プレスリリース
(研究成果)複数の土壌病害に防除効果を示す新菌株を発見

- 新たな対策技術の開発に道筋 -

情報公開日:2026年6月 5日 (金曜日)

ポイント

農研機構は、複数の土壌病害の発病を抑制できる拮抗細菌1)の新菌株を世界で初めて発見しました。今回発見した新菌株は、ブドウ根頭がんしゅ病2)トマトかいよう病3)トマト青枯病4)といった難防除土壌病害に対して高い発病抑制効果を示すだけでなく、ハクサイ黒腐病5)ハクサイ黒斑細菌病6)など、土壌病害以外の病害の発病も抑制することが確認されました。

本成果は、この新菌株を有効成分とする生物農薬7)の開発につながるものであり、化学農薬の使用低減による環境負荷低減に貢献する新たな病害防除技術として、幅広い病害対策への応用が期待されます。

概要

土壌病害は、土壌中に生息する病原菌によって植物が発病する病害の総称です。発病すると植物の生育が阻害され、生育不良や枯死の原因となります。病原菌は土壌中に長期間残存するため、感染した植物が枯死した後も、次に植栽した作物が再び発病するなど、被害が長期化する特徴があります。このため、土壌病害は農業生産現場において深刻な問題となっています。

一方、従来の化学農薬を用いた土壌消毒に代えて、生産者が省力的かつ経済的に取り組みやすい新たな防除対策への転換や、環境負荷の少ない防除技術の開発が求められています。

このような背景のもと、農研機構は、複数の土壌病害の発病を抑制できる拮抗細菌の新菌株「非病原性Allorhizobium vitis(アロリゾビウム・ヴィティス)A3株」(以下、A3株)を発見しました。複数の土壌病害を抑制できる拮抗細菌の発見は世界で初めてです。A3株は、ブドウ根頭がんしゅ病、トマトかいよう病、トマト青枯病(図1)といった難防除土壌病害に対して高い発病抑制効果を示すだけでなく、土壌病害以外のハクサイ黒腐病やハクサイ黒斑細菌病など、地上部に感染する病害の発病も抑制することが確認されました。

本成果は、A3株を有効成分とする生物農薬の開発につながるものであり、化学農薬の使用低減による環境負荷低減に貢献する新たな病害防除技術として、幅広い病害対策への応用が期待されます。

ブドウ根頭がんしゅ病、トマトかいよう病、トマト青枯病の症状例
図1農業生産現場で問題となる代表的な土壌病害の症状
(A)ブドウ根頭がんしゅ病。がんしゅ(こぶ)が形成されている。
(B)トマトかいよう病。植物全体が枯死している。
(C)トマト青枯病。植物が萎凋(水分が不足してしおれること)しており、最終的には植物全体が枯死する。
※各図の赤い矢印は発病部位・症状を示す。

関連情報

予算 : 運営費交付金
特許 : 新規アロリゾビウム・ヴィティス株およびその使用(国際公開番号:WO2026/062991)

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構 西日本農業研究センター所長橘 雅明
研究担当者 :
同 中山間水田利用研究領域 上級研究員川口 章
広報担当者 :
同 研究推進部 研究推進室 広報チーム藤岡 美代子

詳細情報

開発の社会的背景

化学農薬だけに依存しない新たな病害虫防除技術の開発は、世界的に強く求められています。日本においても、「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律(みどりの食料システム法)(令和4年施行)」に基づき、農林漁業に由来する環境負荷の低減を目的とした取り組みが推進されています。しかし、土壌病害に対しては、依然として環境負荷の大きい化学農薬などを用いた土壌消毒が必要となる場合が多いのが現状です。
これまで、化学農薬に代わる手段として土壌病害に対しても生物農薬の開発が進められてきましたが、防除効果の低さや適用病害の少なさが課題となり、利用場面は限定されてきました。これらの課題を解決するために、土壌病害を含む複数の病害に対して化学農薬と同等、あるいはそれ以上の高い防除効果を示す拮抗細菌の発見と、その活用が望まれていました。しかし、そのような研究事例はこれまで報告されていませんでした。

研究の経緯

前述の課題を解決するため、農研機構は、これまでにない新しい拮抗細菌の探索に取り組みました。拮抗細菌は、土壌や植物の表面、あるいはその体内など、自然界に広く存在しますが、多様な微生物が共存する環境から、目的とする拮抗細菌を分離・同定することは容易ではありません。 そこで農研機構は、全国の農業生産現場において新しい拮抗細菌の探索を長期にわたり行った結果、単一の菌株で複数の土壌病害の発病を抑制できる新菌株「非病原性Allorhizobium vitisA3株」を発見しました。

研究の内容・意義

本研究で発見したA3株は、植物に対して病原性を持たない非病原性細菌です。同属同種には、ブドウに対して病原性を示すブドウ根頭がんしゅ病の原因菌(以下、根頭がんしゅ病菌)が存在します。拮抗細菌は、近縁種の細菌に対して拮抗作用を示すことが多いことから、まずブドウ根頭がんしゅ病(図1-(A))に対する防除効果を検証しました。

具体的には、ブドウ苗の根を液体培養したA3株の菌液(108細胞数/mL)に1時間浸した後(A3株処理区)、根頭がんしゅ病菌に汚染された土壌に定植し、発病状況を評価しました。その結果、A3株を処理した苗では、無処理と比較して発病個体数が89%抑制されることが確認できました(図2図3-(A))。

次に、日本で発生が問題となっている土壌病害の中から、A3株とは属種の異なる病原細菌によって起こるトマトかいよう病(図1-(B))およびトマト青枯病(図1-(C))に対する防除効果を検証しました。ブドウの試験と同様に、トマト苗の根をA3株の菌液に浸した後、各病原菌に汚染された土壌に定植し、発病状況を評価しました。その結果、A3株を処理した苗では、無処理と比較して、トマトかいよう病の発病個体数が88%、トマト青枯病の発病個体数が73%抑制されることが確認できました(図2図3-(B)、(C))。

一般的に土壌病害は、土壌消毒を行っても防除することが困難な場合が多いですが、本研究では、苗の根をA3株の菌液に浸した後に定植するという簡便な方法により、3種類の土壌病害において発病個体数を73~89%抑制する高い防除効果が得られることを示しました。

さらに、A3株が土壌病害だけでなく、地上部から感染する病害に対しても有効であるかを検証するため、アブラナ科野菜の重要病害であるハクサイ黒腐病およびハクサイ黒斑細菌病に対する防除効果を検証しました。具体的には、ハクサイ苗の葉にA3株の菌液を散布した後、各病原菌を接種し、発病状況を評価しました。その結果、A3株を処理した苗では、無処理と比較して、ハクサイ黒腐病およびハクサイ黒斑細菌病の発病個体数が、それぞれ62%、65%抑制されることが確認されました(図2図3-(D)、(E))。

これらの結果から、A3株は、苗の根への浸漬処理や葉への散布処理といった現場で実施しやすい方法により、土壌病害だけでなく地上部病害に対しても防除効果を示す拮抗細菌であり、幅広い病害に適用可能な生物防除資材として活用できる可能性が示されました。

図2A3株による5種類の植物病害の発病抑制率(%)
図3A3株による5種類の植物病害の発病抑制効果 (A)根頭がんしゅ病菌を接種したブドウ(無処理区の矢印は発病したがんしゅ)
(B)かいよう病菌を接種したトマト(無処理区のトマトは発病して萎れている)
(C)青枯病菌を接種したトマト(無処理区のトマトは発病して萎れている)
(D)黒腐病菌を接種したハクサイ(無処理区のハクサイは発病して葉の一部が枯れている)
(E)黒斑細菌病菌を接種したハクサイ(無処理区のハクサイは発病して葉に小さい褐色の斑点が出ている)

Allorhizobium属細菌を含むリゾビウム科の細菌の中には、近縁の種の病原細菌に対して抗菌活性を示すタンパク質化合物rhizoviticin(リゾビティシン)8)を産生する系統が存在することが知られています。

そこで、A3株の発病抑制メカニズムを明らかにするために遺伝子解析を行ったところ、A3株はrhizoviticinの合成に関与する遺伝子群を有していることが明らかになりました。さらに、rhizoviticinの活性を評価した結果、A3株由来のrhizoviticinは同属同種の病原細菌であるブドウ根頭がんしゅ病菌に対して強い抗菌活性を示しました。一方、トマトかいよう病菌など他の病原細菌に対する抗菌活性は弱い傾向を示しました(図4)。

植物を用いた試験では、A3株は前述の5種類の病害に対して高い発病抑制効果を示したことから、A3株にはrhizoviticin以外にも発病抑制に関与するメカニズムが存在する可能性が示唆されます。これらのメカニズムの解明は今後の研究課題ですが、解明が進めば、A3株を利用した新たな防除技術の開発につながることが期待されます。

図4A3株の培養液中に含まれるrhizoviticinの抗菌活性 (A)A3株の培養菌液からrhizoviticinを含むタンパク質画分を精製したものを、根頭がんしゅ病菌を含む寒天培地の中央に滴下して24時間培養したもの。滴下した場所のみ根頭がんしゅ病菌の増殖が強く抑制されて色が円状に変化している(菌が増殖した部分は白色だが、増殖していない部分は濃い灰色になっている)。 (B)A3株の培養菌液からrhizoviticinを含むタンパク質画分を精製したものを、トマトかいよう病菌を含む寒天培地の中央に滴下して24時間培養したもの。(A)と比べて抗菌活性が弱いことがわかる。 ※各図の赤い矢印はA3株の培養菌液からrhizoviticinを含むタンパク質画分を精製したものを滴下した場所を示す。

今後の予定・期待

本成果により、上記の5種類の異なる病害に対して広く発病抑制効果を示す拮抗細菌が存在することを世界で初めて示しました。特に、土壌病害に対しては、苗の根を培養菌液に浸すというシンプルな処理方法で高い防除効果を示したことから、A3株は土壌病害に対する有効な対策として期待されます。

今後は、発病抑制メカニズムの解明をさらに進めるとともに、ほ場試験による評価を行い、生物農薬としての実用化を目指します。将来的には、本技術を広く展開し、化学農薬の使用低減による環境負荷低減を通じて、持続可能な農業の実現に貢献したいと考えています。

用語の解説

拮抗細菌
他の微生物の生存や増殖を抑制する性質を持つ細菌です。主な仕組みとして、抗菌物質の産生と放出、栄養や生息場所の奪い合い(競合)などが挙げられます。農業分野では、植物病害を防ぐ「生物農薬」として注目されており、Bacillus(バチルス)属細菌などが代表的な例です。化学農薬の使用を減らし、環境負荷を抑えながら植物を健全に育てるための有効な手段として活用されています。 [ポイントへ戻る]
ブドウ根頭がんしゅ病
土壌中に生息する植物病原細菌である病原性Allorhizobium vitisなどによって引き起こされ、植物の根や茎などに「がんしゅ(癌腫)」と呼ばれるこぶを形成する土壌病害です。根や地面に近い部位の傷などから植物体内に侵入すると考えられています。発病したブドウは、長期的な生育不良や枯死に至るため、生産現場にとって大きな経済的被害をもたらす深刻な病害です。 [ポイントへ戻る]
トマトかいよう病
土壌中に生息する植物病原細菌Clavibacter michiganensis subsp. michiganensisによって引き起こされ、果実にかいよう(潰瘍)症状を形成させたり、植物全体を萎凋(水分が不足してしおれること)および枯死させたりする病害です。種子伝染、土壌伝染、飛沫伝染、接触伝染など複数の伝染経路があり、防除が難しいことから、生産現場にとって大きな経済的被害をもたらす深刻な病害です。 [ポイントへ戻る]
トマト青枯病
土壌中の植物病原細菌Ralstonia solanacearumなどによって引き起こされる病害で、主に根から侵入し、導管を詰まらせることで植物全体が急激に萎凋し、枯死します。発病後の回復は難しく、防除には化学農薬を用いた土壌消毒や抵抗性品種が利用されています。防除が難しく生産現場にとって大きな経済的被害をもたらす深刻な病害で、世界の年間推定被害額は1,500億円と言われています(Phiri et al. 2024. Agronomy 14:350より引用)。 [ポイントへ戻る]
ハクサイ黒腐病
植物病原細菌Xanthomonas campestris pv. campestris によるアブラナ科野菜の代表的な病害で、葉縁の黄化から葉脈の黒変、病斑の拡大を特徴とします。病斑は乾燥して薄く破れやすくなり、進行すると株全体が枯れます。種子、発病して枯死した植物残さ、および雨滴で伝染します。防除には化学農薬の散布や抵抗性品種が利用されています。 [ポイントへ戻る]
ハクサイ黒斑細菌病
植物病原細菌Pseudomonas syringae pv. maculicolaなどが原因となる細菌病で、葉・茎・花梗に小さな褐色の斑点が生じ、次第に黒褐色で不整形の病斑へと拡大します。病斑は表面性で内部組織に及ぶことは少ないものの、生育阻害や葉先の枯死を招きます。多雨条件や風通しの悪いほ場で発生が助長されることから、防除には化学農薬の散布やほ場の排水の改善などが行われています。 [ポイントへ戻る]
生物農薬
細菌や糸状菌(カビ)、昆虫などの生き物の力を利用して、農作物の病気や害虫を防ぐ農薬です。化学農薬に比べ、特定の病害虫だけに作用し、人や環境への影響が少ないのが特長です。微生物を利用する場合には微生物農薬とも呼ばれます。 [ポイントへ戻る]
rhizoviticin(リゾビティシン)
リゾビウム科の細菌が産生するバクテリオファージ(細菌に特異的に感染するウイルスの一種)の尾部様粒子(通称:テイロシン)で、細菌を溶菌させる効果を持つ抗菌活性物質です。 [研究の内容・意義へ戻る]

発表論文

Akira Kawaguchi (2026) A novel Rhizobiales strain A3 exhibits multi-disease biocontrol and carries a rhizoviticin-coding region. Plant, Cell & Environment DOI:10.1111/pce.70393