果樹茶業研究部門

果樹の災害対策集

佐賀県

1.台風災害の様相

台風17号は、佐賀気象台開設以来最大の最大瞬間風速54.3m/sで、19号は観測史上2位の最大瞬間風速52.6m/sを記録し17号と同じコースをたどり、被害に追い打ちをかけた。

県下全域での被害面積は、1991年9月末現在で総面積446haで、落葉率が70%以上が90haとみていたが、その後19号による樹幹の揺れなどによる根傷みなどで落葉が進展し、11月末には、70%以上が172haと被害が拡大した。これら被害をうけた園の特徴は、地形・方位と防風樹による影響が最も強く、地勢的には全落果・全落葉園が海岸からほぼ1km以内であるが、2km入った園でも地形によっては激しい被害がみられた。被害は成り込みが多く樹勢の弱った極早生温州で著しく、高糖系温州もやや強かった。落葉が多い樹では、年内に根活力が低下して1月には表層根が枯死した。この症状は、落葉して果実が残り、秋芽の発生が少なかった樹でより明らかであった。ハウスのビニール破損や倒壊は県下全域でみられた。

2.被害後の技術対策

台風前に特別な対策は講じていないが、高品質化生産やスプリンクラー設置のために密植園の間伐や防風樹が切り倒され、結果的に今回の潮風害が助長された。

事後対策としては、(1) 直ちに樹上散水と潅水および敷き藁による保水を指示したが、時間の経過から、散水の顕著な効果はなかった。(2) かいよう病の恐れがある樹種では、その対策として、1992年春、全ての樹種でかいよう病防除を徹底させたが、それでもネーブルなど弱い樹種ではその発病が多く、ハウスミカンのビニール破損園でも発生がみられた。(3) 落葉のひどい枝および樹では、全摘果を行い秋芽の発生を促した。(4) 秋芽が発生したら窒素主体の葉面散布剤を散布した。(5) 主幹部の日焼け防止のために石灰乳の塗布や藁の巻き付けを行った。(6) こもや寒冷紗を用いた防寒対策、防風ネットの設置による寒風害対策を実施した。(7) 30%以上の落葉園では、マシン油の散布を控えた。70%以上の落葉園では秋肥を中止し葉面散布で対応し、春肥は分施を徹底させた。50%以下の落葉園では秋肥、春肥を10~20%増肥し、春から発芽前後に葉面散布を実施した。(9) 被害が軽い樹体では、果実の紅色改善のためにカリウムを主体とした葉面散布を実施した。(10) 被害程度にかかわらず、剪定は枯死枝除去を主として軽めにした。(11) 70%落葉した樹でも極早生温州では着花量が多く、摘蕾または全摘果した。(12) 極早生温州は落葉率50%以下の樹体では全て着花量が多いために、新梢の発生部位は全摘果し群着果を徹底させた。

3.樹勢回復状況

佐賀県果樹試験場の現地回復試験では、日焼け防止や防寒など基本的対策を実施したうえで各種処理を行った結果、上述の諸対策を実施すれば落葉率70%以上の樹でも、1本も枯死せずに全て回復する見込みが得られている。しかし、着葉数は増加したものの新梢長が短く、表層根の回復も遅いため、1993年の春の着花過多が問題である。1992年の春の着花を抑制させるには、ジベレリン処理が効果的であった。秋芽の発生が多い枝は、水分ストレスが低かった。

また、防寒処理樹では防寒資材除去時の秋葉の葉色が良く、その後の緑化や春梢の発生も良好であった。一方、落葉率が低かった樹体での秋季における葉面散布は、着花過多をきたして春枝が短く、1993年の春以降の樹勢弱化が極早生温州の性質上問題として残った。

台風17号直後に藤津農業改良普及所が実施した試験で、摘果後のやや強めの剪定は秋芽の発生が早く伸びが良かったものの、台風19号で芽がやられ、再発芽して結果的に最も回復が遅れた。秋芽の発生した樹ほど春梢の発生が悪い園もあった。観察の結果、寒風で秋芽がやられ、土層が浅いために表層根の枯死に伴い樹全体根幹までが揺れ動き、そのために回復が遅れ被害が進展したものと思われた。イヨカンは落葉が激しい樹でも秋芽の発生が多く、1992年の春の春梢の発生伸長も十分であり、回復力は極早生温州以上である。