漏生イネの発生低減に効果的な石灰窒素散布後の不耕起期間

要約

石灰窒素散布当日に耕起をすると石灰窒素による漏生イネの発生抑制効果は得られない。日本海側積雪地域では石灰窒素50kg/10aを散布後、少なくとも2~3週間は湿潤な不耕起状態を保つことで石灰窒素による漏生イネの発生抑制効果を発揮させることができる。

  • キーワード:水稲、飼料用、漏生イネ、石灰窒素、耕起時期
  • 担当:中央農業研究センター・水田利用研究領域・北陸作物栽培グループ
  • 代表連絡先:電話 025-526-3237
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

食料自給率の向上、水田の高度利用等の観点からイネホールクロップサイレージや飼料用米の生産が奨励され、単収を高めるために多収品種の利用が推奨されている。しかし、多収品種の作付け後に食用品種を作付けると多収品種由来の漏生イネが発生することがあるため、食用品種を飼料用向けに作付けている事例が多い。したがって、多収品種の普及促進には漏生イネ対策が重要である。
石灰窒素に含まれるシアナミドは水稲種子の休眠覚醒効果と発芽能力を低下させ死滅させる効果を持つ。多収品種収穫後の秋に石灰窒素を50kg/10a散布することで、東北日本海側地域では翌年の移植栽培における漏生イネの発生を6分の1以下に低減できることを明らかにしている。一方、十分な効果を得られない事例もあることから、石灰窒素を漏生イネ対策に安定して活用する方法を明確化する。 。

成果の内容・特徴

  • ポット試験で多収品種「ふくひびき」および一般食用品種「萌えみのり」の種子を土壌表面に播種して石灰窒素を散布し、適宜散水しながら3~20日経過後に石灰窒素、種子および土壌を混和して出芽させると、混和までの日数が長いほど出芽率が低下する(図1)。一方、石灰窒素散布直後の混和や乾燥条件では出芽が抑制されない。
  • 圃場に種子を散播することで疑似的な脱落籾を作出した試験では、50kg/10aの石灰窒素を散布し、その直後に耕起すると、漏生イネの苗立率は石灰窒素散布なしと同程度であり、石灰窒素による漏生イネの発生抑制効果が得られない(表1)。
  • 圃場試験において、多収品種「たちじょうぶ」、「タカナリ」も供試し、石灰窒素を散布してから2~3週間後に耕起すると、漏生イネの苗立ち率は石灰窒素無処理もしくは石灰窒素散布直後の耕起処理と比較して、品種込みで14分の1~5分の1に低下する(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 漏生イネ対策技術として石灰窒素の効果を十分に発揮させる重要な留意事項として周知する。
  • 本成果は、多雪の東北日本海側地域である秋田県大仙市の東北農業研究センター大仙研究拠点圃場(北緯39°29'・東経140°29'、標高30m、細粒褐色低地土)において、稲わら残渣を取り除いた試験結果に基づく。
  • 稲わら残渣が存在すると石灰窒素の効果は半減することを示唆する結果が得られており、〔その他〕に記載の発表論文を参照されたい。漏生イネの発生抑制効果は春季の石灰窒素散布より秋季の石灰窒素散布の方が高く、秋季の散布を推奨している(2014年度研究成果情報)。
  • 石灰窒素を散布した後作では窒素施用量を控える必要があり、減肥の程度については〔その他〕に記載のマニュアルを参照されたい。
  • 本研究で用いた粒状石灰窒素(カルシウムシアナミド55%、窒素分20%)50kgの価格は約7,500円である。

具体的データ

図1 石灰窒素散布後の種子と土壌の混和時期が出芽に及ぼす影響,表1 石灰窒素散布の有無と耕起までの日数が漏生イネの苗立ち率 (%) に及ぼす影響,表2 石灰窒素散布後の耕起までの日数が漏生イネの苗立ち率 (%) に及ぼす影響,

その他