高能率水田用除草機を活用した水稲有機栽培体系

要約

高能率水田用除草機を活用した水稲有機栽培体系では、3回の機械除草を適期に行うことなどにより8割以上の雑草が除去でき、慣行栽培の9割程度の収量が得られる。本田除草に係る労働時間は10アール当たり約4時間で、60kg当たりの費用合計は慣行栽培の3割増となる。

  • キーワード:有機栽培、水稲、高能率水田用除草機、耕種的雑草防除法、経済性評価
  • 担当:中央農業研究センター・生産体系研究領域・作物栽培グループ
  • 代表連絡先:電話 029-838-8522
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

化学合成農薬や化学肥料を使用しない有機農産物に対する消費者ニーズが高まっている。水稲の有機栽培では、慣行栽培に比べて労力がかかり収量が不安定であるなどの課題があり、主な技術的要因は雑草対策である。この課題を解決するため、農研機構ではみのる産業などと共同で高能率水田用除草機を開発した(2014年度普及成果情報)。本機は、2015年から市販化されているが、導入した生産者の中には十分な除草効果や収量が得られないなどの事例が見受けられる。また、経営的な視点からの評価が行われていないため、除草機の導入や有機栽培への転換に踏み切れない生産者も多い。
そこで、本研究では現地実証試験により、高能率水田用除草機と耕種的防除技術を組み合わせた雑草対策を中心に、圃場選びや育苗から収穫後の圃場管理までの最新の有機栽培体系の雑草防除効果や収量性を提示する。また、生産者が本体系を導入する際の参考になるよう、経営調査に基づき経済性(生産費や労働時間)を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本体系は、品種の選定、中~成苗育苗、雑草防除、肥培管理、病害虫防除などを適確に実施することにより成立する(図1)。雑草防除は、代かきを移植前2日以内に行うとともに、高能率水田用除草機による1回目の除草作業は、苗が活着してから数日以内(移植から7日以内)に行い、その後は7~10日おきに計3回実施する。また、中干し期までは地表面が露出しないよう深水管理(水深10cm以上を推奨)を組み合わせる。
  • 上記の雑草防除法により、移植6週後(幼穂形成期頃)と収穫期ともに、対無除草区比で8割以上の雑草が除去できる(図2)。
  • 本体系(有機実証体系)では、慣行栽培に比べ穂数が少ない傾向にあるが、坪刈り収量は慣行栽培と同等である。圃場全体の収量は、除草機が旋回する枕地部分の欠株や残草の影響などがあるため、慣行栽培の9割程度となる(表1)。有機栽培の収量は慣行栽培の約75%(2014年有機農業基礎データ作成事業報告書)であることから、本体系により収量が10%程度向上する。
  • 本体系の本田除草に係る労働時間は、収穫期の手取り除草などを含め10アール当たり4時間程度であり、既存の有機栽培(11時間)に比べ半分以下となり省力的である(表2)。
  • 生産費用は慣行栽培より高いものの、60kg当たりの費用合計(19,300円)は慣行栽培の3割増程度となる(表2)。無農薬米や有機米の現状の販売価格(慣行栽培の7~8割増)が維持されれば、本体系が有利性をもつ。
  • 上記をとりまとめた「高能率水田用除草機を活用した水稲有機栽培の手引き」には、本体系の技術的ポイント、経済性の評価結果や導入事例を掲載するとともに、これまで実施した研修会などで質問が多かった事項についてQ&Aで分かりやすく解説している。

普及のための参考情報

  • 普及対象:水稲の有機栽培を実施中または新たに実施したい生産者、普及指導機関など。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国を対象に本体系の中核となる高能率水田用除草機を令和4年度には300台以上普及(普及面積600ha:水稲の有機栽培面積の10%以上)。除草機は4条、6条、8条タイプが販売されており、価格は180万円~230万円(税込み定価)。
  • その他:除草機は深水管理ができる定型圃場で使用すること。手引きに記載された各項目(技術)の詳細が知りたい場合は「水稲の有機栽培技術マニュアル」(2015年普及成果情報)を参照。(Webページは随時更新中)

具体的データ

図1 高能率水田用除草機を活用した水稲有機栽培体系,図2 除草作業後と収穫期の雑草乾物重,表1 有機実証体系と慣行栽培の収量、形質及び収量構成要素,表2 実証経営における10アール当たり生産費用等

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:
    三浦重典、島義史、吉田隆延、宮武恭一、上西良廣、野副卓人、内野彰、石崎摩美、石島力、世古智一、田澤純子、安本知子、浦嶋泰文、早川宗志(ふじのくに地球環境史ミュージアム)
  • 発表論文等: