ムギ類の種子生産における黒節病管理技術
要約
ムギ類黒節病の防除には、種子消毒剤2剤、生育期散布剤1剤による薬剤防除、ハウス栽培、遅播き栽培による耕種的防除が有効である。これらの組み合わせにより、種子生産の段階に応じた防除体系が構築できる。
- キーワード: ムギ類黒節病、薬剤防除、ハウス栽培、遅播き栽培、種子検査
- 担当: 中央農業研究センター・病害研究領域・病害防除体系グループ
- 代表連絡先: 電話 029-838-8481
- 分類: 普及成果情報
背景・ねらい
麦類黒節病は春先の気温が高く雨の多い日本に特有の病害である。本病は病原細菌の種子伝染が主な発生源であるが、圃場での二次伝染や種子への感染時期等の防除上重要な知見が乏しく、また、麦類は小麦と大麦の皮麦と裸麦の違いにより種子消毒の効果や薬害の程度が異なるため、効果的な種子消毒法や耕種的防除手法が開発されていなかった。このため、度々大発生して甚大な被害を引き起こしており、近年では採種圃場での発生が増加し、種子の安定供給を図る上で重大な問題となっている。そこで、すべての麦種に適応した種子消毒法を開発するとともに、種子伝染を抑えるための圃場管理技術を開発する。
成果の内容・特徴
- 金属銀水和剤(シードラック水和剤)の20倍液10分間浸漬、1%湿粉衣、および塩基性硫酸銅水和剤(Zボルドー)の1%湿粉衣は、小麦と大麦のいずれに対しても薬害がなく、黒節病に対して防除効果を示す(図1)。
- 止葉抽出期以降の塩基性硫酸銅水和剤(Zボルドー)500倍3回散布は、茎葉での発病を軽減する。また、穂揃期以降に2回以上散布すると、黒節病菌の種子伝染を抑制する(表1)。
- ハウス栽培、標準播種時期の1か月程度の遅播き等の耕種的防除手法は黒節病の発生を減少させる(データ省略)。
- 薬剤防除及び耕種的防除手法の組み合わせにより、黒節病の発生を1%程度以下に抑制できる。また、防除手法の組み合わせを変えることで、種子生産の段階に応じた防除体系を構築できる(図2)。
普及のための参考情報
- 普及対象: 都府県の試験研究機関、種子生産公社、種子生産農家
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等: 北海道、東北、沖縄県を除く39都府県の原原種、原種を含む採種圃場2,000ha。
- これらの成果を取りまとめた黒節病管理技術はマニュアルとして公開されている(図3)。
- 金属銀水和剤(シードラック水和剤)は黒節病防除効果が高いが高額であり、塩基性硫酸銅水和剤(Zボルドー)は効果が劣るが安価であるため、使用する種子の黒節病菌保菌率や使用面積に応じて選択できる。
- 塩基性硫酸銅水和剤(Zボルドー)の散布剤としての小麦への使用は種子生産圃場に限定される。
- 新規開発した高精度の黒節病保菌粒率検査法を用いて生産種子を調べることで、次作での種子生産栽培において効果的な防除手法を選択することができる(詳細はマニュアル参照)。
具体的データ
その他
- 予算区分: 交付金、競争的資金(農食事業)
- 研究期間: 2013~2016年度
- 研究担当者:
井上康宏、上松寛、青木一美(茨城農研)、島田峻(茨城農研)、横須賀知之(茨城農研)、西宮智美(茨城農研)、酒井和彦(埼玉農技セ)、庄司俊彦(埼玉農技セ)、橋爪不二夫(三重農研)、藤田絢香(三重農研)、山川智大(三重農研)、田畑茂樹(三重農研)、黒田克利(三重農研)、森充隆(香川農試)、西村文宏(香川農試)、河田和利(香川農試)、吉岡陸人(山口農林総セ)、鍛治原寛(山口農林総セ)
- 発表論文等:
1) 酒井ら(2016)関東東山病害虫研報、63:8-13
2) 酒井ら(2016)関東東山病害虫研報、63:14-17
3) 島田ら(2016)関東東山病害虫研報、63:6-7
4) 田畑ら(2016)関西病虫研報、58:103-106
5) 農研機構(2016)「黒節病などの種子伝染性病害に注意しましょう」 (2016年10月1日)