

酪5C1:酪農スラリーの高度肥料利用のための技術開発
1.研究目的
乳用牛のふん尿混合排せつ物(酪農スラリー)から肥料利用の障害となる雑草種子を除去する技術等を確立することにより、耕種農家でも利用しやすい酪農スラリー由来の液肥や堆肥を生産する技術を開発することを目的とする。
2.研究背景
酪農スラリーは酪農家が一時貯留し、簡易発酵後自家圃場に撒くことで処理されているが、増頭により過剰施肥となっている酪農家もあることから自家圃場外での有効利用が求められている。しかし、酪農スラリーには雑草種子等が含まれていることに加え、肥効や運搬性が悪いため、耕種農家において酪農スラリーの利用が敬遠される傾向にある。

3.研究内容
- ①圃場への雑草の侵入を防ぐため、固液分離機により雑草種子を固形分側で回収する技術を開発
- ②肥効を高めるため、液分中のアンモニウムイオンを硝酸イオンに変換する等、酪農スラリーを有効利用する技術を開発
- ③運搬性を改善するため、新規膜分離処理による効率的なメタン発酵消化液等の濃縮技術を開発

4.達成目標・期待される効果
達成目標
- ・雑草種子の90%以上を固形分側に回収する固液分離技術を開発
- ・新規の膜分離処理技術の開発により、肥料成分を2倍に濃縮する技術を開発

期待される効果
- ・酪農スラリーを作物生産に利用して、耕畜連携と資源循環の促進に貢献
- ・2050年までに化学肥料の使用量の30%低減に貢献
代表機関
共同研究機関
1. 1年目取組概要
固液分離技術の開発では、ラボスケール試験で雑草種子10種に対し、99%以上の種子を固形分側に回収できることを明らかにした。固液分離後の液分の高品質化技術の開発では、 装置の試作設計及び製作や、ニ価鉄資材を利用した臭気低減効果の検討等を行った。固形分の処理では、寒冷地でも堆肥化を促進できる副資材(高カロリー資材、微生物資材)を選定し、 小規模堆肥化試験装置を用いて昇温効果を検証した。固液分離技術で得られた液肥及び堆肥の肥効性の検証では、雑草種子の発芽試験やポットによる牧草およびトウモロコシの栽培試験を行った。 メタン発酵消化液の膜分離処理では、小規模の基礎実験機を設計製作し、消化液を用いた膜分離による肥料成分濃縮実験を実施した。次年度実施予定の肥効性検証試験に向けて、試験圃場候補地の選定、 液肥の散布作業機の確認等、速やかに開始できる体制を整えた。
2. 小課題毎の進捗状況
〇酪農スラリーの固液分離処理による液肥化・堆肥化処理技術の開発
酪農スラリーを対象に、肥料利用の際に障害となる雑草種子を除去し液肥と堆肥に利用できる技術開発を行うために、固液分離により酪農スラリーから雑草種子を固形分側に回収する技術の開発、 肥効を高めるために固液分離後液分中のアンモニウムイオンを硝酸イオンに変換する条件検討、固液分離後固形分を寒地でも適切に堆肥化処理できる技術の開発等を進めている。 今年度は固液分離機装置や生物電気化学システム装置の試作、堆肥化処理の発酵副資材の探索、雑草種子除去及び失活効果の評価方法法検討、肥効性評価のための条件検討を行った。いずれの課題も概ね予定通り進捗している。
〇メタン発酵消化液の膜分離処理による高度肥料利用技術の開発
メタン発酵消化液を対象に、新たな利用用途を開拓するため肥料成分が濃縮される新規膜分離処理技術を開発するとともに、膜分離処理により得られた液肥は有機肥料としての有用性を検証していく。 今年度は、基礎実験用の膜分離処理を試作し性能評価を行うとともに改良点等を抽出した。また、膜分離処理により得られる液肥の肥効性試験のための条件検討を行った。いずれの課題も概ね予定通り進捗している。
3. 次年度計画
小課題「酪農スラリーの固液分離処理による液肥化・堆肥化処理技術の開発」では、固液分離機を現地に設置し実規模レベルの試験を行うとともに、この試験で得られた液肥や堆肥は別の実行課で利用していくことになるため、 これまで以上の連携がなされるように調整していく。小課題「メタン発酵消化液の膜分離処理による高度肥料利用技術の開発」では、本格的な栽培試験が実施されることになり、 新たな共同研究機関の参画による拡充により種々のデータ取得が期待される。