果樹茶業研究部門

果樹の災害対策集

I.カンキツの潮風害抵抗性の品種間差異

果樹試験場口之津支場育種研究室(現 カンキツ部育種研究室)


1991年9月14日および9月27日に来襲した台風17号、19号による果樹試験場口之津支場(現 カンキツ部口之津)の被害は甚大であった。当支場は島原半島の南端部にあり、磯の海岸を間近にしている。支場内のカンキツ園には、東から南向きで海岸に面した緩傾斜地圃場、海岸を完全に背にした傾斜地圃場およびほぼ平坦な圃場がある。主として、海岸を背にした圃場以外で被害は発生したが、平坦な圃場でも、防風垣が密に設置されている圃場とややくぼ地になっている圃場では比較的軽度の被害で済んでいた。

本調査研究では、被災の甚だしかった圃場に植栽されている各種のカンキツ品種について落葉の程度を基準に被害実態調査を行った。また、鉢植えされた13品種の1年生珠心胚実生を供試し、ガラス室において、人工的に葉に付傷し、高濃度の食塩水を散布して品種間差異を検討した。

 

1.被害実態調査に基づく落葉程度の品種間差異

  • 調査方法
    果樹試験場口之津支場(現 カンキツ部口之津)の育種圃場に植栽されている 189種類のカンキツの落葉程度の調査を、10月14日から19日にかけて実施した。台風17号による被害の後、9月27日に台風19号が再び来襲した。台風19号による潮風害はほとんどなかったが、強風による落葉が発生した。しかし、潮風害による落葉と強風による落葉の区別が不可能であったため、本調査ではその区別はしなかった。
    落葉程度は目視調査により次のように 5段階で評価した。
        1: 0~19%、 2:20~39%、 3:40~59%、 4:60~79%、 5:80%以上
  • 調査結果
    ウンシュウミカンの被害程度は1.0~3.0と低く、全体に潮風害に対する抵抗性が強かった。シイクワシャー類の抵抗性も全体に強かった。ポンカンをはじめ他のマンダリン類の落葉程度は全般に大きく、オレンジ類も、落葉程度が大であった。タンゴールの中では、イヨカンが潮風害に強く1.0~2.0の被害程度だった。‘セミノール・サンバースト’、口之津13号の被害程度も軽かった。それ以外のタンゴール、タンゼロ類の被害程度は4~5が多かった。

表1.主要30種類、品種の潮風害による落葉の程度



ブンタンの潮風害抵抗性は品種により異なった。‘水晶ブンタン’、‘江上ブンタン’の被害程度は1.0~2.0で、‘本田ブンタン’、‘晩白柚’は5.0であった。グレープフルーツ類の被害程度は4.2~5.0であった。

ヒュウガナツ、‘サンボウカン’、‘トウス’の被害程度は2.0であったが、ユズ、レモン、ライムは潮風害に弱く、ほとんどの品種が 4以上の被害を受けた。カラタチ、シトレンジ、‘ナガキンカン’の被害程度は総て5.0であった。

以上の結果を概略要約すると次のようになる。非常に落葉し易いものは、カラタチ、シトレンジ、‘ナガキンカン’、レモンで、落葉し易いものは、ライム、ユズ、グレープフルーツやナツミカンなどlのブンタン類縁種、次いで落葉し易いものは、スイートオレンジ類、ポンカン、多くのタンゴール、タンゼロ類であった。ヒュウガナツ、‘サンボウカン’はかなり落葉が少なく、イヨカン、‘セミノール’、ウンシュウミカン、シイクワシャー、タチバナは最も落葉が少なかった。

 

2.塩水処理によるカンキツの塩分抵抗性の品種間差異

  • 試験方法
    1991年4月9日には種した実生苗を、同年10月24日、10号鉢に3本ずつ植え付け、粗製食塩を用い、12月2日に濃度3、6、12%の塩水を各1本ずつ散布した。葉の表と裏面を紙ヤスリで軽く傷つけた有傷区と無処理の無傷区を設定した。くり返しは3本(鉢)とし、1樹当たりの散布量は200mlとした。
  • 試験結果
    処理後36日目の高濃度塩水区の落葉率はユズ、シキキツ、ナツミカンが低く、オレンジ類は高い傾向にあった。しかし、枯死葉率(樹に付着したままの枯死葉の率)は、落葉率の高い品種ほど低い傾向が見られ、ユズ、シキキツ、ナツミカンは枯死葉率が高かった。オレンジ類は‘バレンシア’がやや高かったものの他は低かった。
    樹幹枯死率(全長に対する枯死部の割合)は、ユズ、シキキツ、ナツミカンが高い傾向にあり、ウンシュウミカン(普通温州)、‘福原オレンジ’、‘フナドコ’、‘シュウトウ’は低い傾向であった。
    落葉、葉の枯死、樹幹の枯死を指標にしてみた塩分抵抗性は、ユズ、シキキツ、ナツミカンが弱いグループであった。中でもユズが最も弱かった。一方、オレンジ、‘フナドコ’、中野3号ポンカンは強いグループであった。しかし、‘バレンシアオレンジ’はやや弱かった。ウンシュウミカンは落葉も比較的少なく、枯死葉率、樹幹枯死率も低く強かった。

表2.カンキツの塩水処理後36日目の落葉率

台風による潮風害は傷害とそれに伴う塩分吸収量の増大で助長される。従って、傷の発生の難易も潮風害抵抗性の一要因となっている。ここでは、被害実態調査と実験結果に基づき品種間差異を述べた。

カンキツ類は植物の中では感塩性で塩分に対して弱いが、品種間差異は明らかに認められている。しかし、潮風害、塩害に強いからといって、そのことを品種選択上、最優先項目にするわけにはいかない。むしろ、果実の商品性・耐病性・耐寒性などが重要である。基本的にはカンキツのQ10で述べているように、品種は産地が一体となって決定すべきことである。ただし、商品性のある品種の中から選ぶ場合には、園地の条件(被災の危険性)に合わせ品種を選択をすべきであるし、場合によっては、品種に合わせた防風垣などの対策も考慮すべきである。

あえて品種を区分すれば、ウンシュウミカン、イヨカンなどは潮風害に強く、ユズ、ナツミカンは弱い。ポンカン、スイートオレンジ、ハッサクなどは、落葉はするもののその後の回復が早いため、比較的強い品種といえる。このような知見を前提に、地形・防風・防災設備を配慮し、10~20年の長期的展望に立ち、経営に有利な品種選択をすべきである。

表3.カンキツの塩水処理後36日目の樹幹枯死率