果樹茶業研究部門

果樹の災害対策集

愛媛県

1.台風被害の様相

南~南西方向からの暴風により、この方向に海が開けた地域で海岸から5km離れた園地まで海水がかつてないほど濃厚に飛散し、潮風害が発生した。また、これに加えて沿岸低地園では台風襲来時の高潮により、海水が浸入して塩害が発生した。

被害は枝折れや倒伏は少なかったが、強風による落葉や果実の折損がかなり多かった。潮風による塩分付着量の多い園地では、台風通過の直後に葉が灰白色を呈し、4日後から脱水症状が見られ、褐変して落葉が始まった。落葉は3週間続いた。果実も潮風被害の甚大な園地では枝とともに枯死したところもあるが、多くは樹上に緑果で残った。しかし、これらの果実は肥大や着色が不良で、品質が著しく劣った。

海水の浸入した園地は、排水の良好な園地で2~3時間、不良な園地で1~2日間湛水した。1日以上の湛水園は、2週間後に樹体が枯死し始めた。短時間の湛水園も根の枯死とともに枝枯れが進行した。

なお、潮風による落葉園では、2週間後に短い秋梢が発生し、かなり緑化した。これらは暖冬であったため寒害による枯死は免れたが、一方で、根の枯死が急速に進行した。それも細根からだけではなく、太根や中根の分岐点から黒変枯死する例がみられ、春先から樹勢が衰弱し、回復力を喪失した園地が多く発現した。

2.被害後の技術対策

  1) 被害直後

  • (1) 散水による塩分の除去
    潮風襲来の直後に、2t以上を樹上散水して塩分を洗い流す。(効果の高いことは理解されているが、実際には水源の不足、施設の不備などによりほとんど実施されなかった。)
  • (2) 摘果
    落葉した園地や部分的に落葉した枝については全摘果を、また、残葉部分では強い摘果をできるだけ早く実施する。
  • (3) 海水浸入園の除塩
    硫酸カルシウム(石こう)などの石灰質資材(100Kg/10a程度)を施用し、多量の潅水を行って、土壌中の塩分を除去する。
  • (4) 樹体の保護
    落葉の多い園地では、枝幹の日焼け防止のため、石灰乳を塗布するなどして保護する。また、寒害防止のため、防寒資材を被覆する。
  • (5) 液肥の葉面散布と施肥
    秋梢の発生した園地では、窒素主体の液肥を展葉後2~3回葉面散布し、緑化を促進する。樹勢回復と秋梢の充実を促進するため、速効性肥料を分施する。中耕はしない。
  • (6) 剪定
    被害樹は枯れ枝が発生しても剪定しない。3月の通常の剪定もしないで新梢が充実する6~7月に枯れ枝を切り返す。
  • (7) 病害虫の防除
    落葉を助長し光合成の低下する恐れのあるアルカリ性薬剤やマシン油乳剤を散布しない。

  2) 被害の翌年

  • (1) 液肥の葉面散布と施肥
    樹体の回復を促進するため、春肥は有機質肥料を分施する。新梢の展葉後、微量要素を含む窒素主体の液肥を2~3回葉面散布する。
  • (2) 病害虫の防除
    かいよう病、黒点病、ミカンハダニ、カミキリムシなどが多発する恐れがあるので、防除を徹底する。また、アブラムシ、夏芽のエカキムシも防除する。
  • (3) 摘蕾・摘果
    樹勢衰弱樹や樹冠の残葉部分で着花過多になっている場合は、摘蕾して新梢の充実を促進する。樹勢回復に重点をおいて、通常の摘果は強くする。
  • (4) 乾燥の防止
    根を保護し吸水能を高くするため、堆肥施用や敷き草、樹冠下マルチを行い、乾燥時期には潅水する。
  • (5) 改植
    海水浸入によって枯死した園地で、土壌に塩分が残留しているところでは客土する。潮風害によって落葉枯死した園地も含めて、改植は園内作業道を整備できるよう配慮して栽植する。

3.樹勢の回復状況

  • 被害甚大な弱齢樹は、被害後2か月のうちに枯死した。また、老木や高接ぎ樹も落葉率がウンシュウミカンで95%以上、イヨカンで90%以上の園地では冬季に根の枯死が進み、樹体の枯死する園地が多くなっており、改植を余儀なくされている。
  • 落葉率がウンシュウミカンで75~95%、イヨカン70~90%の園地では、新梢が発生したものの、葉の緑化の遅れや小形化した園地があり、根の枯死した部分が多い。これらは、樹体の回復に数年を要するものと推測され、改植した方が良いと考えられるが、その是非は、生産者の経営的側面から判断を要する状況である。
  • 落葉率がウンシュウミカン75%、イヨカン70%以下の園地では、枝の枯れ込みによって樹冠が縮小したものの根の枯死は少なく、樹体は2~3年のうちに回復するものと見込まれる。
  • なお、潮風被害後に摘果した園地は、同程度の被害で摘果しなかった園地に比較して、根の枯死程度が軽く、樹勢の回復もやや早くなっている。