動物衛生研究部門

前部門長室から

部門長写真

小倉 弘明
(おぐら ひろあき)

新年に思う

年が明けた。
昨年は豪雨、台風、地震と災害が多かった。我々の世界では、断続的に発生が続いている高病原性鳥インフルエンザに加え、中国でアジア初のアフリカ豚コレラが発生し緊張が高まったところに、日本国内で26年ぶりの豚コレラが発生した。周辺の野生イノシシへの感染が続き、年末には大規模農家での発生もあった。農研機構も緊急病性鑑定、ウイルスの解析、疫学調査への参加等で役割を果たしてきているが、地元岐阜県をはじめとした関係者の努力にもかかわらず終息には至っていない。

豚コレラは、農研機構動物衛生研究部門と深い関わりのある疾病である。動衛部門の起源、前身である農商務省仮農事試験場、獣疫調査所、家畜衛生試験場では免疫血清作製にはじまり、ワクチン開発、診断法の確立、予防策の提案等で大きな役割を担い、独法化された動物衛生研究所時代にも、その仕上げとなる清浄化対策で技術面の支えとなってきた。

先日、家畜衛生試験場時代に豚コレラ研究を担っておられた大先輩から、「豚はこれまでの経験があり心配していないが、野生イノシシについては、かつて国内でも発生があったものの当時に比べ生息密度が高くなっており、ウイルスも強毒でないとすれば経験が無い。海外の情報を収集し、野生動物の専門家も入れての対策を講じるべき時期にきている。」とのお手紙を頂いた。すでに行政サイドで海外情報の収集を含めたイノシシ対策の検討は行われているが、大先輩がおっしゃりたかったことは、「豚での研究はさんざんやってきてその経験は引き継がれているだろうから心配ないが、経験のない事態には研究サイドも積極的に政策立案に関与していくべきではないか。」、ということではなかったかと思う。

我々が担っている「レギュラトリーサイエンス」とは、科学的知見と、規制などの行政施策・措置との橋渡しをする科学とのこと。これには行政判断に利用できる科学的知見を得るための研究(Regulatory Research)と科学的知見に基づいて施策を決定する行政(Regulatory Affairs)の両方が含まれる。つまり我々が行っている研究成果の多くも行政の判断に供されなければ意味はない。最終判断は行政の仕事ではあるが、政策提案は研究の一つの出口であり、これも我々の大切な仕事だと考える。

新年にあたり、災害の少ない穏やかな1年になること、豚コレラが早期終息し病気の少ない1年になることを願うとともに、当たり前のことではあるが、組織としての研究実績の引き継ぎ、時機を得た政策提案の大切さを肝に銘じたい。

2019年1月吉日