研究活動報告

日本草地学会研究奨励賞(三井賞)を受賞しました。

情報公開日:2023年4月10日 (月曜日)

受賞年月日

  • 2023(令和5年)年3月27日

業績

  • 草地・放牧管理の高度化のための環境要因の解明

受賞者

  • 農業・食品産業技術総合研究機構西日本農業研究センター 周年放牧研究領域
  • 周年放牧グループ 柿原 秀俊

研究の概要

放牧は、飼料自給率の向上や糞尿による環境汚染抑制、化学肥料の節減、アニマルウェルフェアの向上、荒廃農地問題の解消などへの寄与が期待され、より一層の推進が求められています。一方、放牧は舎飼いと比べ屋外環境の影響を強く受けるため、土壌、気候、地形などを考慮し、牧柵などの施設や施肥管理によって家畜や草地を制御する必要があります。

電気牧柵は放牧に広く用いられますが、ヤギの放牧では効果が不十分な場合のあることが知られています。これまで、家畜に直接電気ショックを与えるワイヤーが、電気牧柵の効果を生み出す重要な構成要素とみなされてきましたが、他の構成要素についてはよく分かっていませんでした。そこで、ワイヤーだけでなく支柱も効果を持つという仮説を立て、それを証明するための実験を行いました。その結果、電気牧柵に対する馴致後まもないヤギの反応は、支柱においてもワイヤーと同等以上に強いことが示され、ヤギがワイヤーだけでなく支柱も避けていることが明らかになりました。この成果は、電気ショックを与えない要素を用いた電気牧柵の効果向上に寄与する可能性があります。

また、オーチャードグラス(Dactylis glomerata、以下OG)は温帯地域の重要な牧草ですが、多年生であるにもかかわらず、短期間で衰退してしまう問題があります。原因の一つとして、日本では土壌酸性化の影響が長年指摘されていましたが、詳しいことは分かっていませんでした。そこで、採草(刈取)または放牧に利用されてきた複数のOG草地で、土壌酸性とOGの優占頻度との関係を調べたところ、採草地では強酸性の地点でOGが優占しやすいのに対し、放牧草地ではそのような関係がみられないことがわかりました。

このような採草地と放牧草地の違いを生む要因を明らかにするため、酸性条件と施肥条件を組み合わせたポット栽培のOGの生長を調べました。その結果、土壌酸性の強い条件下では茎葉の生長量が大きく、この効果は化学肥料施用で顕著であり、逆に放牧牛糞施用では抑制されることがわかりました。さらに、酸性化によって土壌中の無機態窒素濃度が高まることが示されたため、土壌窒素の利用性の変化によってOGの生長が影響を受けていると考えられました。これらのことから、土壌酸性がOG衰退に及ぼす影響は、施肥管理によって制御しうることが明らかになりました。本研究で得られた知見は、酸性土壌下でもOGを衰退させない草地管理技術の開発に貢献すると期待されます。

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