果樹茶業研究部門

果樹の災害対策集

山口県

1.台風被害の様相

山口県における被害は典型的な潮風害であり、主要産地の瀬戸内島しょ部では、南~南西に面した園地で著しい被害を受けた。落葉率20%以上の園地は全体の80%に及び、特に落葉率70%以上の園地が栽培面積の約 1/3に達した。

被害の様相については、葉・果実が枯死したまま樹体に付着した最も被害の大きい樹では、主枝・亜主枝まで枯れ込み、樹体が枯死に至った例も多い。また、全落葉をまぬがれ、多くの秋芽が発生した樹でも3月以降に枯死する場合があった。

樹体の被害程度には品種間の差がみられ、ナツミカン、ユズ、レモン、清見などは器官の枯死程度が大きく、イヨカン、カボスは落葉が多いものの、回復は早かった。また、栽培条件によっても被害程度は異なり、肥培管理の不十分な園、根域制限栽培園、高接ぎ2年目までの樹、あるいは5~6年生までの幼木で、被害が大きかった。

被害を受けた果実では、着色障害、果汁の低糖度高酸化現象が強く現れた。収穫果実は貯蔵中に腐敗が多く発生し、特にイヨカンでは、傷口からの黒点病菌の侵入によって、3月以降の腐敗果が多発した。

2.被害後の技術対策

  • 直前の対策
    高接ぎ更新樹における枝の折損防止のため、支柱ならびに枝幹に誘引・結束を行う。
  • 散水・除塩
    被災直後に塩分除去のために散水した園では効果のあった例が多いが、実施可能な園は限られていた。
  • 摘果
    落葉率70%以上の樹については早期に全摘果し、被害中~軽樹については、被害部を中心に落葉程度に応じて摘果を行う。
  • 施肥
    被害甚樹に対する秋肥は無施用とし、春肥は半量、夏肥は樹勢を見ながら徐々に基準量に戻す。被害中~軽樹では、秋春ともに有機配合で基準量を分施する。発生した秋芽および春芽には新梢充実促進のため、液肥の葉面散布を2~3回ずつ実施する。
  • 土壌管理
    断根を伴う中耕は中止する。敷き藁、土壌改良資材の表面施用と潅水とによって、細根の枯死防止ならびに発根促進を図る。
  • 薬剤散布
    被災直後から初夏にかけてのかいよう病、黒点病、アブラムシ、ハダニの防除を徹底する。収穫可能な園では、腐敗防止剤を重複散布する。着色促進剤・機械油乳剤の散布は、被害軽微樹を除いて中止する。
  • 採収・貯蔵
    区分採収を行い、貯蔵に当たっては丁寧に取り扱う。加温予措は行わず、貯蔵中の管理点検を徹底する。
  • 枯れ枝の剪除
    枯死部と生存部との境界が明確な枝については、4月下旬までに新梢発生部で切除、境界が不明瞭な枝では、枯死部数cmを残して先端部を切除する。
  • 防寒・日焼け防止
    藁、山草などによる枝幹の被覆を行うか、日焼け防止のために石灰乳剤の塗布を行う。
  • 改植の判定基準
    12月~1月時点における改植是非の判定基準を作成した。1~2年生枝の枯死が温州ミカンで60%、イヨカンで70%、‘清見’で40%以上の樹については、地下部の枯死程度が2/3を超えるために、改植を検討する。

3.樹勢の回復状況

冬季の気象が温暖多雨で推移したため、秋芽の枯死や落葉も比較的少なく、全般的には順調な回復を示している。特に、イヨカンは、ウンシュウミカンに較べて秋芽の発生・充実が早く、カンキツの中では最も良好な回復状況にある。反面、被害程度の大きい残存樹の中には、気温の上昇に伴う枯れ込みの進行から枯死に至るものも見受けられる。

被災後の摘果は、秋枝発生による養分消耗、摘果枝の枯死などマイナス面もあるが、地下部の枯死を抑制する効果が高い。従って、秋枝の発生がなくなる時期に、なるべく早く摘果すべきと考えられる。秋枝の発生した樹に対する液肥の葉面散布は、緑化を促進し、葉の浸透圧を高め、耐寒性の強化に有効である。また、遮光ネットや不織布などで防寒を行った樹では、落葉や枝の枯死が減少し、翌春の樹勢回復に有効であった。秋芽の耐寒性は品種によって差があるが、おおむね-2℃で先端の枯死が始まり、-4.5℃では大部分が枯死に至った。

枝の枯れ込みは、被災直後から現在(1992年6月下旬)に至るまで連続的に進行しているが、慣行的な剪定方法では枯れ込みを助長し、回復を遅らせるものと思われる。