農研機構、サナテックシード(株)、筑波大学の研究成果が、日本育種学会2023年春季大会(第143回講演会)の口頭発表192題の講演課題の中から、特に新規性・重要性が高いと考えられる講演課題の4題のうちの1つに選出され、3月10日の日本育種学会主催の記者発表でその内容が紹介されました。
講演タイトル
in planta Particle Bombardment(iPB)法を用いた高効率メロンゲノム編集系の開発と日持ち性を高めた実用系統の創出
発表者
佐々木健太郎1、耳田直純2、野中聡子3、江面浩3、今井亮三1,3 (1. 農研機構生物研、2. サナテックシード(株)、3. 筑波大生命環境系)
研究のポイント
研究の背景
CRISPR/Cas92)などを用いたゲノム編集はさまざまな作物に応用でき、世界中で新しい作物の開発が進められています。しかし、メロンについては、従来の培養を用いた方法3)では、ゲノム編集個体を得ることが極めて難しい状況でした。そこで、農研機構と(株)カネカが共同開発した植物体の茎頂生殖系列細胞4)にゲノム編集酵素を直接導入する手法、in planta Particle Bombardment(iPB)法をメロンに適用し(図A)、メロンの高効率なゲノム編集技術の開発と販売者からの需要の高い高日持ち性メロンの作出を試みました。
研究の成果
高級マスクメロンの標準品種「アールスフェボリット春系3号」を材料としました。ゲノム編集のターゲット遺伝子は、エチレン合成関連遺伝子を用いました。この遺伝子の変異により、果実収穫後の追熟5)の過程で放出されるエチレンの量が減少し、果実の日持ち性向上が期待されます。iPB法を用いてCRISPR/Cas9をリボヌクレオタンパク質6)の形で茎頂組織に導入しました。標的遺伝子に変異を持つ個体を選抜し、これを生育させ、収穫後の果実のエチレン放出量を測定しました。図Bに示すように、原品種の果実が収穫後(交配後35日から40日の間に収穫)にエチレン放出量を著しく増加させるのに対して、当該果実から放出されるエチレン量は極めて低いレベルに維持されていました。また、収穫後10日目の果実において、原品種ではこの時点で追熟がかなり進んでおり、果実表面の緑色が薄くなっていますが、ゲノム編集系統では表面は緑色のままで収穫直後の状態を維持していました(図C)。
以上の結果より、麦類で実績のあるiPB法がメロンにも適用可能であることが明らかとなりました。
今後の予定・期待
高効率でゲノム編集個体が取得できること、並びに日持ち性のような実用形質の改変が可能であることが確かめられました。今後、本技術を用いたメロンの健康機能性や病害抵抗性の改良が期待されます。本研究で開発したメロンのゲノム編集技術は、メロンと同じウリ科作物であるキュウリ、スイカ、カボチャ等のゲノム編集にも利用できる可能性があります。
用語の解説
- エチレン
- 植物ホルモンの一種で果実の成熟を促進させる効果をもつ。[研究のポイントへ戻る]
- CRISPR/Cas9
- ゲノム配列上の指定された配列を切断し、ゲノム編集を行うツール。発明者はノーベル賞を受賞。[研究の背景へ戻る]
- 従来の培養を用いた方法
- 植物の組織片等を、栄養物を含む培地等で無菌的に培養し、そこから植物体を再生させる技術。[研究の背景へ戻る]
- 茎頂生殖系列細胞
- 茎の先端(茎頂)に存在する多分化能を持つ細胞。乾燥種子にも含まれる。[研究の背景へ戻る]
- 追熟
- 果実を収穫後、一定期間置くことで甘さが増し、果肉が柔らかくなる現象。[研究の成果へ戻る]
- リボヌクレオタンパク質
- タンパク質とRNAからなる複合体。[研究の成果へ戻る]
関連情報
予算 : 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期
関連リンク
日本育種学会 講演会・シンポジウム
https://jsbreeding.jp/2023/03/23/post-871/
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