畜産研究部門

09:プロジェクト研究毎年度推進評価会議報告

プロジェクト研究21年度推進評価会議報告

プロジェクト名

体細胞クローン牛の作出率向上のための個体発生機構の解明

プロジェクトの目的・概要

体細胞クローンの飛躍的な作出率の向上、安定化を図るため、核移植に用いるドナー核やレシピエント卵子の前処理等による初期化機構への影響、体細胞クローン胚におけるエピジェネティクス制御異常の要因、および細胞遺伝学的異常による影響等、体細胞クローンに特有の異常発生要因を解明する。

  • ドナー核の初期化と核移植胚発生に関わる要因の解明を行い、レシピエント卵子の発育能及び保存率の向上に関わる要因の解明を通して、受胎性に富む体細胞核移植胚の生産をめざす。
  • 核移植胚におけるメチル化機構の解明とメチル化状態の評価やES由来クローン胚のエピジェネテックスと遺伝子発現制御機構の解明により、体細胞核移植胚における遺伝子発現と発生能の関係等を明らかにする。
  • 体細胞クローン胚や個体に関して染色体分配機構の解明や細胞質DNAの影響を解明して、クローン個体や胚の発生率向上や異常発生要因を明らかにする。

参画機関等

主査、推進責任者、リーダー等

  • 主査:松本光人(畜産草地研究所所長)
  • 進責任者:下司雅也(畜産草地研究所高度繁殖技術研究チーム長)

参画機関

(独)農業・食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所高度繁殖技術研究チーム・東北農業研究センター高度繁殖技術研究東北サブチーム・九州沖縄農業研究センター(併任研究員)、東京農業大学・応用生物科学部

評価委員の氏名・所属

  • 小畑太郎
    農林水産先端技術産業振興センター、農林水産先端技術研究所
    研究第2部長
  • 眞鍋昇
    東京大学大学院農学生命科学研究科、高等動物教育研究センター・附属牧場
    実験資源動物科学教授
  • 小倉淳郎
    理化学研究所バイオリソースセンター(RIKEN BRC)
    遺伝工学基盤技術室室長

評価結果の概要

(1)研究の達成度 B : B : B
(2)計画の達成可能性 B : B : A
イ研究の成果 B : B : A
ウ総括評価2 : 2 : 2

((1)研究の達成度:現時点で、その目標に対してどの程度達成しているかについて4段階(A:達成、B:概ね達成、C:半分以上達成、D:達成が低い)で評価する。
(2)研究の達成可能性:最終的に目標の達成可能性がどの程度あるかを4段階(A:達成可能、B:ほぼ達成可能、C:達成には目標・期間等の見直しが必要、D:達成困難)で評価する。
イ研究の成果:研究の成果は、(1)普及に移しうる成果の数と概要、(2)論文の数と概要、(3)特許及び品種の出願(登録)数と概要、(4)その他(各種賞の受賞、プレスリリース、開発ソフト・データベースの構築、招へい講演、学会発表等)を評価指標として、4段階(A:高い、B:やや高い、C:やや低い、D:低い)で評価する。
ウ総括評価:次の4段階で評価する。1研究課題は順調に進行しており、問題はない。2研究課題はほぼ順調であるが、改善の余地がある。3研究課題の計画等を変更する必要がある。4研究課題の計画等を大幅に変更する必要がある。)

総合コメント

A評価委員:
プロジェクト前半の4年目に入り、それぞれの課題はほぼ順調に進展している。各課題とも優れた成果が蓄積されつつあり、論文発表や特許出願も随時行われてきている。研究期間は残り1年となったが、当初の達成目標を十分意識するとともに、課題間の連携を図ることで研究材料と情報交換を密にして、研究推進を効率的に行うことで、全体として研究目標の達成は可能であると考えられる。5年間の取りまとめの際には、論文等の目に見える形での成果が蓄積できるように精進をお願いしたい。

B評価委員:
体細胞クローン牛の作出率を向上するために、核を提供するドナー細胞と核を受け入れるレシピエント(脱核した卵母細胞)に関わる基盤から実証レベル研究を進める二つの柱となるプロジェクトおよび体細胞クローン動物の特性を核酸とタンパクレベルで把握して、個体発生機構を解明しようとする本事業の意義は高いものである。概ね当初の目標を達成し、実証レベルも含めて着実に成果を積み重ねてきている。残り1年間となったが、各プロジェクトで得られた成果を交互に活用するとともに、プロジェクト間の連携を高め、未達成の目標を具現化することに力を注ぐべきである。加えて、これまでに得られた事業成果を論文、特許など形あるものとする事も疎かにすべきでない。

C評価委員:
4年目がほぼ終了し、成果の概要が見えてきた。それぞれの課題で、問題解決の糸口やポジティブなデータが見え始めているので、最終的な達成目標まで効率的に到達できるように、タイムスケジュールを考慮して具体的な計画を立てていただきたい。ウシ卵子を使うという厳しい数的質的制限の中、多大な努力により貴重なデータが生み出されている点は高く評価されるべきである。今後、特に胚移植はさらに高いハードルとなると予想されるが、有望な実験についてはぜひチャレンジしていただきたい。
一部の研究については、マウスやウサギなどの小動物での基礎実験を積み重ねてから、その成果をウシへ外挿することが逆に近道になる場合もあるという印象を持った。今回のプロジェクトのマイクロアレイによる遺伝子発現解析やミトコンドリアの研究などは、マウスでの実績が功を奏しているように見える。脱アセチル化阻害剤の実験のように、実験動物を用いた既報を参考にすることもできるが、信頼性、技術の習得、独創性、情報が届くまでの時間差を考えると、同じラボで実験動物を使って突き詰めて進める方が良い結果につながる可能性もある(脱アセチル化阻害剤は、多くの種類があり、本来の細胞毒性や適性濃度も異なるし、実験環境でも微妙な差が生じる)。また、一部の実験系では、胚盤胞の段階では有効性が確認できず、着床後に効果が見える場合がある。このように胚移植による確認が必要な場合にも、実験動物の利用を検討しても良いのではないか。マウスで20日、ウサギでも1ヶ月で結果が出る。もちろん、ウシと実験動物は繁殖生物学的に大きく異なる点が多々あり、その他さまざまな事情もあるかもしれないが、類似点を柔軟に利用する思考も取り入れることが、本研究グループのポテンシャルを最大限に引き出し、ウシ胚研究における次のブレークスルーにつながるのではないかと考える。

評価結果を踏まえた改善措置概要

研究材料及び情報交換を密にして課題間の連携強化をいっそう強め、移植試験の実施による受胎性の検証など研究目標の達成、および得られた成果の論文化にむけ努力する。