果樹茶業研究部門

果樹の災害対策集

II.カンキツの潮風害による落葉樹の果実処理が樹勢回復および着果(花)などに及ぼす影響

果樹試験場口之津支場栽培研究室(現 カンキツ部栽培生理研究室)

 

1991年の台風17号(9月14日)、19号(9月27日)による潮風害は、カンキツ類に甚大な被害を及ぼしたが、その被害樹の残存果について摘果の是非が問題となった。そこで、被害程度と摘果が、果実品質、樹体内の機能態炭水化物(遊離糖、でん粉)、細根の呼吸活性および翌年の着果(花)に及ぼす影響を調査した。

 

1.潮風害の被害程度と果実品質および翌年の着果(花)との関係

  •  試験方法
    (1) 16年生‘吉田ネーブル’を用い、被害後の落葉程度および秋芽の発生程度と翌年の着花数との関係を調査した。
    (2) 被害後の落葉および新梢の発生程度が異なる21年生‘シルバーヒル温州’を用い、10月30日に落葉率と同じだけ摘果した区と無摘果区を設けた。12月6日に果実品質、翌年の6月21日に着果数を調査した。
  • 試験結果
    (1) 落葉程度と翌年の着花数との関係は、r=-0.934**で落葉が激しいほど着花数は少なかった。秋芽の発生数と翌年の着花数は、相関が低く明らかでなかった。
    (2) 被害樹では、落葉程度が激しいほど糖度が低く、着色も悪かった。摘果の有無は、糖度にはほとんど影響しなかったが、摘果によって着色はやや良好となった。翌年の着果に及ぼす影響については、摘果後にかなり落葉したため、落葉程度と着果数との関係は小さかったが、摘果区では明らかに着果数が多かった。
    表1.潮風害の被害程度と果実品質および翌年の着果(花)との関係

以上のことから、潮風害を受けた樹では、落葉による光合成能の低下および新梢発生による養分消耗が著しいため、被害程度に応じた摘果が樹勢回復ならびに翌年の着果(花)に好結果をもたらすものと考えられる。

2.摘果および生長調節剤散布が新梢発生と細根の呼吸活性に及ぼす影響

  • 試験方法
    (1) 潮風害でほぼ全落葉した15年生‘清見’を用い、全摘果区と無摘果区を設けた。10月8日にエチクロゼート200ppmおよびマレイン酸ヒドラジドコリン塩(C-MH)5,800ppmを散布した。12月16日に新梢数を、1月21日~1月30日と4月26日に細根の呼吸活性を測定した。
    (2) 潮風害でほぼ全落葉した15年生‘清見’を用い、10月14日に全摘果区と無処理区を設け、1月および4月に細根の呼吸活性を調査した。なお、無摘果区は11月20日に全採果した。
    (3) 潮風害でほぼ全落葉した28年生‘川野なつだいだい’を用い、10月8日に全摘果区、1/2摘果区および無摘果区を設定し、別に被害軽樹の無摘果を設けて、経時的に細根の呼吸活性を調査した。残存果は1月18日に全採果した。
  • 試験結果
    (1) 台風17号の被害24日後に生長調節剤を散布したため、かなり発芽が始まっていた。C-MH散布では、摘果の有無にかかわらず発芽初期の短い新梢が枯死・脱落し、新梢数が著しく少なかった。エチクロゼート散布区では、無摘果区で新梢の発芽抑制作用が認められた。無散布区では、摘果区の新梢数がやや多かった。細根の呼吸活性は、1月調査では、エチクロゼート散布区で高く、C-MH散布区は低かった。いずれの処理区とも摘果区が高く、無摘果区は低かった。摘果区の細根量は、無摘果区に比べて多く、かつ、太かった。4月調査では、C-MH散布区は細根量が極めて少なく、細根の呼吸活性も低かった。エチクロゼート散布区は、摘果の有無による細根活性の差がほとんどなく、無散布区は、摘果区の細根活性が高かった。
    なお、落葉数が多かったためいずれの区とも翌年の着花は全く認められなかった。
    表2.‘清見’の果実処理及び生長調節剤散布が新梢数と細根呼吸活性に及ぼす影響
    (2) 無摘果区に比べて摘果区では比較的健全な細根量が多く、しかも4月上旬までは細根の呼吸活性も高かった。
    表3.落葉した‘川野なつだいだい’の摘果処理が細根の呼吸活性に及ぼす影響
    (3)‘川野なつだいだい’では、いずれも10月下旬には細根の活性が著しく低下していたが、全摘果区および1/2摘果区では4月上旬までに少しずつ回復した。無摘果区では、一旦わずかに回復するものの、4月には再び活性が低下した。

以上のことから、生長調節物質などで秋梢の発生を抑制すると細根活性が低下し、樹勢回復が著しく劣ることが明らかとなった。また、被害程度によって異なると思われるが、被害樹の残存果を全摘果あるいは1/2摘果した区は、健全な細根量が多く、細根活性が高かったことから、残存果の早期摘果は細根の枯死数を少なくし、活性の回復を早めることが明らかになった。

3.落葉被害樹の果実処理が樹体栄養に及ぼす影響

  • 試験方法
    潮風害を受けた28年生‘川野なつだいだい’を用い、残存果を10月5日に全摘果、11月29日に全摘果、10月7日に1/2摘果した区および無摘果区を設けた。1月17日に無摘果区と1/2摘果区の残果を、3月12日に被害の少なかった健全樹の果実を全採果した。11月から約1か月ごとに果実品質調査を行った。11月28日と1月29日に秋芽の生育を調査した。11月29日と2月3日に秋葉、春枝、春葉、12月4日と2月12日に細根の遊離糖とでん粉含量を調査した。
  • 試験結果
    果実品質は、健全樹に比べて被害樹は糖度が低く減酸しにくいうえ、果皮色のa値が低かった。被害樹間では、果皮色にはほとんど差がなかったが、1/2摘果区が糖度は高く減酸が早かった。秋枝の発生は、10月全摘果区が最も旺盛で、次いで10月1/2摘果、11月全摘果の順で、無摘果区が最も少なかった。生育も同じ傾向を示した。各部位の遊離糖含量は、春葉ではほとんど差が見られなかったが、秋枝、春枝および細根は10月全摘果区が最も高く、次いで11月全摘果、10月1/2摘果区で、無摘果区は低かった。健全樹はいずれの部位とも明らかに高かった。でん粉含量もほぼ同様な傾向にあった。健全樹以外は、いずれも翌年の着花は全く認められなかった。

以上のことから、潮風害で落葉した樹は健全樹に比べ果実品質が劣り、被害樹間では無摘果樹に比べ摘果樹の品質がやや良好で、秋枝の発生並びに生育は、摘果程度が強いほど、あるいは早いほど良好であることが明らかとなった。また,秋枝,春枝および細根の遊離糖やでん粉含量も摘果が早く、しかも摘果程度が強いほど高かった。

表4.被害樹の摘果処理が枝葉及び細根の遊離糖含量に及ぼす影響

 

これらの結果を総合的に判断すると、9~10月の台風に伴う潮風害で全落葉もしくはほとんど落葉した樹では、樹上の残存果を早期に全摘果して秋芽の発生を促すのが、また、落葉が比較的少ない樹でも、早い時期に落葉程度に応じた摘果を実施するのが、事後対策として適当と考えられる。