国際活動

農研機構 欧州WUR拠点駐在員
研究管理役 後藤一寿

オランダで見かける日本の味覚「ふじ」りんごとKAKI ~オランダフルーツ事情~

果物好きのオランダの人たち

オランダでは、一年を通してたくさんの果物が売られています。特に国内生産量の多いリンゴや洋梨はスーパーの売り場から消えることはありません。また、バナナやマンゴー、パイナップルやスイカなどの南国フルーツ、マンダリンを中心とする柑橘類、イチゴやグランベリー、ラズベリーと言った色とりどりのベリーがたくさん並び、オランダの皆さんがいかに果物好きかを物語っています。
オランダ国立公衆衛生環境研究所(RIVM)がまとめた、オランダ人の平均的な果物摂取量は1日あたり125グラム(Fruit and Nuts)で日本人の105グラムに比べると多いです。一方で、オランダ政府への諮問機関であるオランダ健康評議会(Dutch Health Council)は健康指針を示した"Dutch Dietary Guideline 2015"で一日あたりの推奨摂取量を野菜200グラム、果物200グラムに設定し、ヘルスプロモーションを展開しています。日本も、オランダ同様に健康指針を示した「健康日本21(第2次)」にて野菜350グラム、果物200グラムを推奨しており、健康のための果物消費を推奨しています。私の勤務するWageningen University and Research(以下WUR)では健康増進のためスタッフが自由に食べることができるフルーツスタンドが常設され、毎日新鮮なフルーツが並びます。リンゴや洋梨、バナナ、ベリー、フルーツパプリカなど健康的なスナックフルーツが提供されています。また、オランダのスーパーの面白い取り組みとして、子供たちは自由に食べることができるフルーツボックスを設置していることです。このフルーツボックスの中にも新鮮なフルーツが並んでおり、バナナやミカンなど自由に食べることができます。このサービスは子供のみですが、フルーツによる健康増進を進めるヘルスプロモーションの良い例として注目しています。なお、Covid19 感染症の拡大により、これらのサービスは一時中断されています。

写真:大学内に設置されているフルーツボックスとスーパーの売り場に置かれた子供用フルーツ

オランダでも人気のリンゴ "Fuji"

オランダでよく見かける日本由来の果物と言えば、リンゴの「ふじ」とカキがあげられます。リンゴ売り場では、グラニースミス、ピンクレディー、エルスターなどの品種と並び、必ずどこのスーパーでも「ふじ」が並んでいます。価格は4個入りで2~2.5ユーロ(250円~300円)程度です。リンゴの「ふじ」は農研機構の前身、農林省園芸試験場東北支場が1958年に選抜し、1962年に命名登録した品種です。我が国を誇るリンゴ品種ですが、世界の人たちの味覚に受け入れられ、2017年のThe World Apple Report誌 (2017年 5月号)によれば中国をのぞく世界で売られているリンゴ品種のマーケットシェア6.88%に上り、世界第4位に位置しています。欧州のリンゴ産地の状況については後日レポートしたいと思いますが、欧州でも人気のリンゴ品種が日本発、農研機構育成品種であることは実に誇らしいですね。

写真:スーパーのリンゴ売り場
写真:とても甘い(VolZoet)表記のついているFuji

オランダでも"KAKI"が食べられる!

そのような中、秋になるとカキがたくさんスーパーに並びます。カキは英語でPersimmonですが、売り場の表記は"KAKI"です。カキはKAKIとして売られています。カキは元々アジアを中心に食されていた果物ですが、欧州でもスペインでの産地開発の後、各国で消費される様になりました。2018年のカキの世界の生産量は471万トンで、生産量の順では1位中国308.4万トン、2位スペイン49万トン、3位韓国35万トン、4位日本21万トンです。欧州ではスペインが主要な産地に成長しており、欧州全体へ輸出し市場シェアを伸ばしています。スーパーに並ぶKAKIもスペイン産が中心です。日本の渋ガキのように、縦に長い品種が中心ですが、サイズも大きく、甘い品種が多いです。スペインは世界第2位のKAKI産地として輸出を伸ばしています。2019年の輸出量は19万トンに及び、どこの国でもカキを味わうことができるようになりました。オランダ人にも人気です。

写真:スーパーに並ぶKAKI

カキ博士がWageningen University and Researchで最先端の研究を実施

このカキですが、農研機構でも育成に力を入れている果樹品種の一つです。農研機構では果樹茶業研究部門により太秋や麗玉といった新品種を育成し、日本国内の産地育成に貢献するとともに、輸出品目としてこれらを重要視しています。新品種は、育種家と呼ばれる専門家による長年の交配による努力と時間の結晶です。先にお示しした「ふじ」のように世界に愛される品種を生み出すこともできるため、農研機構でも様々な研究を実施しています。このたび、カキ育種を専門とする果樹茶業研究部門ブドウ・カキ育種ユニットの尾上典之主任研究員が、長期在外研究員制度を利用し、WURにて研究中です。尾上主任研究員にVideo Callして研究内容を聞いてみました。

― 研究では何を目指していますか?

"美味しいだけでなく、たくさん採れるカキを開発したいと思っています。これまでに農研機構が開発したカキ品種は高品質で既存品種より高単価で市場取引されています。しかし、これら育成品種は既存品種と比べて収量性が低いため、高い単価にもかかわらず収益性が低く、生産者の所得向上に十分貢献できていないことが課題です。そこで、おいしく高収量が見込めるカキの新品種を育成したいと思っています。"

― なぜWURで研究しようと思いましたか? WURではどんな研究をしていますか?

"WURは農学研究の分野で世界ランキング1位の大学です。WURが開発した世界最先端のバイオインフォマティックス技術をいち早く取り入れて、たくさん採れるカキを開発するための有用遺伝子を探す研究を行っています。我々ヒトを含めて多くの生物は、体を作る設計図である遺伝子セットを、母親由来の1組と父親由来の1組の計2組(=二倍体)持っています。ところが、カキは遺伝子セットを6組(=六倍体)も持っています。カキのように遺伝子セットが多い植物を高次倍数性の植物といいますが、この高次倍数性の植物をターゲットに、品種改良に役立つ遺伝子を探す研究で世界をリードしているのがWURです。派遣先の研究室ではカキは対象ではないのですが、ジャガイモ、バラ、キクなどの高次倍数性植物を研究しています。"

写真 オランダにて研究中の尾上主任研究員

お話を聞いた、尾上主任研究員はCovid19感染症が広がる困難な状況の中、オランダワーヘニンゲン大学に滞在され、精力的に研究されています。ここで世界最先端の育種技術を学び、農研機構のカキ育種研究に活かそうとしています。新品種育成は日本や世界の市場を見ながら、新しい価値を生み出す創造的な仕事です。農研機構は世界のネットワークとつながって研究をすることにより、効果的に研究成果を生み出してゆきます。尾上さんの努力が実り、我が国の果樹農家の皆さんのお役に立ち、消費者の皆様においしいカキが届くのを楽しみにしていてください。