イノシシ水稲被害発生の度合いには、林縁からの距離や電気柵の正しい設置、草刈り状況などが影響する
要約
千葉県内の水田1540か所でイノシシ被害と対策、水田の立地を調べ、被害の程度に寄与する要因を分析したところ、環境要因では水田が林縁から近いことが最大の被害発生要因である。被害対策では電気柵の正しい設置、水田周囲の草刈り等で被害が減少する。
- キーワード:野生動物、鳥獣被害、イノシシ、被害対策、被害発生要因
- 担当:中央農業研究センター・虫・鳥獣害研究領域・鳥獣害グループ
- 代表連絡先:電話 029-838-8481
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
近年野生動物による農作物被害が深刻化しており、各地でイノシシの分布や被害が拡大している。被害対策を効果的に実施するためには、イノシシ被害発生の増減に寄与する各種要因を定量的に把握することが必要となる。被害発生要因には大きく分けて農場の立地など環境的な要因と、被害対策の内容や実施方法など被害対策上の要因が考えられる。本研究では、被害発生地域で多数の水田を調査して、被害発生と水田の立地、被害対策実施状況との関係を分析することで、イノシシによる水稲被害の発生に影響する要因を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 千葉県内の被害発生地域内の水田1540か所でイノシシの被害面積割合(%)を調査し、水田の立地環境および各被害対策の実施状況(図1)との相関を分析すると、被害程度との相関が最も大きい環境要因は、水田の林縁(山際)からの距離であり、林縁に近い水田では被害が多い(図2)。同じく人口が少なく、河川から近く、地上開度の小さい(見通しの悪い)場所でも被害が多い。
- 被害対策要因としては、電気柵を正しく設置し、草刈り等の管理を行っている水田では被害が少ないほか、イノシシに対し目隠し効果があるトタン波板の設置にも被害低減効果が見られる。また、水田周囲の草刈りを定期的に行うだけでも、有意な被害低減効果がある。それ以外の対策には、千葉県の丘陵地域においては、有意な効果は見られない。
成果の活用面・留意点
- イノシシ被害対策の指導・研修等を行う際の参考情報として活用できる。
- 千葉県の丘陵地帯で2009年に実施した調査に基づく成果であり、その後調査を継続して結果が正しいことは検証済みだが、環境の異なる他の地域では被害対策の効果などが異なる可能性がある。
- 本研究成果を活用した、イノシシの潜在的な被害発生リスクの計算およびリスクマップ作製の手法については、過年度に普及成果情報「農業共済の被害資料等の既存情報を用いたイノシシ農業被害発生リスクマップ」(2011年)として公表済である。
- 「電気柵の正しい設置方法」には、電線を地表から20cm、40cmの高さに張る、地表が平らでない場所には支柱を追加するなどして大きな隙間ができないようにする、支柱を圃場の内側に設置することなどが含まれる。詳しい設置方法については、農林水産省のHPから入手できるマニュアル「【改訂版】野生鳥獣被害防止マニュアル?イノシシ、シカ、サル 実践編 ?平成26年3月版」などに詳しい説明がある。また、草刈りについては、草が電線に触れないように短く刈ることが重要である。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2012~2016年度
- 研究担当者:百瀬浩、松村広貴(千葉農総研セ)、植松清次(千葉農総研セ)、河名利幸(千葉農総研セ)、三平東作(千葉農総研セ)、斎藤昌幸(東京農工大)
- 発表論文等:Saito M. et al. (2011) Crop Protect. 30:1048-1054 doi:10.1016/j.croppro.2011.02.017