北海道農業研究センター

II 乾田直播栽培の取り組み事例

岩見沢市 有限会社新田農場
―水稲乾田直播栽培の高単収・安定化と水田輪作の形成―

1. 経営の概況

  • 有限会社新田農場 (以下、同社) は岩見沢市北村に立地し、概況は表B-1の通り。
  • 水稲面積は9.5haと経営面積の約1/4で、2017 (平成29) 年より直播栽培 (乾田直播) だけとなっている。品種は、「えみまる」、「大地の星」、「ななつぼし」である。
  • 水田転作となる畑作物は、小麦、大豆のほか、デントコーン、なたね、てん菜と種類が多く、経営面積の3/4を占め、同社の経営における畑作物のウェートは高い。
  • 水稲乾田直播栽培とこれら畑作物との輪作 (水田輪作) が同社の特徴であり、畑作用の多くの農機を会社所有により汎用利用する (写真B-1) とともに、大型コンバインは収穫受託法人へ参加し利用するなど、高能率作業と低コスト化を両立させている (写真B-2) 。
表B-1 (有)新田農場の概況
写真B-1 (有)新田農場の主な農機
(左 : レーザーレベラー、中央 : ハロー + ドリル、右 : ケンブリッジローラー)
写真B-2 収穫受託法人の大型コンバイン

2. 直播栽培導入の契機と単収向上・安定化

1) 直播導入の契機 ―転作作物での連作障害の深刻化と克服―

  • 1990年代までは、土地条件の良い圃場を水稲、悪い圃場 (湿田、自宅から遠い等) を転作として圃場を固定化するとともに、当初小麦、ついで大豆導入による小麦・大豆の交互作としていた。しかし、連作による雑草繁茂、小麦での「立枯病」や、大豆での「ダイズシストセンチュウ」等の病害により減収・所得が低下してきた。
  • この打開のため、2000年前後から田畑輪換を実施したが、代かきを行う慣行稲作を前提とした畑作物栽培では、土壌砕土性の低さ等のため、所得向上には繋がらなかった。そこで、代かきを行なわずに、省力的な乾田直播に取り組むこととなった。

2) 乾田直播の単収向上・安定化 ―地下灌漑による出芽・苗立ち向上―

  • 2003 (平成15) 年に、乾田直播の導入を試みたが、当初は栽培方法等が未確立であった。その後、品種を「大地の星」に絞るとともに、普及センターの指導により出芽・苗立ちが向上して、2006 (平成18) 年には単収も向上、安定する。
  • さらにケンブリッジローラーを用いた鎮圧による播種床造成と麦用ドリルを利用した高速播種の採用で、乾田直播が輪作の1作物として定着することとなった。
  • 出芽・苗立ち向上には、播種直後からの水管理が重要であり、直後のフラッシングも自然に乾くのを待ち、乾くと入水している。播種量は11kg/10aである。除草体系も整備される中で同社の水稲直播収量は毎年9~10俵を確保している (図B-1) 。
  • これらの結果、2014年には平成26年度北海道優良米生産出荷共励会の直播栽培部門で最優秀賞を受賞した。
  • なお、移植栽培については、水田輪作のために無代かき移植で対応してきたが、2016 (平成28) 年で中止し、2017年以降の水稲は乾田直播栽培のみとなった。
図B-1 直播収量 (「大地の星」) の推移

3. 乾田直播の主な作業と作業時期等

  • 乾田直播の主な作業と時期を表B-2 (2020年) に示した。10a当たり作業時間は2019年で4.6時間と、水稲の北海道平均15.5時間の29.7%で極めて省力的である。
表B-2 (有)新田農場の主な直播作業 (2020年の「大地の星」)

4. 乾田直播を組み込んだ輪作体系

  • 1. でも紹介したが、同社の特徴は、畑作物のウェートが高く、水稲乾田直播栽培と畑作物との輪作 (水田輪作) を実施している点にある。
  • 同社の輪作体系は、図B-2の通りで、4年のローテーションを基本とし、異なる系統の作物組み合わせによる養分消耗低減化と透水性向上、及び作物残渣や緑肥、さらに堆肥投入による有機質補給などが意識されている。同時に、作業機の汎用的な利用を通じたコスト低減及び所得の安定化を可能としているといえる。
  • このような輪作は、乾田直播自体においても、乾土効果等により肥料費を低減でき低コスト生産を可能とすることにつながっている。
図B-2 (有)新田農場の基本的な輪作体系

5. 今後の意向

  • 同社では、水稲乾田直播と畑作物との水田輪作栽培体系がほぼ確立したといえるが、まだ労働力に余力があるので基幹労働力1人で50haまでは耕作可能であるという。
  • 2017 (平成29) 年より水稲をすべて乾田直播に移行したことにより4月と9月に労力的な余裕が生まれたので、そこを有効活用したいとのことである。
  • 近年、異常気象による集中豪雨や長雨が増加しており、この対応のため、補助暗渠等による排水対策を徹底し、湿害の回避につなげていきたい。

岩見沢市 農事組合法人セレスコーポレーション
―前年整地を取り入れた水田輪作―

1. 経営の概況

  • 法人設立年 : 2016年 (平成28年)
  • 所在地 : 岩見沢市北村豊正
  • 輪作作物 : 水稲 (乾田直播、無代かき) 、秋まき小麦、大豆、直播てん菜
  • 直播水稲の品種は、「えみまる」、「そらゆたか」、「さんさんまる」 (2020年時点)
  • 乾田直播水稲栽培のための前年整地を秋まき小麦収穫後に実施
表B-3 (農)セレスコーポレーションの概況

2. 圃場の均平作業について

  • 均平作業に用いる機器 : GNSSレベラー 3台 (レーザーレベラーは近隣生産者の機器とレーザー光の干渉が生じることからGNSSレベラーを導入)
  • 秋の均平 : 前年整地圃場を対象として作業日数は3日間。
  • 春の均平 : 麦から水田に戻すときの乾田直播圃場と、水稲無代かき移植栽培の一部でレベラーによる均平を実施。作業日数は、乾田直播水稲で2日間、無代かき水稲で4日間。
  • 個々の圃場での均平作業終了のタイミングは目視で判断。
  • 麦作後の均平は近隣では珍しくない。

3. 乾田直播の主な作業と作業時期等

表B-4 前年整地作業を含む水稲乾田直播栽培スケジュール

4. 代表的輪作パターン

図B-3 代表的な輪作パターン

5. 前年整地のメリット

  • 春の整地作業時間を低減できる。
  • 春の均平の盛土では鎮圧をかけても不陸になりやすいが、前年整地の盛土部分は雪で鎮圧されることから均平の精度と持続性が向上する。
  • 小麦の刈り株処理が、前年整地によって楽になる。

6. その他

  • 乾田直播栽培の収量リスクを考えると、現時点では移植栽培も継続。
  • 乾田直播水稲の収量 (10a当たり)
    • 2019年 : 「大地の星」9俵半、「さんさんまる」10.5俵、「そらゆたか」12俵
    • 2020年 : 「さんさんまる」10俵 (粗玄) 、「えみまる」9俵、「そらゆたか」12俵弱
  • 大豆、小麦、水稲の他に1作物が必要と考えて直播てん菜の作付けを開始した。ナタネは小麦と作業競合すること等の理由により選択していない。この4品目 (水稲、大豆、小麦、直播てん菜) で無理なく作付けができる。

妹背牛町 株式会社辻村農場
―水稲主体の経営における高能率な乾田直播栽培―

1. 経営の概況

  • 株式会社辻村農場 (以下、同社) は妹背牛町に立地し、概況は表B-5のとおり。
  • 基幹労働力は1名で、ほかに収穫時の籾運搬に家族が従事するのみである。
  • 水稲面積は21.8haで水田面積の約91%で、経営における水稲の割合が高いのが特徴である。水稲は2014 (平成26) 年より直播栽培 (乾田直播) だけとなっている。2020 (令和2) 年の品種は「えみまる」である。
  • 水田転作となる畑作物は、黒大豆が2haであり、ほかに畑で2.2ha栽培している。
  • 乾田直播で利用する多くの大型農機は、会社で所有している (表B-6、写真B-3) 。
表B-5 (株)辻村農場の概況
表B-6 主な農機具一覧
写真B-3 (株)辻村農場の主な農機具
(左上 : レーザーレベラー、右上 : プラウ、左下 : モミサブロー、右下 : パワーハロー+グレンドリル)

2. 直播栽培の導入と水稲全面積を乾田直播栽培へ

  • 2011年に町内の水稲直播研究会の勉強会で空知普及センター普及員と出会い、育苗をしないので省力的な直播栽培に興味を持つ。
  • 2012年に試験栽培をV溝直播で行うが作業能率が低いため、V溝は1年で中止。
  • 2013年に圃場整備外の70aで普及員の指導を受け、より省力的なドリル播種に切り換え、翌年より直播を8haへ拡大。2015年より当時の水田14haを全部乾田直播へ転換した。
  • 2018年に水田12haを購入し、2019年より26ha経営へ。水稲面積21.8haを全面積直播で栽培。
  • 2019年までは「ほしまる」だったが、2020年に「えみまる」へ切り替え。同年の単収565kg/10a、全量1等米。

3. 乾田直播の主な作業の作業時期

  • 同社の乾田直播の主な作業と時期を表B-7 (2020年) に示した。
  • 播種は5/13~16 (毎年5月15日前後) で、パワーハローとグレンドリルでのコンビネーションにより実施しており、乾籾で播種し、播種量は11kg/10a。
  • 10a当たり作業時間は2020年で2.5時間と、水稲の北海道平均15.5時間の16%と極めて省力的である。
表B-7 主な直播作業 (2020年の「えみまる」)

4. 栽培技術の特徴

  • 出穂を早めて、収量を確保する上で、早期播種が重要である。
  • 播種を少しでも早めるためと、肥料流亡を防ぐため、2019年より基肥をやめ、追肥の1回を基肥に相当する成分を散布している (以前は5月上旬に基肥を実施) 。
  • プラウ耕は地力維持のために不可欠であり、融雪後に毎年プラウ耕を必ず実施している。前年秋のプラウ耕は、水稲収穫後で水分が高く、他の作業もあり不可能。
  • 直播栽培で収量を確保しつつ、倒伏を回避するため倒伏軽減剤 (ビビフル) を利用している。基幹労働力1人で作業を行う上でも、倒伏回避は重要である。
  • 乾燥作業を効率的に行うため、品種を1品種とするとともに、圃場内での旋回を避け、農道ターンを活用し、また、防除や除草剤散布もトラクターの作業でのトラムライン走行による防除としている。

5. 今後の意向

  • 同社では、今後も可能であれば水稲の規模拡大を進めたいとし、基幹労働力1名で40haまで可能な作業体系を確立したい、とのこと。