潮風または塩害(海水浸入園)による被害樹について、改植したほうが良いか、あるいはそのままで樹勢回復を図るほうが有利かについての判断は、その後の農家経営を左右する重要な問題である。その場合、品種は何か、高接ぎ樹か、いつの時期にどの程度の被害であったか、などが問題となる。
台風19号の被害後2~3週間における改植の判定基準を次表に掲げた。瀬戸内地域の産地では、これを用いた場合、概ね良好な結果が得られている。
改植の判定基準として最も重要となるのは、被害樹の細根がどの程度枯死しているかである。従って、改植の判定に当たっては必ず地下部を堀り上げて、根の状態を詳細に観察することが重要である。
カンキツの樹体の被害程度と回復度および改植の判定(広瀬、1991)
被 害 程 度 | 今後の回復度 | 回復に要する期間 |
---|---|---|
1 葉が枯れ付いている |
枯 死 枯 死 枯死の危険性 枯 死 生存の可能性 極めて少 生存する 生存する 生存する |
改 植 改 植 改植を考える 改 植 改 植 回復に3年以上 (改植を考える) 回復に3年 回復に1年以上 |
注)1 被害程度2、3については、冬期の寒さで枯死、改植の状況が変わる可能性がある。
2 回復というのは被害前の果実収量および品質にもどることをいう。
3 1992年5月末~6月にかけて、広島(大長)、愛媛(中島)の視察結果により一部修正した。
台風19号被害樹の経過をみると、被災後晩秋から翌春にかけて時間の経過とともに旧葉の落葉率が増加し、被害程度に応じて緑枝・細根など各部位の先端から基部に向って枯死部が増大した。晩秋から初冬にかけては、落葉率が80%程度であったとしても、その後翌年の5月末頃までに落葉率は10~20%増加し、それとともに根も細根から太根に向って枯死率は増大した。また、発芽期以降になると、たとえ春芽の発生が多く新梢伸長が一見旺盛にみえても、地下部の太根までの枯死率が多い場合は、その後、根からの吸水が間に合わないために急激に樹勢が衰弱して、枯死に至る場合があった。さらに、緑化期には、一見樹勢が回復したかのように見えても、被害樹を堀上げてみると幹回りの太い根まで枯死している場合は、梅雨明け後の土壌乾燥によって枯死するか、枯死に至らないまでも著しく樹勢が衰弱する例がみられた。これらの事例の中には、台風後の晩秋までに改植の決断をすれば良かった場合もみられた。