果樹茶業研究部門

果樹の災害対策集

3.倒伏樹を引き起こす場合、引き起こしに際して再断根が起こるようなときは、倒伏状態のままで仕立て直しをすることが望ましいとされているが、その理由について教えてほしい

根の分布が異なる被害樹を、一律に元の位置に引き起こそうとした場合、無理に引き起こすと再断根が起きる可能性がある。カキ樹は根の被害に敏感な樹種であり、根の被害を受けた樹体の回復には再断根は極力避ける必要がある。従って、引き起こしが根の再断根を生じる恐れがある場合には支柱などで樹体を支え、その形からの樹形の仕立て直しを行った方が樹体の回復は早い。

倒伏樹の引き起こしによって倒れた方向の根が再切断された樹体の窒素養分の分配、転流構造を検討し、倒伏樹と倒伏した後引き起こした樹体における窒素肥料の樹体内での分配率を調べた結果、引き起こし樹では窒素の分配率は60%以上の多くが細根に留まっていた(図8)。これは引き起こしによって根の一部が再切断され、吸収された窒素養分の地上部への移行が行われにくくなったためと考えられる。葉への分配率が引き起こし樹で低下することは秋季の光合成量にも影響を与えている可能性もある。

倒伏したままの樹体は倒伏時に一部の根が損傷を受けていたが、引き起こし樹に比べて細根以外の大きな根や地上部への養分移行がより多く行われ、冬季に向かって各器官の貯蔵養分の割合が多くなることを示している。根元を掘ってみて根の切断が生じないと判断された場合には引き起こしは可能である。

 

図8 カキの倒伏樹および引き起こし樹の各器官の重窒素分配
図8 カキの倒伏樹および引き起こし樹の各器官の重窒素分配
(果樹試験場カキ・ブドウ支場、1998年)