果樹茶業研究部門

果樹の災害対策集

秋田県

1.台風被害の様相

本県の台風19号による果樹の被害額は83億円にのぼったが、うちリンゴの被害が90%を占め、栽培面積の84%に及んだ。被害額では落果が94%と大部分を占め、樹体被害は6%であった。単位面積当たりの被害は、中央、県北、県南の順で、特に中央、県北地域は落果ばかりでなく、樹体の折損、倒伏や支柱の折損などの被害が大きい。また、日本海沿岸地域のリンゴ園には、潮風吹走の影響と考えられる葉の褐変と落葉があった。

被害の様相としては、落果では地域別の代表地点における落果率が、県北(秋田県果樹試験場鹿角分場)75%、中央(由利郡西目町)83%、県南(秋田県果樹試験場本場)52%であり、落果の内容はおせ傷とさし切傷が約70%を占め、樹上の果実も傷害果が30%と高かった。品種別では‘ジョナゴールド’、‘ふじ’、‘王林’、‘千秋’の順に、台木別ではマルバ台樹の落果率が高かった。

樹体被害はわい性台樹を中心に発生し、県北の鹿角市大湯関上では完全倒伏(主幹折損を含む)10.7%、半倒伏20.7%、主枝折損 1.6%、外見上の無被害67%であり、マルバ台樹では倒伏が 6.6%にとどまっている。別に行った倒伏樹の断根調査では、平均断根率は38%(12.5%~67%)であったわい性台樹の主幹折損被害は鹿角市(鹿角分場)でM9A中間台方式で25.3%に及んだが、折損部位は接木部が全体の44%と高かった。

潮風害樹では褐変落葉後の10月中旬以降に発芽と開花がみられ、全頂芽に対する比率は‘王林’30%、‘ジョナゴールド’ 6%と高かった。

 

2.被害後の技術対策

  • 台風の襲来前の対策
        9月19日の台風18号による落果被害などをうけて、成熟期に入った‘千秋’の適期収穫、すぐりもぎを奨励した。特に県南では満開後 140日に当たる9月25日からすぐりもぎを始め、27日の深夜までかかって全体の約30%が収穫された。
  • 被害後の対策
        被害発生からただちに場内、現地の被害様相を把握しながら、落果の早期収集、選別、冷蔵および販売などを啓蒙するとともに、被害樹の早期復旧のため次の技術対策の実施を奨励した。倒伏樹については台風直後から立て直し復旧に当たり、台木部位への盛土(堆肥の混入)、支柱の補強、弱めの整枝剪定による秋根の発生を促した。作業は収穫が終了していた‘つがる’、‘千秋’などから着手し、10月中旬をピークに11月中旬には終わった。
        これと同時に大枝切損・裂開樹に対してのボルト、かすがいなどによる復旧、支柱による固定および傷口への塗布剤使用は実施率が高かった。欠木や被害甚大樹の改植は、11月下旬からほとんどわい性台の苗木(全改植用苗の70%)を用いて、土壌改良材や、堆肥の十分量を施用して実施したが、年内実施は全体の40%程度にとどまり、今年(1992年)の4月中旬で完了した。
        鹿角・県北地域においては、共同防除組合により腐らん病、胴枯れ病防除のためトップジンM、ベフラン、石灰硫黄合剤などの秋末散布が、11月下旬をピークに完全実施された。潮風害樹については、落果や倒伏を伴っているため倒伏樹に準じた指導を行った。
        冬季の整枝剪定以降と1992年の技術対策については、倒伏・断根樹の樹勢回復と改植方法を主体に行った。倒伏樹の被害少(断根率30%以下と考えられる樹)は、慣行技術とするが、被害中(断根率30~50%と考えられる樹)については、整枝剪定は全体としては通常よりも切り戻しを強めとすること、着果調節は、摘花・果は早めに着果量は通常より20~30%減らすこと、施肥量(春肥)は通常よりやや多めとした(本県の春肥は窒素で6~8kg/10aと少ない)、倒伏樹の被害多(断根率が50%以上と考えられる樹)については、整枝剪定は被害中の樹よりやや強め、着果量は通常の30%くらい、施肥量は中並みとするが、樹勢に応じて6~7月の追肥や尿素の葉面散布を指導した。これらの技術対策について現地農家の対応は、被害中以下の樹には慣行どおりで対応しており、被害多の樹についてはやや強めの剪定と摘果および追肥などが取り入れられており、葉面散布などはほとんど行われていない。

3.樹勢の回復状況

台風による倒伏樹は、早期立て直しにより、昨年(1991年)の秋期は水あげ不良による葉の褐変や早期落葉は認められず、健全樹と同じ落葉状況であった。

倒伏樹で断根率が60%程度の被害多の樹について、発根促進のため、立て直し時にパーライト+苦土石灰、堆肥+苦土石灰、苦土石灰、盛土などの各処理と強めの剪定を行った樹の生態は、各処理とも健全樹に比べ発芽期にむらが大きかった。また、開花量は十分であったが、不授精落果が多く、果実肥大は小さめでむらが目立ち、6月下旬の調査では、新梢長は短く徒長枝の発生も少なく、葉色はやや薄く葉面積も少なかった。今のところ、土壌改良材別の樹勢回復程度の差は認められていない。

潮風害により落葉被害が大きかった‘王林’、‘ジョナゴールド’は、発芽・開花始期は早まったが樹によるむらが大きく、また、不授精落果が多く、果実肥大も少なく、倒伏樹と同じ傾向であった。