果樹茶業研究部門

果樹の災害対策集

III.台風によるリンゴ倒伏樹の耐凍性および根系被害実態

果樹試験場盛岡支場栽培研究室(現 リンゴ支場栽培生理研究室)

 

果樹に壊滅的な被害を与えた台風19号は、リンゴ樹に対しては果実への被害だけでなく、倒伏、折損など樹体に対しても大きな被害をもたらした。倒伏、枝折れなどの樹体損傷樹は、立て直しなどにより復旧措置が図られている。しかし、樹体が傷害を受けた場合、樹体の生理生態の乱れにより、凍害などの障害を受けやすくなることが予測され、強風による落果、落葉、枝の折損、倒伏、さらに倒伏による断根などの障害は、樹体の耐凍性を低下させ、凍害発生を助長することが考えられる。そこで、リンゴ樹の倒伏による樹体損傷と体内成分の変動および耐凍性との関係を検討し、さらに倒伏程度と根系切断との関係を明らかにするために、倒伏樹の根の損傷実態を調査した。

なお、本調査研究は青森県りんご試験場の協力のもとに実施した。

1.倒伏程度と耐凍性
耐凍性は、台木別ではM.9A台樹がM.26台樹より弱く、枝の部位別では新梢基部が最も強く、新梢頂部は頂芽より低い傾向がみられたが、倒伏の被害程度による差は明らかでなく、倒伏による耐凍性の低下は認められなかった(第1表、第2表)。果樹の耐凍性は、季節的に大きく変動し、秋から冬にかけて高まり、冬から春にかけて低下するが、その耐凍性は同一個体においても組織や器官によって異なり、また樹齢によっても差がみられ、さらに樹体の生理的状態にも左右されることが知られている。

2.耐凍性と水分含量
水分含量は、M.9A台樹の倒伏被害の大きい樹で低い傾向にある以外、台木および被害程度との間に明らかな差は認められなかった。耐凍性は水分含量の低いほど低い傾向にあり、一般的な関係とは逆の傾向がみられた(第1表)。枝の部位別の水分含量は、耐凍性のより低い新梢頂部で高い傾向にあった。今回の台風による断根は、樹体の水分含量を低下させたが、耐凍性の高まりは認められなかった。すなわち、水分含量が少ないほど耐凍性が高くなるという一般的な関係とは逆の傾向を示した。この結果は、水分とは別の樹体の充実に関与する要因が耐凍性の低下に影響したものと考えられる。
表1.頂芽および新梢の部位別の耐凍性と水分含量

 

表2.台木および被害程度別の耐凍性と糖含量

3.耐凍性と糖含量
新梢中に含まれる全糖含量は、台木または被害程度(倒伏)の違いによる差はみられず、またフルクトースおよびソルビトール含量にも差が認められなかった。M.9A台の被害樹においてグルコース含量が有意に低く、スクロース含量は高い傾向にあり、被害程度の大きい樹はスクロース含量が高い傾向にあった(第2表)。厳寒期から早春期にかけて耐凍性の低い樹では糖含量が少なく、耐凍性の高い樹では糖含量が多いことが知られており、越冬中の耐凍性は糖含量に影響される。さらに、冬季の糖の増加は秋季に蓄積されたでん粉含量により、耐凍性の違いはでん粉蓄積量の違いによっても説明されている。また、冬期間の導管液中ソルビトールの変動がリンゴ休眠枝の耐凍性変動と関連していることが示唆されているが、倒伏による被害程度とソルビトール含量との間には関係が認められなかった。

4.倒伏樹の根系被害実態
全根重に対する被害を受けた太根重割合および全太根に対する被害を受けた太根割合は、倒伏程度がひどい樹ほど高くなる傾向が認められた。しかし、北東側および南西側の方位間による被害には明らかな差はなかった。完全倒伏樹は、被害太根重が全根重の40%近く、全太根重の60%以上を占めており、立て直しによる回復の可能性は低いと思われた。また、被害根の割合は非倒伏樹でも13%を占め、小倒伏樹では約50%、半倒伏樹と完全倒伏樹では70~90%に達し、方位別では南西側における被害が高い傾向にあった(第3表)。被害根数の割合では、非倒伏樹でも13%が被害を受け、倒伏程度が大きくなるに伴い被害率が高くなった。方位別では、小倒伏樹で南西側の被害が高いが、半倒伏樹と完全倒伏樹では両側ともほぼ同程度であった。根の切断部位は倒伏の有無にかかわらず発出部で多いが、10cm以上で切断した割合は完全倒伏樹が非倒伏樹、小倒伏樹および半倒伏樹に比べ高かった。断根の状態は倒伏した方向で異なり、倒れた側の根は分岐部から切断され、その反対側の根はある程度の長さを残して切断されていた。

表3.全根数に対する健全根及び被害根数の割合(%)