プレスリリース
(研究成果)縞葉枯病に強いイネ発酵粗飼料専用品種の育成 早生の「つきはやか」と中生の「つきあやか」

- 早生化と耐病性の強化により栽培適地が拡大 -

情報公開日:2020年10月29日 (木曜日)

農研機構は、縞葉枯病1)に強いイネWCS2)(イネ発酵粗飼料)専用の新品種「つきはやか」と「つきあやか」を育成しました。早生の「つきはやか」は、これまでイネWCS専用品種の栽培が困難であった東北地域での普及が期待でき、中生の「つきあやか」は、既存の中生品種「たちあやか」3)の栽培が難しかった縞葉枯病多発地帯での普及が期待できます。また、これまでの晩生品種と栽培を組み合わせることで、移植や収穫作業の分散や良質な飼料の増産が図れます。

概要

牛の飼料として用いられるイネWCSは、水田を有効活用できるイネの利用法として注目されています。通常のイネは、牛にとって消化性が悪い籾の割合が多く、またWCSの調製に必要な糖の含有率4)が低いことが問題でした。そこで農研機構は、これまでにも穂が小さく(=茎葉に比べて籾の割合が小さく)、糖含有率が高いイネWCS専用品種として中生の「たちあやか」、晩生の「つきすずか」5)、極晩生の「つきことか」6)などを育成し、これらの品種は関東以西の広い地域で普及が進んでいます。しかし、これらは東北地域では出穂が遅く栽培に適していないため、「たちあやか」より出穂が早い早生品種が求められていました。また、北関東などの縞葉枯病多発地帯では、抵抗性の弱い「たちあやか」に替わる中生の抵抗性品種が求められていました。

今回、育成した「つきはやか」は早生であるため、中生品種に比べ収量はやや少なくなりますが、これまでのイネWCS専用品種の栽培が困難であった東北地域への導入が新たに期待されます。「つきあやか」は中生で、「たちあやか」の欠点である縞葉枯病抵抗性を改良してあるため、中生を要望する北関東地域などの縞葉枯病多発地帯での普及が期待されます。これら2品種の育成によりイネWCS専用品種の作付け地域の拡大が図れることに加え、関東以西において晩生の「つきすずか」などと栽培を組み合わせることで移植や収穫作業の分散が可能となり、良質な飼料の増産が図れます。

関連情報

予算:運営費交付金

品種登録出願番号:
「つきはやか」第34561号(令和2年3月16日出願、令和2年9月29日出願公表)
「つきあやか」第34562号(令和2年3月16日出願、令和2年6月29日出願公表)

問い合わせ先など

研究推進責任者
農研機構西日本農業研究センター 所長 熊谷 亨

研究担当者
同 水田作研究領域 中込 弘二

広報担当者
同 地域戦略部研究推進室 広報チーム長 菅本 清春

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詳細情報

新品種育成の背景・経緯

イネWCSは、水田を有効活用できるイネの利用法として注目されています。しかし、イネの籾は牛の消化性が悪くそのまま排泄される割合が高いため、栄養の損失が問題になっていました。また、WCSの調製には乳酸菌のエネルギー源となる糖が必要ですが、籾を多く着ける従来品種ではイネの糖含有率が低いことも問題となっていました。
農研機構は、穂が小さく茎葉に比べて籾の割合が極めて小さいイネWCS専用品種として、これまでに中生の「たちあやか」、晩生の「つきすずか」、極晩生の「つきことか」などを育成しました。糖含有率も高く発酵性が優れ、良質のイネWCSが生産できることから、イネWCS用として関東以西の広い地域で普及が進んでいます。しかし、これらの品種は東北地域では出穂が遅く栽培に適しておらず、「たちあやか」より出穂が早い早生品種が求められていました。また、北関東地域などの縞葉枯病多発地帯では、既に晩生で縞葉枯病抵抗性の「つきすずか」の導入が進んでいますが、出穂が遅いため、縞葉枯病に罹病性の「たちあやか」に替わる中生品種が求められていました。
そこで今回、イネWCS専用品種として縞葉枯病抵抗性で早生の「つきはやか」と中生の「つきあやか」を育成しました。

新品種「つきはやか」「つきあやか」の特徴

来歴

いずれの品種も籾重割合の低さは「ホシアオバ」に由来する極短穂突然変異体系統「05多予II-15」に由来し、これに地上部全重が多収の系統をいくつか交配して育成した品種です。

主な特徴

  • 「つきはやか」は、育成地(広島県福山市)での出穂期がイネWCS用として栽培されている早生の多収品種「夢あおば7)」より2日程度、中生の「たちあやか」より12日程度早い早生品種です(表1)。全体に占める籾の重さの割合(籾重割合)は「夢あおば」の48.9%に対して、23.1%と少なく、消化性が優れる茎葉部の収量は「夢あおば」より44%多収です(表1、図1)。東北地域(秋田県大仙市)における5月18日移植での出穂期は8月11日であり、「夢あおば」の8月3日より1週間程度遅く、「たちあやか」より2週間程度早くなります(表2)。また、縞葉枯病に抵抗性です(表3)。
  • 「つきあやか」は、出穂期が「たちあやか」より2日程度早い中生品種です(表1)。全体に占める籾の重さの割合(籾重割合)は4.4%と「たちあやか」と同様に極めて少なく、消化性に優れる茎葉部の収量は「たちあやか」と同等です(表1、図1)。縞葉枯病に抵抗性で(表3)、「たちあやか」の欠点を改良してあります。
  • 糖含有率は「つきはやか」で12.5%、「つきあやか」は16.7%であり、良好な発酵が期待できます(図1)。

その他の特徴及び栽培上の留意点

  • 育成地である瀬戸内沿岸部における6月上旬移植での出穂期は「つきはやか」で8月4日、「つきあやか」で8月14日ですが(表1)、出穂特性の日長反応性8)程度は弱く、移植時期の変動により出穂期は前後します(表4)。
  • おおよその栽培適地は「つきはやか」では東北中部以南、「つきあやか」では東北南部・北関東以南です(図2)。
  • いもち病の真性抵抗性9)遺伝子"Pi20"や"Pib"を有するため、侵害菌が存在せず罹病しない地域もありますが、変異菌の発生により罹病化する可能性が高いので、防除を徹底してください。
  • 収穫は、十分な乾物収量や良好な発酵品質を確保するため出穂期30~40日後以降に行う必要があります。

品種の名前の由来

「つきはやか」:縞葉枯病抵抗性が'付き'、早く収穫できることから命名しました。
「つきあやか」:「たちあやか」に縞葉枯病抵抗性が'付いた'こと(付き)から命名しました。

今後の予定・期待

「つきはやか」は早生品種であるため、これまでの穂が小さいイネWCS専用品種の導入が難しかった東北地域への普及が、「つきあやか」は中生を要望する北関東地域などの縞葉枯病多発地帯での普及が見込まれ、これら2品種によりイネWCS専用品種の作付け地域の拡大が期待できます。加えて、関東以西においてこれら2品種と晩生の「つきすずか」などと栽培を組み合わせることにより、移植や収穫作業の分散が可能となり、良質な飼料の増産が期待できます。

原種苗入手先に関するお問い合わせ

農研機構西日本農業研究センター 地域戦略部 研究推進室 知的財産チーム
TEL: 084-923-4107 FAX: 084-923-5215

利用許諾契約に関するお問い合わせ

農研機構本部 知的財産部 知的財産課 種苗チーム
TEL: 029-838-7390 FAX: 029-838-8905

用語の解説

1)(イネ)縞葉枯病:
イネ縞葉枯ウイルスによって引き起こされる病害です。ヒメトビウンカによって媒介されます。多発すると収量の減少につながり、ウイルスを保有したヒメトビウンカが増加して地域の稲作へも影響します。ヒメトビウンカは麦類を好むので稲麦二毛作地帯で発生が多い傾向があり、近年は全国的に増加傾向にあります。

2)WCS(ホールクロップ・サイレージ):
子実だけではなく茎や葉も一緒に専用の機械で収穫し、乳酸菌などで発酵させた牛用の飼料。

3)たちあやか:
穂が小さいため茎葉に比べて籾の割合が極めて小さく、糖含有率が高いイネWCS専用の中生品種。縞葉枯病に罹病性です。

4)糖含有率:
ブドウ糖、果糖、ショ糖の含有率の合計値。糖は乳酸発酵の基質となります。サイレージの調製においては、糖含有率が高いほど発酵性が良くなります。

5)つきすずか:
穂が小さいため茎葉に比べて籾の割合が極めて小さく、糖含有率が高いイネWCS専用の晩生品種「たちすずか」の長所を引き継ぎ、欠点である縞葉枯病抵抗性を改良した品種。稲麦二毛作地帯などの縞葉枯病が発生しやすい地域で、イネWCS用として「たちすずか」とともに関東以西の広い地域で普及が進んでいます。

6)つきことか:
穂が小さいため茎葉に比べて籾の割合が極めて小さく、糖含有率が高いイネWCS専用の極晩生品種。「たちすずか」より2~3割茎葉収量が高く、晩植栽培にも適しています。

7)夢あおば:
粗玄米重、全重ともに多収の早生品種であり、飼料用米やイネWCS用として広く栽培されています。

8)日長反応性:
1日のうちの明るい時間の長さ(日長)を感じて花芽をつける性質。イネは基本的に日が短くなったことを感じて花芽をつける性質があります。この性質が強いと春の植え付けが早くても遅くても、ほぼ同じ時期に開花(出穂)しますが、弱いと日の長さに関係なく、生育の状態に応じて開花(出穂)時期がずれます。

9)真性抵抗性:
特定の種類の病原菌に対して、特異的に強い抵抗性を示し、病斑をつくらないのに対し、ほ場抵抗性は病原菌の種類に対する特異性はなく、病斑をつくるものの、病気の進展を遅らせるなどの抵抗性を示します。真性抵抗性を有する品種を栽培し続けると、その真性抵抗性を侵害する変異菌が発生し、罹病化することが知られています。

参考図

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