます。葉に黄緑色または黄白色の縞状の病斑があらわれ、生育が不良となり、やがて枯死します。後期感染では、黄緑色の条斑を生じ、穂が奇形となって十分に葉から出なくなる症状を示します。
5)発芽玄米
玄米には胚芽の部分にGabaが含まれており、玄米を水に浸漬することでGabaの量が増加することが知られています。この作用を利用するため、玄米を水に数時間浸漬して玄米の胚芽に含まれるGabaを富化したもの。玄米を水に浸すことが発芽の過程と同じであるため、発芽玄米と呼ばれています。
6)玄米粉
米粉は一般に白米を粉にしたものですが、高い栄養価とコスト削減の観点から玄米粉としての利用も期待されます。玄米粉パンは、Gabaや食物繊維等の機能性成分が多く含まれますが、十分な膨らみが得られないという問題点がありました。しかし、近年、膨らみの良い玄米粉パンを製造する技術が開発されています。