畜産研究部門

09:プロジェクト研究毎年度推進評価会議報告

プロジェクト研究19年度推進評価会議報告

プロジェクト名

体細胞クローン牛の作出率向上のための個体発生機構の解明

プロジェクトの目的・概要

体細胞クローンの飛躍的な作出率の向上、安定化を図るため、核移植に用いるドナー核やレシピエント卵子の前処理等による初期化機構への影響、体細胞クローン胚におけるエピジェネティクス制御異常の要因、および細胞遺伝学的異常による影響等、体細胞クローンに特有の異常発生要因を解明する。

  • ドナー核の初期化と核移植胚発生に関わる要因の解明を行い、レシピエント卵子の発育能及び保存率の向上に関わる要因の解明を通して、受胎性に富む体細胞核移植胚の生産をめざす。19年度は、ウシ卵子成熟培養液への細胞透過型のAdenylate Cyclase 添加は、体外受精後の胚発生率を高める効果があることを明らかにした。また、細胞周期同期化法の違いが核移植胚の数種類の遺伝子の発現に及ぼす影響を検討し、Oct4, Ifitm3, Hdac1, Dnmt3a遺伝子の相対発現量は核移植胚と体外受精胚で有意な差は認められないが、Sox2遺伝子の相対発現量についてはG0細胞と活性化2時間後の卵子を用いた核移植胚では体外受精胚と比べて低い傾向が認められることを明らかにした。また、ウシ体細胞核移植において、卵子活性化開始後のヒストン脱アセチル化酵素阻害剤Trichostatin Aの培地添加は、体外発生能が低いドナー細胞由来クローン胚の胚盤胞発生能を改善することを明らかにした。
  • 核移植胚におけるメチル化機構の解明とメチル化状態の評価やES由来クローン胚のエピジェネテックスと遺伝子発現制御機構の解明により、体細胞核移植胚における遺伝子発現と発生能の関係等を明らかにする。19年度は、単一体外受精及び核移植胚盤胞から切断分離した内部細胞塊並びに栄養膜細胞のメチル化状態のCOBRA法による解析により、saTellite I およびcytokeratinで核移植胚の高メチル化が安定して観察されることを明らかにした。また、ドナー細胞および初期胚のメチル基転移酵素遺伝子の特異的干渉系を確立した。さらに、クローン牛の安定的生産を進めるため、マウスES/体細胞クローン胚をモデルとして単一胚盤胞を用いたマイクロアレイ解析を大規模に実施し、高生存性を持つと推測されるクローン胚盤胞に特異的に発現する18の候補遺伝子を抽出した。
  • 体細胞クローン胚や個体に関して染色体分配機構の解明や細胞質DNAの影響を解明して、クローン個体や胚の発生率向上や異常発生要因を明らかにする。19年度は、新たに体細胞クロ-ン牛5頭、体細胞クロ-ン牛より生産された後代牛7頭、その子供3頭について染色体解析を行った。いずれの個体においても染色体数のモ-ドは60本で、核型は雄が2n=60,XY、雌が2n=60,XXであったが、表現型が正常であっても、ごく一部の個体において細胞分裂時に染色体の分配がうまく行われず、低率ではあるが染色体の数的異常を伴った細胞を生じている個体が認められた。また、核移植操作による個体のミトコンドリア機能への影響を調べるため、通常牛と核移植牛についてミトコンドリアタンパク質の2次元電気泳動像を比較した結果、等電点や分子量、発現量の異なるスポットがいくつか確認され、それらのいくつかはミトコンドリア関連酵素として同定された。また、血清飢餓処理した細胞のミトコンドリア注入がウシ単為発生卵の発育率を低下させることを明らかにした。

参画機関等

主査、推進責任者、リーダー等

  • (主査研究所):農業・食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所
  • (主査):柴田正貴(理事・所長)
  • (推進責任者)
    5月まで:塩谷康生(畜産草地研究所研究管理監)
    6月以降:下司雅也(畜産草地研究所高度繁殖技術研究チーム長)
    (リーダー) :下司雅也(畜産草地研究所高度繁殖技術研究チーム長)

参画機関

(独)農業・食品産業技術総合研究機構・畜産草地研究所高度繁殖技術研究チーム、東北農業研究センター高度繁殖技術研究東北サブチーム、九州沖縄農業研究センター(併任研究員)、東京農業大学・農学部、東京農業大学・応用生物科学部

評価委員の氏名・所属

  • 小畑太郎
    農林水産先端技術産業振興センター、農林水産先端技術研究所
    研究第2部長
  • 眞鍋昇
    東京大学大学院農学生命科学研究科、高等動物教育研究センター・附属牧場
    実験資源動物科学教授
  • 小倉淳郎
    理化学研究所バイオリソースセンター(RIKEN BRC)
    遺伝工学基盤技術室室長

評価結果の概要

(1)研究計画の達成度 A : A : B
(1)研究の達成度:現時点で、その目標に対してどの程度達成しているかについて4段階(A:達成、B:概ね達成、C:半分以上達成、D:達成が低い)とする。

(2)研究計画の達成可能性 A : A : B
(2)研究目標の達成可能性:最終的に目標の達成可能性がどの程度あるかを4段階(A:達成可能、B:ほぼ達成可能、C:達成には目標・期間等の見直しが必要、D:達成困難)で評価する。

○総括評価 2:2:2
○総括評価:1研究課題は順調に進行しており、問題はない。2研究課題はほぼ順調であるが、改善の余地がある。3研究課題の計画等を変更する必要がある。4研究課題の計画等を大幅に変更する必要がある。

総合コメント

A評価委員:
それぞれの課題は順調な進展が見られた。プロジェクトの前半の2年間で得られた成果を後半の期間で生かして、目に見える成果を出してほしい。各課題とも良い成果が蓄積されてきているので、課題間の連携を密にすることで、全体として研究目標が達成できるようになると期待される。

B評価委員:
多くの課題は助走段階を終えて、高い成果が期待できる段階に至っていると思うが、一部当初の予定どおりに進んでいない課題がある。このような課題の見直しと研究課題間の連携を一層緊密にしながら、あと一段高い目標を設定することで課題の当初の目標を達成できるものと確信する。

C評価委員:
プロジェクトの開始にあたり、それぞれの課題が着実に進展していることが理解できた。本プロジェクトの課題担当者が一堂に集まれば、我が国の体細胞クローンの一大勢力である。よって今後は相互連関を高めることにより、共同研究だけでなく、お互いの情報交換や忌憚のない意見交換も行っていただきたい。このようにして全体的なレベルアップを達成すると共に、本プロジェクトの最終目標の再確認ができるのではないかと期待する。

評価結果を踏まえた改善措置概要

評価の高い100、300、600番の課題について研究費を増額するとともに、100及び300番の課題のいっそうの研究推進のため、引き続き特別研究員(300番の課題においては19年度契約研究員を雇用)を雇用する予算を配分し、研究の加速化をはかる。20年度は、プロジェクトの中間点であり、研究の進捗状況の把握のため、中間検討会の開催を予定している。