研究活動報告

令和4年度日本植物病理学会において、論文賞を受賞しました。

情報公開日:2022年4月26日 (火曜日)

受賞年月日

  • 2022(令和4年)年3月27日

業績

  • 令和4年度日本植物病理学会論文賞
    Factors affecting red crown rot caused by Calonectria ilicicola in soybean cultivation
    Journal of General Plant Pathology (2020) 86:363-375

受賞者

  • 農業・食品産業技術総合研究機構本部事業開発部
  • ビジネスコーディネーター 赤松 創 ほか34名
    Hajime Akamatsu · Naoya Fujii · Takaaki Saito · Akira Sayama · Hideki Matsuda ·Masaya Kato · Rui Kowada · Yukiko Yasuta · Yuji Igarashi · Hideo Komori · Katsuo Tanji · Tomohisa Kuroda · Yoihi Fujita · Makoto Hattori · Osamu Kawakami · Takeshi Hori · Genki Mimuro · Toshiyuki Morikawa · Nobuaki Murasaki · Yumi Aoki · Junko Sekihara · Yukihide Iyama · Hitoshi Nakada · Tadayasu Iwata · Toshinori Kichishima · Tomoka Ebitani · Fumiko Numada · Hitoshi Manta · Hirokazu Nakajima · Toru Yamashita · Kaoru Miyahara · Goro Toyoshima · Kazuyoshi Yamada · Ryo Yamamoto · Sunao Ochi

研究の概要

ダイズ黒根腐病(以下、黒根腐病)は、子嚢菌Calonectria ilicicolaによる土壌伝染性の病害で、重症化すると、主根のみが残されたゴボウ根と呼ばれる症状を引き起こす。地上部では、早期の黄化や落葉が生じ、収量構成要素である莢数および子実粒大が減少することにより、収量および品質が低下する。本病の発生圃場が多い東北地方および北陸地域は、作付面積・収穫量ともに全国の約3割を占める、日本のダイズ生産上重要な地域である。このことから、特にこの地域において、黒根腐病は、我が国のダイズの安定生産および増産、ひいては自給率向上のために対策を講ずるべき重要病害と考えられる。

本研究では、(i)黒根腐病による根の発病程度とダイズ収量との関係、(ii)秋田県、福島県、新潟県、富山県、長野県における黒根腐病の発生実態、(iii)ダイズ栽培における黒根腐病に関連する要因について、調査・解析した。本業績は、上記5県および農研機構の関係者とともに取り組んだプロジェクト研究の成果である。

まず、ダイズ品種'エンレイ'を用いて、黒根腐病の発病程度と収量構成要素を株ごとに調査した。その結果、黒根腐病が重症化した株における子実粒数の減少だけでなく、100粒重の減少、つまりはダイズ子実の小粒化による子実粒重の減少によっても、収量が低下することを再確認した。

次に、上記5県の合計370圃場において黒根腐病の調査を実施したところ、5県すべてで黒根腐病の発生が確認された。各県における圃場当たりの平均罹病株率は20.8%~78.1%、平均重症株率は10.6%~42.3%、平均発病度は15.1~35.5であった。

これらダイズ圃場のうち、秋田県、福島県、新潟県の242圃場について、栽培履歴や栽培条件等と黒根腐病(罹病株率および重症株率)との関連性を解析した。本病の罹病株率では、「過去の発病履歴」、「ダイズ連作年数」、「播種日」、「中耕培土回数」と強い関係が認められ、順に「過去の発病履歴がある」、「ダイズ連作年数が長い」、「播種日が早い」、「中耕培土回数が多い」場合に発病が助長されていることが示唆された。重症株率で解析したところ、上述の要因のうち「播種日」を除く三つの要因と強い関係が認められ、「過去の発病履歴がある」、「ダイズ連作年数が長い」、「中耕培土回数が多い」場合に、黒根腐病による重症化が助長されることが示唆された。上述以外にも、本病に影響を及ぼす要因が明らかになっており、「過去の発病履歴がない圃場を選定する」、「水稲と輪作する」、「水稲連作期間を延長する」、「播種日を遅らせる」、「チアメトキサム・フルジオキソニル・メタラキシルM水和剤で種子処理する」、「畝立て播種する」、「早期の中耕培土を省略する」、「中耕培土回数を削減する」、「圃場の排水性を改善する」、「額縁明渠、または補助暗渠を施工する」ことが、黒根腐病対策として有効であると考えられる。

現在のところ、黒根腐病に対する登録農薬は少なく、完全な抵抗性を有する品種が見いだされていない等、本病防除に利用可能な技術が乏しい状況にある。また本病は一度発生すると、根絶することが困難な病害であるため、圃場の環境改善や耕種的手法等を適宜導入し、本病に罹病したダイズ個体を重症化させないように栽培管理することが、現時点では最善の被害軽減対策であり、ひいてはダイズを安定かつ多収生産するために重要と考えられる。

日本植物病理学会論文賞
記念の盾