畜産研究部門

09:プロジェクト研究毎年度推進評価会議報告

プロジェクト研究18年度推進評価会議報告

プロジェクト名

体細胞クローン牛の作出率向上のための個体発生機構の解明

プロジェクトの目的・概要

体細胞クローンの飛躍的な作出率の向上、安定化を図るため、核移植に用いるドナー核やレシピエント卵子の前処理等による初期化機構への影響、体細胞クローン胚におけるエピジェネティクス制御異常の要因、および細胞遺伝学的異常による影響等、体細胞クローンに特有の異常発生要因を解明する。

  • ドナー核の初期化と核移植胚発生に関わる要因の解明を行い、レシピエント卵子の発育能及び保存率の向上に関わる要因の解明を通して、受胎性に富む体細胞核移植胚の生産をめざす。18年度は分裂阻害剤と培養器の振盪処理等によりドナー細胞の細胞周期をG1期に同調し、核移植胚の体外発生能を検討した。また、ヒストン脱アセチル化酵素の阻害剤であるトリコスタチンAを核移植後の培地に添加し、核移植胚の体外発生能に及ぼす影響について検討を行った。活性化卵子を用いた場合、G0期に比べG1期細胞由来胚の胚盤胞発生率が有意に高くなったが、胚盤胞期胚の細胞数は有意な差は認められなかった。またトリコスタチンA添加により線維芽細胞由来核移植胚の胚盤胞期の細胞数増加が認められた。
  • 核移植胚におけるメチル化機構の解明とメチル化状態の評価やES由来クローン胚のエピジェネテックスと遺伝子発現制御機構の解明により、体細胞核移植胚における遺伝子発現と発生能の関係等を明らかにする。18年度はクローン、体外受精および単為発生胚盤胞を栄養膜細胞および内部細胞塊に切断分離し、それぞれの細胞群からRNA抽出、cDNA合成し、新規および維持型メチル基転移酵素群(DNAメチルトランスフェラーゼ:dnmt1,2,3a,3b)の発現を、アクリルアミドゲル電気泳動-SYBRGold染色により半定量RT-PCRにて比較解析した。メチル基転移酵素遺伝子の発現はどの胚でも他の酵素遺伝子と比べてDnmt-3aが高かった。3bの発現は3aと比べて有意に低かった低いことなどが明らかになった。
  • 体細胞クローン胚や個体に関して染色体分配機構の解明や細胞質DNAの影響を解明して、クローン個体や胚の発生率向上や異常発生要因を明らかにする。本年度は、体細胞クロ-ン牛25頭について染色体解析を試みた。いずれの個体においても染色体数のモ-ドは60本で、核型は雄が2n=60,XY、雌が2n=60,XXであった。しかし、通常は観察されない近2倍体性細胞(低2倍体性細胞と高2倍体性細胞)や近多倍体性の染色体の数的異常を伴った細胞が低率ながら混在している例が観察された。

参画機関等

主査、推進責任者、リーダー等

  • (主査研究所):農業・食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所
  • (主査):柴田正貴(理事・所長)
  • (推進責任者):塩谷康生(研究管理監)
  • (リーダー) :下司雅也(畜産草地研究所高度繁殖技術研究チーム長)

その他参画機関

独)農業・食品産業技術総合研究機構・畜産草地研究所高度繁殖技術研究チーム、東北農業研究センター高度繁殖技術研究チームサブチーム、九州沖縄農業研究センター特命研究員、東京農業大学・農学部、応用生物科学部

評価委員の氏名・所属

  • 小畑太郎
    農林水産先端技術産業振興センター、農林水産先端技術研究所研究第2部長
  • 眞鍋昇
    東京大学大学院農学生命科学研究科高等動物教育研究センター・附属牧場実験資源動物科学教授
  • 小倉淳郎
    理化学研究所バイオリソースセンター(RIKEN BRC) 遺伝工学基盤技術室室長

評価結果の概要

(1)研究計画の達成度 A : A : A
(1)研究の達成度:現時点で、その目標に対してどの程度達成しているかについて4段階(A:達成、B:概ね達成、C:半分以上達成、D:達成が低い)とする。

(2)研究計画の達成可能性 A : A : A
(2)研究目標の達成可能性:最終的に目標の達成可能性がどの程度あるかを4段階(A:達成可能、B:ほぼ達成可能、C:達成には目標・期間等の見直しが必要、D:達成困難)で評価する。

○総括評価 1:2:2
○総括評価:1.研究課題は順調に進行しており、問題はない。2.研究課題はほぼ順調であるが、改善の余地がある。3.研究課題の計画等を変更する必要がある。4.研究課題の計画等を大幅に変更する必要がある。

総合コメント

A評価委員:
いずれの課題も1年目として順調に研究が進展している。産業的な注目度も高く、今後とも基礎的研究と実用化研究のバランスを図りながら進めて欲しい。

B評価委員:
プロジェクト全体の構想および課題構成は極めて整っていることから、各課題がもれなく優れた成果を出せれば、世界的にも突出したプロジェクトとなる可能性を秘めている。研究期間1年目が終了し、全体に順調に進展しているといえるので、今後のさらなる展開に大いに期待したい。
現在の問題点を挙げるとすれば、課題間に研究の進展とオリジナリティにばらつきがある点にあると思われる。本プロジェクトは、他の省庁には無い、多数のクローン専門家による目的志向型プロジェクトである。また、各課題担当者のうちの多くは周囲にクローンおよび繁殖生物学の専門家がいる。このように、研究体制および人的資源としても我が国でクローン研究をするための恵まれた環境にあると言える。ぜひ、残り4年間のうちに大いに切磋琢磨して、オリジナリティの高い、産業および発生生物学に大きな影響を与える成果を出していただきたい。また、それが政府・一般からのクローン研究への継続的な支持に繋がる点も考慮していただきたい。

C評価委員:
初年度の基盤となる各課題の研究目標は概ね達成されており、いくつかの課題では予期していなかった新知見や新技術開発につながる萌芽を得ており、今後の発展が期待されるので、優れていると判断できる。今後の改善点として、プロジェクト全体の目標を達成するために各課題の一層の有機的連携を強めて焦点を絞った研究を鋭意遂行すること、および特許や学術誌への投稿など開発した技術の独自性のアピールとその普及の努力を重ねることがあげられる。

評価結果を踏まえた改善措置概要

体外受精および単為発生胚盤胞を栄養膜細胞および内部細胞塊に分け、メチル基転移酵素遺伝子の発現などを追求している課題に研究員を雇用する予算を新たに配分し、研究の加速化を図る。