早播の秋播性小麦品種「さとのそら」における高収量の集約的生産体系

要約

秋播性小麦品種「さとのそら」を早播し、高窒素の追肥重点施肥、麦踏み、倒伏軽減剤エテホン散布および葉殺菌剤メトコナゾール散布を行う集約的生産体系である。東海において、凍霜害と穂発芽を回避することができ、倒伏と葉病害を軽減し、収量と品質が高く、費用対効果がある。

  • キーワード:小麦、早播、麦踏み、エテホン、メトコナゾール
  • 担当:中央農業研究センター・生産体系研究領域・東海輪作体系グループ
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

小麦の自給率を高めるためには、収量の向上が重要である。近年、ヨーロッパ北西地域の小麦は、集約的栽培によって、収量が飛躍的に向上している(イギリスにおける2013-2017年の10a当たり平均収量:822kg)。一方、東海地域の小麦は、低コストの省力的栽培が主流であり、収量が比較的低い(東海地域における2013-2017年の10a当たり平均収量:335kg)。そこで、東海地域における高収量の生産体系を開発するため、早播した秋播性小麦品種「さとのそら」において、高窒素の追肥重点施肥、麦踏み、倒伏軽減剤エテホン散布および葉殺菌剤メトコナゾール散布を行う集約的生産体系が農業特性と原粒品質に及ぼす効果を明らかにし、その経済性を評価する。

成果の内容・特徴

  • 秋播性小麦品種「さとのそら」(秋播性程度IV)を11月上旬に早播し(標準播:11月中旬)、高窒素の追肥重点施肥(基肥-3葉期-節間伸長開始期:10a当たり2-6-12kg)、倒伏軽減を目的とした麦踏みと植物調節剤エテホン散布、葉病害防除を目的とした葉殺菌剤メトコナゾール散布を行う集約的生産体系である(表1)。
  • 高窒素の追肥重点施肥条件では、登熟期間が長くなるため、標準播栽培は成熟期の遅延によって梅雨の穂発芽の危険性が高まる。しかし、秋播性小麦品種「さとのそら」を早播栽培することによって、節間伸長開始期は低温要求性によって遅く、成熟期は出穂開花の促進によって遅延しないため、早春の凍霜害と梅雨の穂発芽を回避することができる(表2)。
  • 麦踏みは稈長に影響なく倒伏を軽減し、エテホン散布は短稈化によって倒伏を軽減し、麦踏みとエテホン散布の組合せは倒伏軽減効果が高い(図1A)。メトコナゾール散布は収量に対して影響の大きい上位3葉の葉病害を軽減する(図1B)。
  • 集約的生産体系は、穂数、1穂粒数および千粒重の増加によって収量(10a当たり650kg以上)が高く、原粒品質も麺用品質基準を概ね満たし(表2)、費用対効果がある(表3)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、三重県津市の農家圃場において、水稲の早期栽培後に、小明渠浅耕播種機で播種栽培した結果である。2018年度の生育前半(2017年11月~2月)の気温は、平年に比べて低かった。
  • リン酸とカリは、土壌診断の結果に基づいて節減する。
  • 麦踏みは、降雨日から数日経過し、土壌表面が乾いた条件で行う。
  • エテホン散布は、上位2節間の伸長期にあたる穂孕み後期~出穂始期に行う。
  • 葉殺菌剤は、メトコナゾール以外の登録薬剤も利用できる。

具体的データ

表1 秋播性小麦品種「さとのそら」の集約的生産体系,表2 集約的生産体系と標準的生産体系の農業特性,図1 麦踏み、植物調節剤エテホンおよび葉殺剤メトコナゾールの倒状と葉病害に対する効果,表3 集約的生産体系の経済性評価

その他

  • 予算区分:交付金、理事長裁量経費(作物多収研究)
  • 研究期間:2015~2019年度
  • 研究担当者:谷尾昌彦、渡邊和洋、中園江、内野彰、水本晃那
  • 発表論文等:Tanio et al. (2019) Jpn. J. Farm Work Res. 54:209-223