スイス,ジュネープで作られた耕耘機で,1921(大正10)年にかつて大阪駐在のイタリア領事であったファーブルランドが日本で貿易商となって輸入し,日本内地はむろん満州,朝鮮に至るまで,みずから各地を巡回した.
本機は機体の後部に回転式カルチベータすなわちロータリをつけ,このロータリの毎分200回転内外によって,土壌の耕耘と砕土を同時に行なうもので,当 時はまったく新しい機構の機械であった.昭和に入って岡山で製作された動力耕耘機はこれをモデルとしたもので,日本のロータリ式耕耘機の元祖ともいうべき もの.
当時の欧米の歩行用トラクタは,いずれもプラウその他の作業機を取り付ける,いわゆるティラに属するものであったが,ドイツのグランデル会社の製品とこ のシマーだけはロータリ式耕耘機で,石川,静岡,岡山,福岡等の諸県に普及した.1923(大正12)年3月発行の新潟県農事試験場特別報告第16号『度 具試験報告付録石油発動機』に,以下のごとき本機の試験成績がのっている.
出品人はシー・エ・エー・ファープルランド(神戸市).価格は1,850円.
(1)本機の仕様
機械の寸法 | 長さ | 5.3尺 |
幅 | 2.3尺 | |
高さ | 3.6尺 | |
両車輪の全幅 | 1.6尺 | |
全重量 | 67貫 | |
燃料タンクの容量 | 2.5升 | |
自力にて上り得る勾配 | 1/5 | |
1時間燃料消費量 | 1.2~1.5升 | |
耕耘状況 | 深さ | 2~8寸 |
幅 | 1.7~2.1尺 | |
毎時速力 | 低速度 | 10町 |
高速度 | 20町 |
(2)使用成績
供試機は大正11年5月購入せるものにして,田畑耕耘に関しては,充分なる使用成績を得ざりしといへども,其概要を記すれば次の如し.
- 1時間に於ける耕耘の功程1反歩前後,毎時ガソリン消費量1.2~1.5升.
- 乾田又は畑地に於て使用し得るものにして,湿田は不可能.
田地又は畑地は,その区劃大面積なるほど能率大にして,燃料の消費少し. - 耕耘の深さ
土壌の種類により一定し難しといへども,動力又は操縦の点より見て,4寸前後を以つて最適とす. - 耕耘地にわらを撒布する場合は,操縦自由ならず.また荒地等にて雑草の甚しく繁茂せる場合は,運転不可能なり.
- 本機は,弾条仕掛の鋼製の鉤の回転によつて耕耘するものなれば,土壌は甚しく細砕されるものなり.
- 故に本機の後部に,畦立板を付着し細砕せる土壌を畦形となし,風化作用を充分にする必要あるものなり.