ポイント
- 多様な加工に向く温暖地向け大豆新品種「こがねさやか」を育成しました。
- 温暖地の主要な中生品種「サチユタカ」と成熟期はほぼ同じですが、より多収です。
- 種子中のリポキシゲナーゼ1)がないので、青臭さのない豆腐や豆乳を製造できます。
- 地場産大豆の醤油醸造への利用が見込まれています。
概要
- 農研機構近畿中国四国農業研究センターは、豆腐、豆乳、醤油、味噌等、多様な加工製品の原料に向く温暖地向け大豆新品種「こがねさやか」を育成しました。
- 「こがねさやか」は、成熟期が近畿中国地域の主力品種「サチユタカ」と同じ中生ですが、収量は「サチユタカ」より多収です。中粒大豆で、粗タンパク含有率が高い品種です。
- 種子中のリポキシゲナーゼがないので、青臭さのない豆乳や不快味を低減させた豆腐を製造することができます。
- 醤油醸造にも適しており、兵庫県たつの市において地場産の醤油原料として需要が見込まれています。
予算:運営費交付金
品種登録:出願番号 第29141号(平成26年4月18日出願)
品種登録出願公表:平成26年9月18日
新品種育成の背景と経緯
近畿中国四国地域の大豆作では、地域特産的な黒大豆および豆腐用の「サチユタカ」や「フクユタカ」等が栽培されていますが、煮豆や豆腐以外の加工製品の原料に適する大豆品種は少なく、実需者ニーズに応えられていませんでした。例えば、兵庫県では醤油醸造のための地場産原料の需要がありますが、この地域の主力品種の「サチユタカ」は種子の粒が大きく、醤油原料には向かないため、タンパク質含有率が低いものの中粒品種の「タマホマレ」が用いられています。
そこで、農研機構近畿中国四国農業研究センターでは醤油等の豆腐以外の用途にも適し、実需者ニーズに合致する温暖地向き大豆品種の開発を進めてきました。「こがねさやか」は、豆腐や豆乳の風味を改良するため、青臭さの原因となる種子中の酵素リポキシゲナーゼをすべて欠失させ、さらに、粒の大きさを中粒にし、タンパク質含有率を高くすることで醤油用原料としても適する特性を付与しています。
「こがねさやか」は、種子中のリポキシゲナーゼを欠く「エルスター」を母、倒れにくく多収の「サチユタカ」を父として、2001年に交配を行い、その後選抜を重ねた後、大豆系統「四国10号」として各地で評価を行い、2014年4月に品種登録出願しました。
新品種「こがねさやか」の特徴
- 「こがねさやか」は、「サチユタカ」と成熟期がほぼ同じ中生の品種ですが、より多い収量(同じ面積での収穫量)が期待できます(表1)。裂皮2)は「サチユタカ」より少ない傾向にあります(表1)。青立ち3)の発生が「サチユタカ」より少なく、ラッカセイわい化ウイルス4)に抵抗性をもちます(表1)。
- 「タマホマレ」と同じ中粒大豆で、「サチユタカ」より粒が小さいので(写真1)、醤油醸造に適します。種子の粗タンパク含有率が「タマホマレ」より高いため(表1)、うまみ成分のもととなる窒素分が高くなり、官能評価も良好です。
- 青臭みの原因となる種子中の3種類の酵素リポキシゲナーゼをすべて欠失しています。豆腐に加工した際には、青臭さがないため、「不快味」が減少します(図1)。「こく味」や「おいしさ」の評価も良好で、また、適度な破断強度5)が得られることから(図1)、豆腐加工に適すると評価されています。また、豆乳は青臭さが無く、味も良好です。
- その他、味噌原料、特に淡色味噌原料として評価が高く(表2)、また、納豆への利用も可能である、との評価を得ています。
生産上の留意点
成熟した莢(さや)が割れやすいので、コンバイン収穫が可能な茎水分に達したら、速やかに刈取りしてください。
また、異品種の混入はリポキシゲナーゼ欠失大豆の特性を損なうので、十分に注意してください。
品種の名前の由来
リポキシゲナーゼ欠失大豆の特性を生かした、さわやかな加工品が製造でき、成熟期には淡褐色の莢が黄金色に見えることから名付けられました。
今後の予定・期待
平成27年から、兵庫県たつの市および周辺地域において「タマホマレ」に替えて栽培される予定です。現在、「こがねさやか」を原料とした醤油醸造試験に取り組んでおり、平成27年産醤油から地場産の大豆原料はすべて「こがねさやか」になります。また、リポキシゲナーゼ全欠大豆の特性を生かした加工製品の開発が進められており、需要および作付けの拡大が期待されます。
利用許諾契約に関するお問い合わせ先
農研機構 連携普及部 知財・連絡調整課 種苗係
Tel 029-838-7390 Fax 029-838-8905
補足
用語の解説
1)リポキシゲナーゼ
脂肪酸を酸化する酵素で、青臭みの成分(n-ヘキサナール)を発生する原因となります。種子中には3種類のリポキシゲナーゼ(L-1、L-2、L-3)が含まれています。L-1、L-2、L-3は、異なる種類のタンパク質でありながら、同様の酵素活性をもつことから、リポキシゲナーゼアイソザイムと呼ばれています。これまでに、「こがねさやか」の交配親の「エルスター」など、3種類のリポキシゲナーゼアイソザイムをすべて欠く(リポキシゲナーゼ全欠)大豆品種が育成されており、それらの品種を使って、青臭さのない豆乳などの加工製品が製造されています。
2)裂皮
大豆の種子は、薄い皮(種皮)に覆われていますが、種子が肥大している時期にストレスを受けたり、収穫後に強い乾燥処理を行ったりすると、種皮に裂け目が入ることがあります。この現象を裂皮といい、外観品質低下の要因の1つとなっています。品種により裂皮の発生に難易があることが知られています。
3)青立ち
莢は茶色く成熟して収穫適期を迎えているものの、茎や葉が枯れずに青々としている状態のことです。青立ちの状態でコンバイン収穫を行うと、茎や葉の汁が種子に付着して汚損させるので品質を悪くします。一方、茎や葉が枯れ上がるまで収穫を遅らせると、腐敗等による種子の品質低下や、成熟した莢が割れやすい品種では、種子の落下による収穫ロスが発生します。
4)ラッカセイわい化ウイルス
ラッカセイわい化ウイルスは、アブラムシにより媒介され、大豆が感染した場合、収穫量が減少したり、種子が褐班粒となって品質が低下したりします。「サチユタカ」や「エンレイ」などの品種は、抵抗性をもたないため、それらの品種の栽培地域では、しばしば問題となることがあります。
5)豆腐の破断強度
同じ製法で製造しても、原料の大豆の特性に応じて、できる豆腐の硬さが変わってきます。破断強度は、その硬さの指標で、その値が高いとしっかりした豆腐ができることを示します。一般的に破断強度の大きい品種が実需者から好まれます。