水田土壌のカリ収支を踏まえた水稲のカリ適正施用指針
要約
稲わら還元(鋤込み)がされており交換態カリが20mg K2O/100g以上の低地土水田では、水稲のカリ施肥を標準の半量にできる。稲わら還元と併せて牛ふん堆肥1t/10aが施用される場合、当作のカリ施肥を省略できる。
- キーワード:水田、カリ収支、減肥指針、用水、稲わら、堆肥
- 担当:中央農業研究センター・土壌肥料研究領域・土壌診断グループ
- 代表連絡先:電話 029-838-8877
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
肥料三要素の一つであるカリは原料を全て輸入に依存しており、カリ肥料の適正施用は生産コストの削減と食料安定供給の上で重要である。多くの都道府県で水稲のカリ施肥基準量は8~11kg K2O/10a程度に設定されているが、無カリ栽培でも収量や品質に影響がないことが多く、施肥基準を低く見直せる可能性がある。ただし見直しにあたっては、用水からの供給などカリ収支をより詳細に把握する必要がある。そこで本研究では山形、新潟、三重、宮崎、鹿児島の各県の低地土水田でカリ減肥栽培を継続し、水稲の収量・品質への影響とカリ収支を解明する。併せて用水、稲わらや堆肥からのカリ供給を評価し、水稲への適正なカリ施用指針を提示する。
成果の内容・特徴
- カリ施肥を標準の半量~ゼロで4作栽培しても水稲の収量に明確な影響はなく(図1)、タンパク含量など品質も標準施肥と変わらない(図表略)。
- 用水のカリ濃度は概ね1.5~3.5mg K2O/Lの範囲で、集約的な畑作・園芸・畜産が行われている宮崎県と鹿児島県では3.0mg K2O/L以上の用水が多い。水田に流入する用水のうち、土壌中を縦方向に下方浸透する水の割合は3割以下で、残りは畦畔等から流出する。用水量2000t/10a、カリ濃度2.5mg K2O/L、縦浸透割合30%の場合、用水による供給量は1.5kg K2O/10aとなる。
- 水稲作のカリ収支(図2左)には稲わら還元(鋤込み)の有無が大きく影響し、稲わらを持ち出す場合は10~20 kg K2O/10a程度のカリ収奪となって、土壌の交換態カリも減少する(図2右)。稲わら還元を前提とし、用水からの供給が溶脱を差し引いて0.3~1 kg/10aあれば、慣行施肥の半量3~4 kg/10aの施用でカリ収支は概ね均衡またはプラスとなる。また牛ふん堆肥1 t/10aの施用で10 kg/10a以上のカリが投入される。
- 研究参画の各県が提示したカリ施肥指針案と、それぞれの根拠(考え方)は表1のように整理される。山形県、新潟県、三重県では交換態カリ量のレベルに応じて、カリ収支を踏まえ指針案を策定している。宮崎県と鹿児島県ではカリ収支と交換態カリの年次変化データを踏まえ、交換態カリレベルによらない指針案(有機物資材施用の有無に基づく)を策定している。これらを概括し、低地土に広く適用しうる指針として「稲わら還元を前提とし、交換態カリが20 mg/100 g以上の水田ではカリ施肥を標準の半量にできる。稲わら還元と併せて牛ふん堆肥1 t/10aが施用される場合、当作のカリ施用を省略できる。」を提示する。
- カリ減肥(半量)により、肥料費は表2のように1,056円/10aの削減が見込まれる。
普及のための参考情報
- 普及対象:水稲を対象とする普及指導機関。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国の低地土水田。令和元年の国内の水田面積240万haに水田の低地土割合(7割)を乗じると、対象面積は約170万haである。
- その他:土性が砂土(S)、壌質砂土(LS)、砂壌土(SL)のいずれかである土壌はカリ溶脱の懸念があるため、CEC(陽イオン交換容量)が12 cmolc/kg 以上ある場合を除き、本指針の対象としない。なお本指針は土壌の交換態カリ量の維持とカリ欠乏の回避を最重視し、減肥指針としては慎重なものである。各県で策定した指針案の詳細や根拠は施用指針の別冊の資料集に記載されており、施肥コスト削減が強く求められる場合や、南九州のように堆肥の供給が多く用水のカリ濃度も高い地域では、より積極的に減肥する宮崎県、鹿児島県の指針案も参考にされたい。なお本指針や表1の各指針案は水稲単作を前提とする。
具体的データ

その他