中日本農業研究センター

所長室より -【ICTを活用した水田農業をテーマに北陸地域・東海地域マッチングフォーラムを開催】-

    中央農業研究センターのホームページには所長挨拶のコーナーがあり、これまで、年度当初や年始の挨拶を掲載してきましたが、これからは、『所長室便り』として、定期的に、研究所で取り組んでいることや、各種イベントの概要、最近の研究成果等について解説していきたいと考えています。

   まず、1回目として、昨年行った地域マッチングフォーラムについて紹介します。
   中央農業研究センターでは、昨年4月の法人統合を経て、新たな組織体制のもとで業務を進めていますが、そこでは、研究成果の最大化を図っていくために、社会実装等を通した成果移転、技術普及を進めていくことが大きな責務となっています。
   そのような取り組みの一つとして、これまで、地域マッチングフォーラムを開催してきました。このマッチングフォーラムは、農業者、農業者団体、行政関係者、普及関係者、試験研究機関関係者、民間企業等が双方向に情報交換を行い、農業現場のニーズを踏まえた研究の推進と成果の実用化、営農場面等への迅速な技術普及を図ることを目的に実施しているものです。
   本年度、中央農業研究センターでは、昨年の11月29日に新潟県上越市において「北陸地域マッチングフォーラム」を、また、翌30日には埼玉県大宮市で「関東地域マッチングフォーラム」を、さらに、12月8日には愛知県名古屋市で「東海地域マッチングフォーラム」を開催しました。
    このうち北陸と東海のマッチングフォーラムでは、ICT(Information Communication Technology 情報通信技術)をキーワードに開催しました。この2つのフォーラムでは、これからの水田農業の方向や、その展開を支援する新しい技術を紹介することをねらいに、北陸ではGPS(位置情報システム)、多機能自動給水栓、webカメラ、可変施肥田植機、ドローンなどを用いた生産管理技術を、また、東海では、収量コンバインや生産管理支援システム、トラクターの協調作業システムなどを紹介しました。
    このようなICTの活用が農業で注目され始めた理由には、このICTに関わる基盤的な技術の進歩に加え、農業における要因としても、経営規模の拡大や雇用労働力の増加が進み、経営者が管理すべき対象が飛躍的に増大してきたことがあると思われます。水田作経営で言えば、圃場枚数の増加、その位置の分散化、圃場条件の多様化や作期幅の拡大による作物生育の不均質化、十分な熟練度を持たない従業員の雇用による耕作規模拡大への対応などが進み、経営者が、従来のような稠密・周到な栽培管理を実施していくことが困難となり、いわゆる規模の不経済が生じかねない状況に至っています。 もちろん、規模拡大に対応していくためには作業の高能率化が不可欠であり、そのための技術開発も重要となるわけですが、現在のような圃場条件、担い手の規模拡大の状況を考慮すると、それらと合わせて、上記の問題点を回避していくためのツールとしてICTの活用を図っていくことは、これからの農業経営者にとって不可避であると考えます。
   すでに営農現場においてもICTの活用が図られており、例えば、愛知県の大規模法人においては、作業者はスマートフォンを用いて圃場に入る時と圃場から出る時に位置情報を送信することで、経営者は全体の作業状況が事務所で把握でき、作業の進捗状況の確認や、オペレーターが次に向かうべき圃場等の指示、さらに、収穫作業については、収穫の状況(作業終了時間や予想収穫量)を踏まえた籾を張り込む乾燥機等の指示を行うなど、作業の効率化に活用されています。また、茨城県のある農業法人では、これは研究プロジェクトで実施されているものですが、水位計による圃場の水位データや気象データ(風速など)、あるいは圃場別収量等に関する多数のデータを収集し、その解析を進めています。
   ICTに関わる技術開発において、これまでは、いわゆるビックデータが注目され、まずはデータを収集することに力点が置かれてきたように思います。しかし、重要な点はそれらを農業経営にどう活かしていくかであり、この点では、様々なツールで収集したデータを解析する手法の開発が必要になるでしょう。換言すれば、知識科学の分野で知のピラミッドと呼ばれているように、データをまず情報に変換し、さらに、それを知識へと改編していくことが今後の課題となるのではないかと考えます。その意味では、このようなICTを農業経営の中にどのように活かし、その経済効果を発現させていくかに、今後、議論は移っていくのではないかと思われます。
   フォーラムでは、両地域合わせて合計300名の参加があり、話題提供に加え、別会場での技術相談やパネル展示にも多くの方においで頂くことができました。
    なお、これらのマッチングフォーラムにおいて使用された資料については、このホームページの「お知らせ」欄で掲載していますので、こちらを参照して下さい。

東海地域マッチングフォーラム開催報告

北陸地域マッチングフォーラム開催報告