受賞年月日
- 2023年(令和5年)9月4日
業績
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自脱コンバインにおける巻き込まれ事故の未然防止装置の開発(第1報)
-判別手法と試作構成要素の検討-
(農業食料工学会誌第84巻5号)
受賞者
- 岡田 俊輔(農研機構西日本農業研究センター 中山間営農研究領域 生産環境・育種グループ)
- 積 栄(農研機構農業機械研究部門)
- 志藤 博克(農研機構農業機械研究部門)
- 松本 将大(農研機構農業機械研究部門)
研究の概要
農作業は事故が多いことで知られ、農作業死亡事故については、農業機械による事故が多数を占める(農林水産省、2023)ため、メーカや関係機関の努力によって様々な安全対策が施され、農業機械の安全性は向上しています。自脱コンバインにおいても、各種の安全装備が施されている一方で、ひとたび事故が発生すると重傷度が高い機種であり、より一層の安全性向上が求められています。自脱コンバインの典型的な事故として、手こぎ作業時の巻き込まれ事故が知られ、この事故に対処するため、私たちはこれまでにメーカと共同で非常停止ボタンによる緊急停止装置の開発に取り組み、実用化に至っています。しかし、この装置は非常停止ボタンを操作しないと作動しないため、作業者の反応が遅れた場合等に、この装置の効果が発揮できないことが想定されます。また、一般的に用いられる、カバー等による防護策は、手こぎ作業において作業性が低下する恐れがあり、作業性の低下は安全装置の無効化等の不安全行動を誘発することが知られています。従って、従来と同様の作業性を確保しつつ、危険部位への作業者の接近を自動的に判別し、巻き込まれ事故を未然に防止する技術を開発しました。このうち、作業者判別手法の検討結果と試作装置の構成要素について本論文で報告しました。
作業者を判別する既存技術の調査を踏まえ、手こぎ作業においては作物による遮蔽や水分など様々な影響を受けるため、既存技術の流用が困難と考えられました。そこで、金属や磁石等の磁性体を作業用の手袋に貼付し、金属センサや磁気センサによって間接的に作業者を判別する手法を採用し、開発に取り組みました。この手法を用いるにあたり、手こぎ作業も含め、巻き込まれ事故の恐れのある可動部周辺での手袋の使用は、一般的に禁止されています。しかし、本手法については、リスクを低減するための手袋の使用であり問題とはならないと判断しています。さらに、新たな利点として、素手でワラ等を扱う不快な作業から解放され、手袋に耐切創機能を付加することで、隅刈り時や詰まり除去に扱う鎌による事故防止にもつながると期待されます。各種のセンサや磁性体の利用可能性について選定した結果、最終的には磁気センサとして磁心コイル、磁性体としてプラスチック磁石を利用することとしました。
さらに、自脱コンバインは、フィードチェーンや挟やく桿など様々な部品で磁性体である鉄が使用されているため、これらが動作することで磁心コイルに起電力が発生し、ノイズの要因となります。そこで、挟やく桿については、磁性のないステンレスに変更することでノイズを低減するとともに、ステンレスへの変更が困難なフィードチェーンについては、磁心コイルを複数個用いてノイズを打ち消すように配置することでノイズが低減できることを確認しました。
なお、自脱コンバイン実機に組み込んだ時の作業性等の結果については次報以降に掲載予定です。
引用:農林水産省、2023、令和3年の農作業死亡事故について
https://www.maff.go.jp/j/press/nousan/sizai/230210.html