果樹茶業研究部門

果樹の災害対策集

1.奈良、和歌山県下では、台風7号によってハウスの倒壊をはじめとする様々な園芸施設の被害が発生したが、その実態について教えてほしい

奈良県:平地APハウスは、11棟中被害がなかったのは5棟で、3棟はアーム部のみ破損(被害中)で、甚大な被害を受けたのは3棟(被害甚)であった。また、傾斜地APハウスは最も被害が大きく、全24棟のうち、被害がなかったのは4棟だけで、軽微2棟、アーチパイプのみの破損が3棟(被害中)、全壊15棟(被害甚)であった。基礎は、直径16cm、長さ60cmの円柱形のコンクリートを地中に埋設しただけで、積雪など上から下向きへの力には大きな抵抗力を発揮しうるが、引き抜きや強風による横からの力に対しては、比較的弱いと考えられた。一方、傾斜地平張りハウスは、全24棟中3棟のハウスが全壊(被害甚)となっただけで、13棟のハウスは被害を受けなかった(表14)。下市町栃原団地では、同じ方位でAPハウスと平張りハウスが横並びで建っているが、APハウスのアーチパイプが変形し、全壊状態であるのに対して(写真12)、平張りハウスはほとんど被害を受けなかった。

APハウスは、一部から横風が入ると、アーチ部のフィルムが袋状態になって抵抗力が増し、風が通過した後、逆に引き抜く力が大きく働いて大被害となり、一方、平張りハウスはフィルムが袋状態になりにくく、引き抜く力も小さかったと考えられる。

 

表14.果樹ハウスの種類と被害程度(奈良県、1998年)

写真12 カキAPハウスアーチ部の変形(奈良県、1998年10月)
写真12 カキAPハウスアーチ部の変形(奈良県、1998年10月)

 

和歌山県:ビニール被覆状況の違いによる施設の被害は、全面被覆施設で最も大きく、次いで妻面のみ被覆施設であり、被覆なしの施設では最も少なかった。被害部位に関しては、基礎部、妻面および側面は全面被覆施設と妻面のみ被覆施設で、ともに傾くなどの被害が多かった(写真13)。また、全面被覆施設2棟については、基礎部の円柱形コンクリートが引き起こされ露出していた。屋根部は、全面被覆施設において被害が大きく、25棟中68%に当たる17棟で骨材が折れ、原形を留めない程度に損壊していた(写真14)。

 

以上のように、施設栽培への被害では、APハウスより平張ハウスで被害が少なかった。今回の強風により、アーチパイプだけでなく、アングルの折損や基礎の抜ける被害が多発した。一方、ビニール被覆を除去した施設や、南西方向に山や家屋がある場所に設置されていた施設は被害が軽かった。

 

写真13 カキAPハウスの妻面のみ被覆施設の損壊(和歌山県、1998年10月)
写真13 カキAPハウスの妻面のみ被覆施設の損壊(和歌山県、1998年10月)

 

写真14 強風による果樹ハウス施設の被害(農工研、1998年10月)
写真14 強風による果樹ハウス施設の被害(農工研、1998年10月)