プレスリリース
高温下でも品質が優れ、良食味で多収の水稲新品種「恋の予感」を育成

情報公開日:2014年9月 4日 (木曜日)

ポイント

  • 玄米の外観品質1)が「ヒノヒカリ」より優れ、高温年でも品質が低下しにくい特長があります。
  • 「ヒノヒカリ」と比べ約8%多収で、米飯食味は「ヒノヒカリ」並に良好です。
  • いもち病に対しては「ヒノヒカリ」より強く、縞葉枯病にも抵抗性です。
  • 関東以西の暖地、温暖地向けの品種です。

概要

  • 農研機構は、近畿中国四国地域向けに登熟期の高温による品質低下が生じにくい水稲新品種「恋の予感」を育成しました。
  • 「恋の予感」は、現在の主力品種「ヒノヒカリ」とほぼ同じ時期に収穫できます。玄米品質は、登熟期の高温に強い「にこまる」と同程度で、「ヒノヒカリ」より優れています。
  • 「ヒノヒカリ」よりも約8%多収で、米飯の食味は「ヒノヒカリ」と同様に良好です。
  • いもち病に対しては「ヒノヒカリ」より強く、縞葉枯病(しまはがれびょう)2)に抵抗性を有するため、栽培しやすいことも特長です。
  • 9月13日(土)・14日(日)に、エフピコRiM(福山市西町一丁目1-1)で開催される「備後ものづくりフェア」、9月27日(土)に、当センター(福山市西深津町六丁目12-1)で開催される一般公開で、試食提供します。

予算

交付金、農林水産省委託プロジェクト「気候変動に適応したイネ科作物品種・系統の開発(気候変動プロ)」

品種登録出願

平成26年5月23日(品種登録出願番号:第29234号)

新品種育成の背景・経緯

近畿中国四国地域では、近年登熟期間中の高温の影響で、主力品種の「ヒノヒカリ」で白未熟粒3)が多発し、玄米品質の低下が問題となっています。このため、登熟期の高温条件でも玄米品質の優れた良食味品種の育成が緊急の課題となっています。
近畿中国四国地域の一部では、九州で育成された高温に強い「にこまる」(2005年育成)が作付けされていますが、栽培地域や年次によっては、収穫期が「ヒノヒカリ」よりも大きく遅れることがあります。そこで、この地方の平野部~中山間地に向く中生品種で、高温下で栽培しても玄米品質が優れ、多収で食味の良好な水稲新品種「恋の予感」を育成しました。
「恋の予感」は、食味、玄米品質および収量に優れる「きぬむすめ」に、縞葉枯病抵抗性を有し、玄米品質が良好で良食味の「中国178号」を交配して育成した品種です(写真1、2)。2002年に交配を行い、2014年5月に品種登録出願しました。

新品種「恋の予感」の特徴

  • 西日本で広く栽培されている「ヒノヒカリ」と同じ中生品種です(表1)。
  • 玄米品質は、登熟期の高温に強い「にこまる」と同程度で、「ヒノヒカリ」に比べると高く(表1、写真3)、高温条件でも低下しにくい特長があります(図1、図2)。
  • 「ヒノヒカリ」より約8%多収で、食味は「ヒノヒカリ」と同等の高い評価を得ています(表1)。
  • いもち病に対しては「ヒノヒカリ」よりも強く縞葉枯病にも抵抗性を有するため、栽培しやすいことも特長です(表1)。

生産上の留意点

  • 「ヒノヒカリ」に比べ、育苗期の高温により葉がやや長く伸びやすい傾向があるため、育苗時には温度管理に注意が必要です。
  • 葉いもちに対しては「ヒノヒカリ」よりは強いですが、適宜防除が必要です。
  • 耐倒伏性(倒れにくさ)は「ヒノヒカリ」と同等ですが、極端な多肥栽培では倒れることもあるので、地力にあった適切な肥培管理が必要です。
  • 白葉枯病4)にやや弱いため、この病気が発生しやすい水害常襲地での栽培は避けます。

品種の名前の由来

ひとたび食すると恋するようなときめきや情熱のあるお米となることを願った名前です。新品種の名称は、JA全農ひろしまと協力して一般公募し選定しました。

今後の予定・期待

「恋の予感」は「ヒノヒカリ」の品質低下が問題となっている地域に広く適すると考えられます(表2)。広島県では奨励品種に採用予定であり、2014年度は約100haに作付けされています。さらに、2015年度には1,000ha、2016年度には2,000haの作付けが計画されています。今後、近畿中国四国地域の「ヒノヒカリ」普及地帯で、同品種に替わる品種としての普及が期待されます。

利用許諾契約に関するお問い合わせ先

農研機構 連携普及部 知財・連絡調整課 種苗係 TEL 029-838-7390 FAX 029-838-8905

表1

表2

写真1

写真2

写真3

図1

図2

用語の解説

1)玄米の外観品質

一等、二等など米の検査規格は、玄米の外観品質などによって決められます。例えば、米粒に白濁があったり、損傷があったりすると評価が下がります。食味や精米歩留まり等に影響するほか、なによりも価格に反映されるので重要な形質です。

2)縞葉枯病

稲のウイルス病のひとつで、ヒメトビウンカによって媒介されます。葉に黄緑色または黄白色の縞状の病斑があらわれ、生育が不良となり、やがて枯死します。後期感染では、黄緑色の条斑を生じ、穂が奇形となって十分に葉から出なくなる症状を示します。

3)白未熟粒

胚乳(下図参照)の一部または全部が白く濁ってしまった玄米のことをいいます。登熟期の高温によりデンプンの蓄積が阻害されること等により発生します。精米しても白濁は無くならず、米の検査等級の下落や食味の低下の原因となります。また、粒が砕けやすいので精米時の歩留まりが悪くなります。玄米の構造

4)白葉枯病

稲の細菌病のひとつで、冠水と強風雨によって感染の機会が増大し、発病が助長されます。葉縁に沿って黄色、白色あるいは青みを帯びた灰緑色の病斑が現れ、基部方向に伸長していきます。発病葉は先端から次第に枯れて灰白色となり、葉の枯死で稔実が害され、減収になることもあります。

5) 高温登熟耐性

稲が出穂(開花・受精)した後に、実が肥大し、成熟することを登熟といいます。高温条件下で登熟させたときの玄米の白未熟粒等の発生程度で評価をする特性です。白未熟粒等の発生が少ないほど「強い」と評価されます。