東海において秋播性小麦品種「さとのそら」の早播栽培は凍霜害の危険性が低い

要約

東海において、秋播性の小麦品種「さとのそら」の早播栽培(11月上旬播種)は、節間伸長開始期が遅く、早春の凍霜害の危険性が低い。「さとのそら」は標準播栽培(11月中旬播種)に加えて早播栽培が可能であり、春播性品種に比べて播種適期が長い。

  • キーワード:小麦、秋播性、早播、節間伸長開始期、凍霜害
  • 担当:中央農業研究センター・生産体系研究領域・東海輪作体系グループ
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

温暖地において、小麦(Triticum aestivum L.)の播種は、降雨に影響されるため、生産者の作付規模の拡大に伴って、長期間にわたる傾向がある。しかし、早播過ぎる場合、節間伸長開始期が早まって(幼穂が地上に早く現れて)、早春の凍霜害によって減収する危険性が高い。一方、遅播過ぎる場合、出穂期・成熟期が遅れて、梅雨の穂発芽によって品質低下する危険性が高い。したがって、小麦の安定生産のためには、小麦品種の播種適期を明らかにすることが重要である。春化は平均気温が10°Cを超えると抑制される(中条1966)ことから、低温要求性の大きい秋播性品種の早播栽培は、出芽後の気温が高い期間は春化が抑制され、幼穂形成始期および節間伸長開始期は早まらず、早春の凍霜害の危険性は高くないと推察される。そこで、東海で普及が進んでいる秋播性の新品種「さとのそら」について、東海で栽培されている春播性と秋播性の品種ならびに春化反応性遺伝子の準同質遺伝子系統と発育ステージの早晩性について比較を行い、11月上旬の早播栽培の可能性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 低温要求性の小さい春播性品種「ニシノカオリ」の早播栽培は、出芽後の気温が高い条件(2014年播)では幼穂形成始期および節間伸長開始期が早まり、早春の凍霜害の危険性が高い(図1、図2AB)。一方、低温要求性の大きい秋播性品種「さとのそら」の早播栽培は、出芽後の気温が高くても幼穂形成始期および節間伸長開始期が遅く、早春の凍霜害の危険性が低い(図1、図2AB)。
  • 秋播性品種「さとのそら」と同程度の低温要求性をもつ秋播性品種「農林59号」における春化反応性遺伝子の準同質遺伝子系統の早播栽培は、低温要求性が大きいほど、幼穂形成始期および節間伸長開始期が遅く、早春の凍霜害の危険性が低い(図2CD)。
  • 早播栽培における春播性と秋播性の品種・系統の茎頂発育ステージは徐々に収束し、出穂期について春播性と秋播性の品種・系統間の差異は小さい(図2ABCD)。
  • 東海において、秋播性品種「さとのそら」は、標準播栽培(11月中旬播種)に加えて早播栽培(11月上旬播種)が可能であり、春播性品種に比べて播種適期が長い。

成果の活用面・留意点

  • 東海の平坦部において「さとのそら」を導入する場合に活用できる。
  • 本成果は、三重県津市の水田輪作圃場(農研機構・野菜花き研究部門の近隣の水稲後圃場、礫質黄色土)において小明渠浅耕播種機で播種し施肥基準に準じて栽培した結果である。

具体的データ

図1 栽培期間の気温と日長時間;図2 小麦の品種と準同質遺伝子系統の早播栽培における茎頂発育の経時的推移

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2013~2016年度
  • 研究担当者:谷尾昌彦、建石邦夫、中園江、渡邊和洋
  • 発表論文等:Tanio M. et al. (2016) Jpn. J. Farm Work Res. 51(1):1-9