土づくりと減肥のための緑肥利用マニュアル

要約

緑肥の様々な効果を示すとともに、その導入による土づくりや減肥の方法を取りまとめたマニュアルである。緑肥の種類やすき込み時期等に応じた土づくり効果や肥料効果、収量への影響が推定可能となるため、収量を維持・向上させながら堆肥や化学肥料を減らすことで所得増につながる。

  • キーワード:緑肥、土づくり、減肥、すき込み、腐熟期間
  • 担当:中央農業研究センター・土壌肥料研究領域・土壌生物グループ
  • 代表連絡先:電話 029-838-8877
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

圃場への堆肥の投入が減少していることなどから、土づくりへの関心が高まっている。また、化学肥料の価格は高止まりして生産コストを押し上げている。緑肥は、施用にかかる労力や輸送コストの面で有利な有機物で、古くから作物の肥料として栽培されている。このため、緑肥を利用した土づくりと施肥削減が期待されている。
そこで、各種の緑肥を導入した様々な体系において、緑肥による土づくりと減肥の効果や収量への影響を定量的に明らかにし、その有用性や留意点などをまとめて、緑肥の利用マニュアルとして公開する。

成果の内容・特徴

  • 本マニュアルでは、まず、緑肥のもつ様々な効果を示す。緑肥は、有機物補給による土壌の団粒化や根伸長による下層土の硬度・透水性の改善等により、土づくりに役立つ。また、根粒による窒素固定や溶脱養分の吸収による養分の蓄積、有機物補給による有用生物の活性化は、いずれも減肥に役立つ。さらに、有害生物の制御や土壌侵食の防止などにも効果が期待できる(図1)。
  • このうち、土づくりに重要な有機物補給に関しては、すき込んだ緑肥の炭素分解率を牛ふん堆肥と比較することで、緑肥の土壌への炭素蓄積効果が牛ふん堆肥の何トンに相当するのかを求め、それを指標に、様々な緑肥の有機物蓄積効果を定量的に示している(図2)。
  • 肥料効果については、緑肥を栽培してすき込む区と緑肥を栽培しない区を設け、それぞれに、施肥量を変えて主作物を栽培することにより、緑肥の導入によって、次の作物の収量を減らさずに、施肥量をどのくらい減らすことができるのかを評価している(図3)。
  • こうした評価に基づき、緑肥の有機物蓄積効果に相当する牛ふん堆肥の施用コストと減肥で削減される施肥のコストを差し引き、緑肥導入でかかり増しになる種子代などの費用や収量の増減の影響を加味して所得への効果を示している。これにより、本マニュアルでは、ソルガム、エンバク、ライムギ、ヘアリーベッチ、クロタラリアを緑肥として各地に導入し、所得を増やしつつ、土づくりと主作物の減肥栽培を行う技術を、そのメリットとともに紹介している(表1)。
  • 緑肥の肥料効果と有機物蓄積効果は、緑肥作物の種類やすき込み時期によって異なる。本マニュアルでは、緑肥導入にあたっての重要なポイントとして、緑肥の選び方、栽培方法、すき込み適期とすき込み方法、腐熟期間などについて、緑肥作物ごとに示されている。

普及のための参考情報

  • 普及対象:野菜などの栽培地域の試験研究機関、普及指導機関、生産者等。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:主作物を栽培しない期間がある作付体系であれば、実証試験を行った7道県のみならず、全国の野菜産地などで適用可能。
  • その他

具体的データ

図1 緑肥の様々な効果,図2 緑肥ソルガムと同量の有機物を土壌に蓄積させるのに必要な牛ふん堆肥の量(千葉県の例),図3 ヘアリーベッチの導入と減肥(窒素・リン酸・カリ50%減肥)がスイートコーンの収量に及ぼす効果(山梨県の例),表1 検討した緑肥の導入事例ごとの栽培暦と導入のメリット

その他

  • 予算区分:委託プロ(収益力向上)
  • 研究期間:2015~2019年度
  • 研究担当者:
    唐澤敏彦、塚本崇志(千葉農林総研)、佐藤孝(秋田県立大)、渋谷允(秋田県農試)、中川進平(秋田県農試)、立花正(雪印種苗)、和田美由紀(雪印種苗)、清水マスヨ(長崎県農技開セ)、井上勝広(長崎県農技開セ)、五十嵐総一(長崎県農技開セ)、長坂克彦(山梨県総農技セ)、五味敬子(山梨県総農技セ)、関口雅史(栃木県農試)、出澤文武(長野県野花試)、鮎澤純子(長野県野花試)、辻正樹(愛知県農総試)、森下俊哉(愛知県農総試)
  • 発表論文等: 農研機構(2019)「緑肥利用マニュアル-土づくりと減肥を目指して-