畜産研究部門

09:プロジェクト研究毎年度推進評価会議報告

プロジェクト研究21年度事後評価会議報告

プロジェクト名

放牧牛乳のプレミアム化に向けた家畜健全性評価指標の確立と牛乳中機能性成分制御技術の開発

プロジェクトの目的・概要

牛乳の消費量は、少子化や他飲料との競合で減少してきており、厳しい生産調整が続いている。そこで、本プロジェクトでは、機能性・健全(安全)性の高い牛乳を求める消費者のニーズを捉えたプレミアム牛乳を生産するために、放牧による牛乳の健全性・機能性に着目して放牧牛乳のプレミアム化をはかる研究を推進する。
放牧が牛にとって快適で病気にかかりにくい飼養法であることを科学的に検証し、健全性を証明するために、快適性については、生体ストレス物質・快適性物質および敵対行動・睡眠行動を指標として、放牧が家畜にとって快適な飼養方式であることを科学的に明らかにする。抗病性については、ワクチン応答や生体防御系遺伝子等を指標として、放牧が病気にかかりにくい飼養方式であることを提示する。
機能性成分として抗ガン作用のある共役リノール酸、抗酸化作用のあるβ―カロテン、催眠作用・抗酸化作用のあるメラトニンを対象とし、これらの成分を多く含む放牧牛乳の生産技術を開発する。また、その他の機能性成分として消費者の関心が高い牛乳のアレルゲンタンパク質の構造や、免疫関連物質の動態を放牧牛乳において検討する。さらに、消費者の信頼に応えるため、放牧牛乳の判別技術開発に適用できる特異成分を見出す。

参画機関等

主査、推進責任者、リーダー等

  • 主査:松本光人(畜産草地研究所所長)
  • 推進責任者:栂村恭子(畜産草地研究所放牧管理研究チーム長)
  • 1系チームリーダー:石崎宏(畜産草地研究所放牧管理研究チーム主任研究員)
  • 2系チームリーダー:野村将(畜産草地研究所畜産物品質研究チーム長)

参画機関

(独)農業・食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所・動物衛生研究所・北海道農業研究センター・東北農業研究センター、東北大学

評価委員の氏名・所属

  • 小原嘉昭
    東北大学名誉教授(現:明治飼糧株式会社水戸研究牧場研究顧問)
  • 萬田富治
    北里大学獣医学部教授、付属フィールドサイエンスセンター長
  • 北澤春樹
    東北大学大学院農学研究科生物産業創成科学専攻准教授

評価結果の概要

(1)研究の達成度 B : B : B
(A:達成、B:概ね達成、C:半分以上達成、D:達成が低い)

(2)研究成果の普及性・波及性 A : B : A
(A:高い、B:やや高い、C:やや低い、D:低い)

(3)研究の発展可能性 A : B : A
(A:高い、B:やや高い、C:やや低い、D:低い)

(4)投入した研究資源の効率性 B : B : B
(A:高い、B:やや高い、C:やや低い、D:低い)

(5)研究の成果B:B:B
(A:高い、B:やや高い、C:やや低い、D:低い)

(6)総括評価1 : 2 : 2
(1:研究課題の成果は目標を上回った、2:研究課題の成果は目標を達成した、3:研究課題の成果は目標を下回った、4:研究課題の成果は大きく目標を下回った)

総合コメント

A評価委員:
本プロジェクトは、現在の日本酪農の状況を鑑み、的を射たものであるが、「放牧」の定義が明らかになっていないことなどから、研究を進める上で難しいと思われた。しかし、研究を進める中で評価会議の議論を踏まえ、参画研究機関で行う放牧実験など、課題間で連携して取り組めたことにより、当初予想した研究成果より達成度の高い成果が得られた。快適性、香気成分、免疫性、乳成分関係で興味深い成果が得られた点、評価できる。得られた成果を公表する義務が残されていることを強調したい。また終了年度内で研究成果発表会を行い、放牧ミルクの付加価値などに関して、消費者、生産者、研究者の間で問題点を認識できた意義は大きいと考える。今後、生産と流通面を考えて、放牧研究をさらに発展させていくことを期待する。

B評価委員:
放牧がストレスの少ない飼養形態であるかどうか関心の高いところであるが、試験場所間で異なる結果が得られており、さらに例数を増やした試験が必要である。放牧牛ではウイルス病ワクチンにたいする抗体応答が高い効果を認めており、放牧の普及参考になる成果である。放牧牛乳の機能性成分についても初期の目標をほぼ達成している。放牧牛乳の判別手法についても有効な方法を見いだしている。放牧牛乳生産基準認証制度がスタートしており、当研究成果の活用が期待される。

C評価委員:
本研究は、放牧牛乳の普及につながる重要なプロジェクトとして、極めて大きな意義をもつ。放牧牛乳に対する指標の明確化とその実証については、今後の継続も必要であるが、快適性、抗病性および特定因子に関する成果が幾つか得られ、小課題間の相互理解により、明確な指標としての有用性が大いに期待された。今後、個体による差も考慮しつつ、指標の標準化を目指した評価法の簡素化や、製品レベルでの検証を行うことが重要となる。昨今の牛乳に対する様々な懸念の中で、本プロジェクトの成果が、前向きに発展することを祈念し、科学的根拠に基づいた持続的研究とその公表に努めていただきたい。

評価結果を踏まえた改善措置概要

評価委員から指摘をうけた、生産と流通面を考えた研究発展については、チーズ等の加工技術や地域ブランド化などの研究を加えて平成22年度開始の農林水産省の委託プロジェクト内で実施し、放牧牛乳の高付加価値化に引き続き取り組む。これまで得られた成果を論文として公表する。